第2話 これはどうやらとんでもない高校生活になりそうだ(前)
「悠介。おまえさんの今の状態を一言で表した言葉がある」太陽はしたり顔でそう言った。「そいつは幼稚園児からじいさんばあさんまで誰もが知っている簡単な日本語だ。いいか、心して聞けよ。それはずばり、恋だ」
“コイ”というその響きにくすぐったさを感じ、俺はすぐに言い返す。
「そ、そんなんじゃない。俺はただ『あなたと強い絆で結ばれている運命の女性がいる、もう出会っている』と占い師が言うから、ちょっと意識してクラスの女子を見るようになって、そのうち高瀬優里のことがなんだか気になるようになって、だんだん彼女の一つ一つの動作や表情から目が離せなくなって、彼女のことを考えるだけで胸が熱くなって……ただ、ただそれだけのことだ」
太陽はぷっと吹き出して、隣から俺の脇を小突いた。
「それを恋って言うんだよ!」
高瀬との屋上でのコンタクトから一夜明けた朝、俺は道中でばったり会った太陽と一緒に登校していた。濁りのないすっきりした空気がとても気持ちいい、春の朝である。
「きっかけはどうあれさ、悠介は高瀬さんに惚れちまったんだって」太陽は声を張って言う。「変な意地張らないで、認めちゃえって。『俺は高瀬に恋してんだー!』って」
「おい、大声で言うことじゃないだろ!」
俺は慌てて周囲を見やる。さいわい生徒の姿はまばらだった。
「だいたいな」と俺は気を取り直して言った。「おまえは面白おかしくしたいのかもしれないけど、こっちは真剣なんだ。なんせ俺の未来がかかってるんだ。占いを鵜呑みにしすぎだと言われればそれまでだけど、ここまで当たっているとなれば、もう信じないなんていう選択肢は俺にはない。誰だってそうであるように、俺も将来の幸せを願っている。そのためには運命の人、つまり“未来の君”と手を取り合って生きていくことが重要なんだ」
隣で太陽は肩をすくめる。「なんかずいぶんドライに聞こえるけど、それじゃあ高瀬さんのこと、好きじゃないのか?」
「え?」
「高瀬さんに誰かが告白して、付き合い始めたとして、悠介は何とも思わないか?」
それを想像すると、胸がぎゅっと鷲づかみされたように痛んだ。彼女が誰かと交際している姿なんて、考えられない。考えたくない。
「な、なんでそんなことを聞くんだよ?」
「いやな、悠介の口ぶりからすると、幸せのためなら――相手が“未来の君”なら――そこに気持ちがなくたって別にかまわないようにもとれるからさ」
「いや、そんなことはないけど……」
どうやら俺は土俵際まで追い詰められてしまったようだ。もうさすがに認めざるを得ないだろう。高瀬へのこの想いは――この一ヶ月俺を苦しめてきた熱病の正体は――恋であると。
最悪の中学時代を経て強烈な人間不信となり、人に恋をするなんて感情は長らく凍りついていたのだが、高瀬の存在が分厚い氷を溶かしてしまったらしい。
「わかったよ」と俺は開き直って言った。「認めるよ。認めりゃいいんだろ。好きだよ。俺は高瀬優里に恋してるよ」
「ははっ。最初から素直にそう言えばよいのだよ、神沢君」太陽は冷やかすように腕を肩に乗せてくる。「ダチとしておまえさんの恋を応援しようじゃないか。なんでも相談に乗ってやる」
「それじゃさっそく乗ってくれ」俺は腕を払いのける。「太陽、おまえの意見を聞きたいんだ」
「お、なんだい?」
「きのう高瀬はあることを変えたくて俺たちの仲間になりたいって言った。そのあることってなんだと問われて、彼女は『未来』と答えた。それはなぜだと思う?」
太陽は真剣な顔つきで考えた。
「オレも高瀬さんとまともに話したのはきのうが初めてだったし、思い当たる節はないけど、推測するにたとえばオレみたいに家が関係してる――とか?」
「高瀬の家って、なんかやってるのか?」
「はぁ!? 悠介、それ本気で言ってるのか?」
「そんなに驚くことじゃないだろ」
「いやいや、驚くっつーの。1年H組の生徒なら――いや、うちの高校の生徒なら常識だ、常識」
「顔の広いおまえと違って俺は交友関係がないから、そういう情報が入ってこないんだ」
