33

「そっち、座っていいよー」

 

 俺とルルが近くに行けば、そう言って対面の席に座らされた。こんだけ混んでいるのに、椅子が二つ空いているのはなんでか? 理由は簡単。コイツもルルと同じく、避けられる側の奴だからだ!

 

「リッキーがまーた下級生にちょっかい出してるー!」

 

「うるさーいでーす」

 

 あら、違った?

 リッキーと呼ばれた少女を誂うように、背後に座っていた女子集団の一人が、声をかけていた。

 と、とももも、友達がいる、だと?

 ルルは、恥ずかしそうにモジモジしていた。

 

「ごめんね、急に声かけちゃって」

 

「いえ……」

 

「少し聞きたいことがあってさ、」

 

 少女が言葉を言い切ることは無かった。


 くぅ~るるるる…………。

 

 なぜなら、ルルの腹の虫が遮ったから。

 

「……………………ごめん、なさい」

 

「……うん、お腹空いてるよね。こっちこそごめんね」

 

 顔を真っ赤にして、蚊の鳴くような声で謝るルルを慰めるように笑い飛ばすリッキー。悪い奴では無い、のか?

 

「そっちの、えぇと、使い魔君は……」

 

「ゾンだ」

 

「ゾン君ね。ゾン君とお話ししてるから、ゆっくり食べてねー」

 

 小さな声でお礼を言ってから、ルルは食事を始めた。最初こそ、ちまちまとだったが、徐々に普段通りのスピードになっていく。

 

「で、ゾン君ってさ」

 

「あぁ」

 

「ゾンビであってる?」

 

「あぁ」

 

「その娘の使い魔?」

 

「あぁ」

 

「…………………………話しする気ある?」

 

「机の下の奴の相手で忙しいから、ちょっとまってくれ」

 

 リッキーが机の下を覗き込んだ。

 

「あ! コラーッ! ジンク、何やってるの!?」

 

 へぇ、ジンクっていうのか。俺が座ってからずっと、脚に巻き付いては腿に頭をスリスリしている蛇の骨のような魔物。俺が召喚された日にも見た気がする。

 顎の下をカリカリと掻いてやると、シャラララと骨を振動させて鳴いた。

 

「あんまり、怒るなよ。なぁ、ジンク」

 

「シャララ」

 

「うそーん……ワタシにだってそんなに、懐いてないのに」

 

 ついさっき、同じような言葉を聞いた気がする。

 おっと、上がってくるのはヤメてくれよな。今は隣で、俺のご主人様が食事中なんだ。

 

「使い魔がいるってことは、そっちも召喚術士なのか?」

 

「うん、そうだよ。そっちもだよね? っていうか、4年生であってる?」

 

「あってる、はず」

 

「んぐ、はい。召喚魔術科四年のルル=ベネティキアです」

 

「あっ、自己紹介まだじゃん! ワタシは、リッキー=フィヨルド! 地方貴族の三女! 五年生! ヨロッ!」

 

 なんとも元気のいい、それでいて簡潔かつ分かり易い自己紹介。

 

「それで、お前さんがジンクか。俺はゾン。よろしくな」

 

「シャーララー」

 

 こらこら。そんなに、すりすりするなって。くすぐったいだろぉ。

 

「いやぁ、まいったなぁ。初対面でそんなに、懐かれると、主人のワタシの立つ瀬がないよぉ。なんか、コツ? とかあるわけ?」

 

「そんなことが聞きたくて読んだ訳じゃ無いだろ?」

 

「うん。そうだね。ジンク、『こっちおいで』」

 

 ピタッと一瞬動きを止めてから、ジンクは机の下を通って、リッキーの方に行った。そして、リッキーを包むようにして、戸愚呂を巻いて立つ。

 

「単刀直入にいっちゃおうかな」

 

「あぁ」

 

 笑顔のまま、口の前で手を組むリッキー。不思議と威圧感があるな。まぁ、ナユタ先生に比べたら、屁でもないが。

 

「……ルルちゃん、可愛いよね」

 

 キリリとした表情でリッキーが言う。

 

「わかる」

 

 それに、迷わず同意する俺。

 

「えっ!?」

 

 驚くルル。

 

「前々から、可愛いいいいい!! って思ってたんだけどね。最近、ていうか君を見かけるようになってから、明るくなったっていうかさ」

 

「暗くてもルルは可愛いだろうが?」

 

「もっと、って意味」

 

「や、やめて、ください〜」

 

「それに、」

 

 指先で髪を弄りながら、少しだけ遠い目になるリッキー。

 

「ワタシも見ようによっては、黒髪って言われるから。それでも、頑張ってる娘は応援したくなるんだよ」

 

「リッキー先輩……」

 

 感動したように、ルルがリッキーの顔を見る。

 

「おぉ! 先輩呼び、いいね!」

 

 なんか、食いついた。机に身を乗り出して、ルルの頭をワシャワシャと撫で回し始めた。ジンクは呆れたような表情で、リッキーを見入るだけだ。

 

「わ? え!? り、リッキー、先輩!?」

 

 ひとしきり撫で回して満足したのか、席に戻ったリッキーは懐から一枚の紙を取り出してルルに差し出す。

 術符か?

 

「ルルちゃんには、特別にコレあげる」

 

 ルルが受け取ったそれを覗き込む。文字が書いてあった。読めん。

 

「放課後はだいたい被服室にいるから、気が向いたら遊びにおいで。じゃあね」

 

「あ、はい。ありがとうございました!」

 

 嵐のようにリッキーは去っていった。

 

「なんだったんだ?」

 

「さぁ?」

 

「その紙、なんて書いてあるの?」

 

「リッキー先輩の名前と、……『服飾クラブ(非公認

) 部長』って書いてます」

 

「服を作れるのか、あの人。凄いな」

 

 もしかして、頼み込んだらルルの服を作ったりしてくれるかも?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る