25 〜side ナユタ〜

「おつかれ」

 

 その声で目を開ければ、近寄ってくるヨウクの姿があった。爽やかな朝に、あまり見たくない光景だ。

 

「お疲れ様です」

 

 寄りかかっていた体を起こして、背伸びをする。

 

「これ、差し入れよ」

 

 手渡された紙袋の中には、サンドイッチと保温容器が入っていた。

 

「ありがとうございます」

 

「食べて食べて、自信作なの」

 

 保温容器を開けて、さっそくいただく。

 中身は卵のスープだった。まだ湯気がたっており、薫るごま油の匂いもあって、なんとも食欲を刺激される。

 

「どう? 順調?」

 

「えぇ、まぁ。召喚無視が、今のところ6人。想定の範囲内です」

 

「あら〜、今年は豊作かしら」

 

 召喚無視。それは、召喚術士がもっとも恐れる現象だ。

 召喚された魔物は、最初は皆一様に主人のことを慕う。

 しかしそれは、術式に組み込まれた刷り込みによるものでしかなく、時間が経つに連れて薄れていく。

 そうなると、どうなるか?

 

 召喚された魔物が、今度は自分の主として相応しい存在かを見極め始めるのだ。それに応えられずに、見放されると、使い魔であるはずの魔物側から、召喚を拒否するようになる。

 

「初めての使い魔相手なら、遅かれ早かれ通る道です。乗り越えて貰わないと話しになるません」

 

「フフフ」

 

「なんでしょう」

 

 なに、ニヤニヤ笑ってやがる。

 

「口ではそんなこと言ってる癖に、随分過保護だなぁって思って」

 

 はぁ?

 

「死なれたら、面倒なだけです」

 

「そうね。だから、森この全部を監視下に置いてるのよね」

 

「見ているのは、私ではなくこの子です。それを、私は少し覗いてるに過ぎません」

 

 何を言ってるんだ、まったく。

 たまには、伸び伸び力を使わせて上げるついでに、見てもらっているだけ。変な勘違いはしないでほしい。

 

「相変わらず、素直じゃ無いわね~。貴方のご主人様は」

 

 ヨウクが、私の背後に声をかけると、ザワザワと風も無いのに葉が揺れた。

 

「トレくん、同意しないで」

 

 クスクス笑うヨウクを他所に、私も頭上を見上げた。

 

『すまぬな、主殿よ。それより、子供たちは儂が見ておるからして、暫し休まれてはどうだ?』

 

「トレちゃん、悪いけどご主人様は、少し仕事があるから休めないわ」

 

『なんと』

 

「仕事?」

 

 今は授業中なので、勘弁して欲しいのだけど。

 

「学園長からよ」

 

 あぁー、聞きたくない。厄介事の臭いしかしない。

 

「地竜が侵入した。至急、対応求む。以上よ」

 

「他の……」

 

「他の先生方は、みんな授業中」

 

「ヨウ……」

 

「森の中なら、ナユタちゃん以上の適任はいないわ」

 

 逃げ道なんて、最初から無かったんだと悟って、スープを飲み干す。

 なんで、こんなにウマいんだよ。ムカつく。

 

「それと、これは個人的な興味何だけど」

 

「なんでしょう?」

 

「ルルちゃんたちはどう?」

 

「……可もなく不可もなくです。使い魔におんぶに抱っこには、ならないように努力はしているみたいですけど」

 

「そう」

 

 聞いといて、随分と薄い反応だ。

 ルルさんの使い魔が使っていた腕闘硬化。アレを教えたのは、おそらくだがヨウクだろう。生徒に教えることはしない癖に、なんで教えたのかは謎だが、もとより変なやつだ。気にするだけ無駄だろう。


 飲みきったスープの保温容器を地面に置き、サンドイッチを取り出す。

 はぁ、これを食べきったら動かないといけないか。

 

「それで、敵の情報は?」 

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