「それにしたって、だよ」太陽は呆れたように言って、道路の向こう側を指さした。「ちょうど見えた。ほれ、アレだ」
そこにはとあるスーパーマーケットがあった。看板には「Takaseya」とある。
「え? タカセヤじゃないか。それがどうした」俺はようやくピンときた。「そうか! タカセ」
「そう」太陽はぱちんと指を鳴らす。「タカセヤのお嬢さんよ、彼女。父上が代表取締役社長だ」
タカセヤは市内に九店舗を展開するスーパーマーケットチェーンだ。この地域でスーパーといえばなんといってもこのタカセヤで、年配の人たちは親しみと敬意を込めて「タカセヤさん」なんて呼んでいたりする。
最近は市内にもライバル店が増えたので以前ほどの圧倒的存在感はないが、それでもタカセヤといえば市内では知らない人はいないほど、不動の地位を獲得している有名店である。
中学一年生の時から自炊しなければならない環境にあったせいで、高校一年生にしてすっかりこの街のスーパー事情に詳しくなってしまった。
「社長令嬢なのか、あの子」
俺は思わず嘆息する。
「どうした、ため息なんかついて」
「イヤミに聞こえたらすまん、太陽。なんだか医者の子とか社長の子とか、今更ながらうちの高校の生徒は生まれの良い子ばっかりだなと思ってさ。1年C組にはたしか市長の娘までいるんだろ? なんだか無性に肩身が狭く感じてな」
俺のように父親が放火犯だなんていう生徒は、鳴桜の歴史を紐解いてもそうそういないだろう。
「まぁなんだ。
大病院の御曹司は自嘲気味に笑うと、おほんと咳払いを一つして、話を本筋に戻した。
「高瀬さんが未来を変えたい理由。それはやっぱりタカセヤのご令嬢ってところに関係があるんだと思うぞ。そいつがどんなもんなのかは、本人に聞いてみないとわかんないけどな」
俺はきのう屋上で高瀬に言われたことを思い出していた。
「神沢君。君と一緒にいると、なんだか未来を変えられるような気がするの」と彼女はたしかに言った。
変えてやるよ、と俺は心で固く誓った。いや、占い師の言葉に従うならこっちの方がいいかもしれない。一緒に変えちまおう。俺の未来も、そして君の未来も。
♯ ♯ ♯
「まーたあっち見てる!」
睡魔が急に襲ってきた三限後の休み時間、眠気ざましのコーヒーを飲みながら高瀬の美しい横顔に見とれていると、前の席の柏木晴香が振り返ってきた。
「やっぱり優里だ。優里が気になるんだよね、悠介は」
「うるさいなぁ」俺はやむなく前に向き直る。「休み時間にどこを見ようが俺の勝手だろ」
柏木は厚かましく俺の手からコーヒーを奪った。
「だいたいなんで高校生でブラックを飲んでるわけ? 格好つけてんの?」
「うるさいなぁ」俺は缶を奪還する。「休み時間に何を飲もうが俺の勝手だろ」
しばらくそんな不毛なやりとりをしていると、見慣れない男子生徒が教室に入ってきた。彼は他の生徒には目もくれず一直線に高瀬の席へ向かった。それを見て柏木がぼそっとつぶやいた。
「しつこいねぇ、あの男も」
俺はドキッとする。「まさかあいつ、高瀬に交際を迫ってるのか?」
「そういうんじゃないの」と柏木は手を振って答えた。「あの人、演劇部の部長。優里を
「なんだ、ただの勧誘か」俺はほっとして、高瀬と部長の会話に耳を傾けた。
「高瀬くん。早いもので五月になったが今からでも遅くない。演劇部には君が必要だ。こうして部長みずから出向いているんだ。頼むから入部してくれないか?」
「すみません」と高瀬は苦笑して返した。「何度も誘っていただいてありがたいのですが、私は演劇には向いていませんので……」
「とぼけたって無駄だぞ高瀬くん」部長は退かない。「君が中学時代に文化祭で演じたジャンヌ・ダルクのその美しさと気高さたるや、市内の演劇関係者のあいだでは今でも語りぐさになっている。観に行った者に言わせれば中世フランスにいるのかと錯覚するほどだったそうだ。観客をタイムスリップさせる役者なんてそうはいない。君には才能がある。演劇部は君を待っている。さぁ決断を」
高瀬はとくべつ得意になるでもなく、依然として人工的な笑みを口元に浮かべていた。そして答えた。
「私は高校では部活に入らないと決めているんです。ごめんなさい」
