③天岩戸と神話と歴史の融合点



③天岩戸神話

 黄泉国から生還したイザナギは、黄泉の穢れを祓うために禊をした。体中を洗って、最後に右目、左目、鼻をすすいだところ、アマテラス、ツクヨミ、スサノオが生まれた(三貴神の誕生)。

 イザナギはアマテラスに高天原を、ツクヨミに夜の食国を、スサノオに海を与え、それぞれ統治するようにと言った。しかし、末っ子のスサノオはママのいる黄泉国に行きたいと言って泣くので、怒ったイザナギはスサノオを追放する。


 その後、スサノオは高天原を訪問する。アマテラスはスサノオが国を奪いに来たのだと警戒するが、そうではない事を証明するために「互いにうけひをして子供を生もう」と提案した。


 このうけひによって信用を得たスサノオは高天原に入るが、結局、そこでひと暴れした。田んぼに糞を投げ、機織り小屋に毛皮を剥いだ馬の死体を投げ入れた。


 この大暴れに嫌になったアマテラスが天岩戸と呼ばれる岩窟に閉じこもってしまった(天岩戸籠り)。

 すると、太陽が覆われ、世界は真っ暗になり、困った神々はどんちゃん騒ぎをしてアマテラスを引っ張り出そうと勘案し、結果、その作戦はうまく行って、世界には太陽が再び顔を出した。



 これが天岩戸神話である。アマテラスは天照大神であり、天皇直系の祖先として、日本の最高神とされる神である。太陽を司る神であり、女性神となっているが、男性神という説もある。


 彼女が引き籠る事で、世界から太陽が消えるわけだが、従来、これは日蝕を示すと言う説が一般的であった。しかし、ワノフスキーら火山神話説を唱える研究者は、たかだか数分で終わる日蝕で大騒ぎするのはおかしい、と主張する。

 これは私も同意見である。日蝕は不思議な光景ではあるものの、脅威や恐怖を感じる事はない。大噴火による火山灰の滞留が日光を遮ってしまったという説の方が信憑性があるように思う。


 鬼界カルデラ噴火で噴出した火山灰は九州四国地方には30cm降り積もり、西日本には20cmが積もった形跡がある。これは一瞬で降ってくるわけではなく、上空に滞留して、それが年月をかけて降ってくるのである。また、火山灰は気流に乗って、世界中に広がるため、他の地域でもうっすらと日光が遮られる状態となる。

 他の地域ではどれだけの日照量や気温が低下したかは分からないが、少なくとも西日本は昼でも暗いという状態であったと推測される。壊滅した九州四国地方はまさしく死の国となり、それ以外の地域でも火山灰の日照被害により、食糧危機を引き起こしたと推測する。

 

 日本の太陽信仰はおそらくここから始まっている。これまで当たり前のようにあった太陽の恩恵が失われ、食糧が激減したのである。もう一度、太陽の恩恵を得ようと太陽を「祭る」行為が始まった。縄文人たちは定期的に太陽を乞うお祭りをしていて、それが天岩戸神話になるのではないかと考える。


 それとスサノオについてだが、高天原で大暴れしたというのは、田んぼに糞を投げつけたり、機織り小屋に毛皮を剥いだ馬を投げ入れたりしたと記されている。これには堆肥農法や動物の毛皮を使う異民族の気配を感じないだろうか?

 

 ワノフスキーは日本神話と火山の関連性を指摘し、火山神とそれ以外の神に分けて考えていたようだが、この天岩戸神話の辺りから違ってくるのではないかと私は考えている。

 国生み、黄泉平坂はそれこそ7300年前から伝わる大災害の伝承である。ここには後世への警告が含まれており、ナギナミ以前の神代七代と呼ばれる神々は実在しない神であると考える。

 しかし、三貴神誕生以後は日本建国に直接繋がる伝承が含まれているのではないだろうか。

 アマテラスは旧来から日本に住んでいた縄文系民族であり、スサノオは渡来系民族であると考える。アマテラスがスサノオを警戒し、またスサノオが暴れた場面はそれを示しているのではないか。

 つまり、この三貴神以後、モデルとなった実在の人物がいたのではないかと考えている。



 ここまでアレクサンドル・ワノフスキーの古事記火山神話説と、古事記序盤の私見について書いた。

 鬼界カルデラ噴火は7300年前、日本建国は2600年前、古事記編纂は1300年前となり、しかも日本建国の少し前あたりまでは文字がないとされている。

 このワノフスキー説は数千年の間、口伝で破局噴火伝説を語り継がなくては成立しない。よって、私は以前まで疑わしいと考えていたのだが、後述するであろう飛騨口伝の存在により、口頭伝承が神話化し、そこに日本建国の歴史を混ぜたのだろうという考えに変わった。


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