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「話せてますね。よかったですね。それでは」
すたすたとその場を去ろうとしたナユタ先生を呼び止める。
「いやいや、待てやコラ」
「は?」
「すいません」
調子に乗りました。そんな、顔しないでください。恐いです。
「すみません。でも、ゾンさんが急に喋れるようになったのってなんでですか?」
「貪食竜と戦ったした分、魔力が流れ込んで成長しただけですよ」
「でも、倒したのはナユタ先生です」
「留めを刺さずとも、多少なり戦えば恩恵はあります。特に生まれたばかりの使い魔なんて、その『多少の恩恵』で成長するには十分すぎますよ」
なるほど。つまり、貪食竜との戦闘は無駄じゃなかったと。
「やったな、ルル!」
「はい!」
「もういいですね。この後も仕事があるので」
「あぁ、悪いな呼び止めちゃっ、べ!?」
ナユタ先生に顎を掴まれた!
そこから、ミシミシと鳴っちゃいけない、音が、聞こえ、やめっ、あぁぁ、バキャキャッッッ!?
「ルルさん……」
「はいぃっ!」
「使い魔の躾は主の役目、そうですね?」
「はいっ」
「言葉を話せるようになったのなら、そこら辺の躾もするように」
「は、はいっ」
「以上」
「ぶべぇっ!」
地面に投げ倒された。顎はすぐに再生したけど、首ごと持っていかれそうになりなったぞ!?
なんて馬鹿力だ。
ナユタ先生を睨み上げれば、凍えるような目つきで睨み返された。また何かされるのかと、警戒するも、そのまま去っていく。
「ゾンさん、大丈夫でした?」
「あ、あぁ」
「ナユタ先生は、礼儀に凄く厳しいので、気をつけてくださいね」
「あいよ」
ったく。ピリピリしすぎだろ。
まぁ、気に止めるくらいはしておこう。また、ペーストにされるのも嫌だし。
学舎の方に戻ったルルが、その足で向かったのは食堂だった。風呂がどうのこうの言ってたが、結局、空腹には勝てなかったらしい。
時間的に生徒の数はピークに達しており、賑やかを通り越してうるさいまであった。
「うぅ~、やっぱりお風呂からにするべきでした」
「でも、腹減ってたんだろ? ならしょうがないって」
嘆くルルから背を押して、手を洗う列に並ばせる。ついでに俺も洗う。
今度は配膳の列に並ぶのだが……途方もないな。
「なぁ、あれって……」
「あぁ黒髪の……」
「ッチ、飯が不味くなる」
おぉ、おぉ、聞こえる聞こえる。
こうして並んでいると、ルルに向けられているであろう視線と陰口の数々。ルルは気づいて無い、わけが無いか。
というか、言っている奴らも、今までだって毎日のように見ていた癖によく飽きないよな。俺が来る前から、ずっとルルはここを利用していたらしいし、いい加減見慣れているだろうに。
そんな、成長しない先輩方(笑)には目もくれず、ルルは列から沿って緩やかに進む。
時折、横入りしようとした生徒と、それ拒む生徒の口論なども聞こえてくるが、幸いなことに俺達はまだ一回も遭遇したことはない。ルル曰く、「近づきたくもないってことだとおもいますよ」とのこと。
「ゾンさん、お願いします」
「あいよ」
渡されたお盆を、持って再び進む。
授業で、些細な頼み常日頃から聞かせることで、緊急時に命令は聞いてもらいやすくなると、教わってからルルが実践していた。
正直、効果があるかは半信半疑だったが、今日の貪食竜との戦いの最中に、俺に冷静さを取り戻させた命令。あれはもしかしたら、この訓練画像実を結んだ結果だったのかもしれない。
「……取り過ぎじゃないか?」
お盆を持って進むたびに、増えていく皿の数々。
「その、お腹、空いてて……」
まぁ、うん。そうだよな。腹空いてるよな。
食べられなかったときは……俺が食べれるか挑戦してみよう。
最後のスープコーナーでは、本日のスープである何かのポタージュを取ったが、お盆には乗り切りそうになかったのでルルが手に持った。
さて、次は座れるかどうかの戦いになる。
「場所、ありませんね」
「そうだなぁ」
「ご飯、冷めちゃいますね」
「俺が持つから立ったまま食べるか?」
「それは、流石に……」
「だよな〜」
お上品なルルにはできないよな。
しかし、どうしたものか。
「そこの! えぇと、黒髪のゾンビ連れの、え? 四年生?」
席を立ち、手を振る少女。片方で結んでいる濃い藍色の髪が、揺れる度に輝いて見えるのは、目の錯覚だろうか。
そして、明らかにこっちを見ている。
「ルル、」
ルルの方を見れば、ルルも不安そうな顔で俺を見上げていた。
知り合いではないらしい。クラスで見たことが無いし、ほんの少しだけ大人びて見えるから、上級生だろう。
「こっちおいで!」
ハツラツとした笑顔からは、悪意は感じられない。周囲の視線を期にする様子は、一切ない。
「どうする?」
「……行き、ましょう」
だよな。周囲からは既に見られており、ここで無視するようなことはルルにはできないよな。
何かあれば、そのときは俺が守ろう。
たくさんの料理が乗ったお盆を持って、俺とルルは少女の方へと向かった。
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