部長は肩をすぼめた。「聞くところによればなんでも、吹奏楽部と書道部と弓道部の勧誘も断っているそうだね。なぜ君のような文武両道で多才な生徒がどの部活にも所属していないのだ? 宝の持ち腐れとはまさにこのことだ。これはもはや我が校の損失であると言ってもいい。それとも何か大事な課外活動でもあるのかい?」
「しいて言えば、勉強に集中したいんです」と高瀬は答えた。
それを聞いて柏木がくすっと笑った。「はぐらかすのも大変だねぇ」
「なぁ柏木」と俺は言った。「おまえは知ってるのか? 高瀬が部活に入らない本当の理由」
彼女はうなずいた。「たしか難しい顔でこんなこと言ってたな。『私が変えたいことは部活では変えられないから』って」
俺は息を呑んだ。高瀬が変えたいこと。それは
「望まない未来を変えることが私の課外活動なんです」と。
「そういえば、悠介も部活に入ってないね」と柏木は言った。「なんで?」
俺にはとりたてて得意なことがあるわけじゃないし、それにそもそも夜遅くまで居酒屋でバイトをしているから部活までやる余裕がない――というのが答えだが、校則違反をここで自白することもないので適当に茶を濁した。
「ちなみにあたしも部活はしてないの。どうしてだと思う?」
「さぁ?」
「ある課外活動で忙しくて」
「なにをしてるんだ?」
柏木は栗毛色の髪を色っぽく指に巻き付け、甘い声でささやいた。
「欲求不満なオジサマたちにお金をもらって……わかるでしょ?」
「マジかおまえ!?」俺はコーヒーを吹きそうになる。
「冗談だって!」柏木は無邪気に笑った。「ホンキにしないでよ、もう」
高校生離れした抜群のプロポーションにどうしても目が行く。
「おまえが言うと冗談に聞こえないんだよ」
一方、高瀬はといえば、依然として演劇部の勧誘をのらりくらりとかわしていた。困ってる困ってる、と高みの見物を決め込む柏木だけど、次に困るのは自分だった。一人の軽薄な男子生徒がこちらに近づいて来て、開口一番彼女にこう尋ねた。
「晴香ちゃんの好きな人って、誰なの?」
「な、なんなのよ、急に!」
「いるんでしょ、好きな人。だから9人に告白されてもみんな振ったんでしょ?」
「だっ」柏木の声は裏返る。「誰がそんなこと言ったわけ?」
「誰ってことはないけど、そういう噂だよ?」
「仮によ? もし仮にあたしに好きな人がいるとして、なんであんたが知りたがるのよ?」
「実はオレ、晴香ちゃんのこと狙ってるんだよね」とそいつは軽々しく言った。「ライバルがどんな男なのか、知っておきたいじゃん?」
柏木は面倒臭そうにため息をついた。
男子生徒は言った。「好きな男、この街の中にいる?」
「ノーコメントです」と柏木は言った。
「この鳴桜高校の中にいる?」
「ノーコメント」
「一年生の中にいる?」
「ノーコメント!」
「この1年H組の教室の中にいる?」
「ノーコメントって言ってるでしょ!」
「もしかしてこのオレだったりして!?」
「誰があんたみたいなチャラチャラした薄っぺらい男を好きになんのよ! あたしが好きなのはねっ――」
そこで柏木は失言に気づいたようだった。口を手で覆い、ノーコメントと言った。でももう遅かった。周囲の生徒たちがざわざわし始める。学園のアイドル・柏木晴香には間違いなく好きな男がいる。それが校内の話題をかっさらうのは時間の問題だろう。
休み時間の終わりが近づき、演劇部の部長も軽薄な男子生徒も去って行った。すると柏木は何を思ったか俺の缶コーヒーを無断で手にとり、あろうことか中身をすべて飲み干してしまった。
「何しやがる柏木!」と俺は抗議した。「まだ半分くらい残っていたのに!」
「あーもうむかつくむかつく! これが飲まないでやってられるかっての!」
そのあまりにも傍若無人な振る舞いに俺は怒りを通り越し、呆気にとられた。
「こいつは俺の“未来の君”ではないな……」
小さく独り言を言い、まだ眠気の残る目をこすると、四限目の教科書を机に広げる。
♯ ♯ ♯
その日の昼休み、俺は太陽から「サプライズがある」ということで旧手芸部室へ呼び出されていた。そこは1年H組のある教室棟一階からは校内でもっとも遠い実習棟三階の隅に位置するため、移動するだけで少し息が切れるくらいだった。でも途中でその姿が目に入り、疲れが一瞬にして吹き飛んだ。
「高瀬」と俺はそのうるわしい後ろ姿に声をかけた。
彼女は立ち止まって振り返り、優しく微笑んだ。
「神沢君。きのうはありがとう」
俺は彼女に追いついて首をかしげた。
「ありがとう?」
「ほら、仲間に入れてほしいっていう私のお願いを聞き入れてくれたから」
それについてはむしろこっちが礼を言いたいくらいだった。
「いろんな部活から引く手あまたの人気者の頼みとあれば、断れないよ」
「やめてよ」高瀬は照れ臭そうに手を振る。「それはそうと、葉山君は私のことを迷惑に感じてないかな?」
「なんでそう思うの?」
「だって元はといえば、葉山君が神沢君と親しくなりたくて始まった関係でしょ? そこに私が加わったら、邪魔じゃないかなって」
「大丈夫だと思うよ」と俺は言った。「高瀬も太陽に旧手芸部室に呼ばれたんだろ? それが仲間の一員としてみなされているなによりの証拠だ」
彼女はほっとしたようで、胸に手を当てた。「でもどうして旧手芸部室なんだろう?」
「きっと屋上の代わりなんだろう。きのう、働き者の風紀委員さんが校則違反ってことで屋上にいた俺たちをとがめたから、新しく集まれる場所が必要になったんだ」
その風紀委員は俺の前でバツが悪そうに目を伏せた。
「ごめんね。注意しないで見過ごした方がよかったかな?」
「そんなことはない。ちょうどよかったんだ。屋上じゃ雨風はしのげないし、冬は雪が積もって使えない。校舎の果てにあって誰も近づかない空き教室の旧手芸部室はアジトとしてうってつけってわけだ」
「アジト!」高瀬はとたんに目を輝かせる。「なんだか素敵。私たちだけの秘密基地って感じだね!」
「まぁ本当のところは太陽に聞いてみないとわかんないけどな。あいつがサプライズって言うからには、もっとすごいことかもしれない」
♯ ♯ ♯
高瀬といっしょに旧手芸部室へ入ると、道化のような男が現れた。派手な虹色のアフロのかつらをかぶり、やはり虹色の馬鹿でかいメガネをかけている。それが太陽だと気づくのに少し時間がかかった。
「よく来たおふたりさん!」と彼は芝居がかった声で言った。「さっそくですが問題です。この旧手芸部室にふたりを呼んだ理由はなんでしょうか。さぁレッツシンキング!」
「根城にするからだろ」と俺は考えるまでもなく即答した。
「今日からここが秘密基地なんだよね」と高瀬もシンキングせずに答えた。
ひとしきり沈黙がおりた。どこからか冷たい風が吹いてきそうな空しい沈黙だった。
「なんでわかった?」と太陽は言った。
「それくらいしか理由はないだろ」と俺は言った。
「あのよ。わかっちまってもよ、この格好を見たらわからないフリをするのが礼儀ってもんじゃねぇか」太陽はしょんぼりしてかつらとメガネをとった。「せっかく人がサプライズで拠点開きを祝おうと思ったのによ……」
高瀬が太陽の手を見て、耳打ちしてくる。
「葉山君、クラッカーまで用意していたんだ……」
「よっぽど俺たちに驚いてほしかったんだな……」
高瀬は太陽に哀れみを感じたらしく、やけに明るい声を出した。
「でもすごいよ、空き教室とはいえ自由になるなんて。本当に今日から私たちがここを使っていいの?」
太陽はうなずいた。
「生徒会に腐れ縁の顔なじみがいてな。そいつとしっかり話をつけてきた」
「さすが葉山太陽だな」と俺も負い目を感じて持てはやした。「おまえの人脈と交渉力は素直に尊敬するよ」
「そ、そうか?」彼はまんざらでもなさそうに鼻をかく。「とにかく、正真正銘今日からここがオレたちの拠点だ。空き教室だけあって今は殺風景だが、これからちょっとずつ必要に応じてモノを増やしていこう」
太陽の声に元気が戻ったところで、俺と高瀬は室内を観察してみた。
広さ自体はいつも授業を受けている教室よりはだいぶ狭い。半分もないかもしれない。それでも三人で過ごすにはじゅうぶんだ。もしあと二人くらいなら増えても窮屈はしないはずだ。
部屋の中央には木製の長テーブルがあり、その両サイドには三脚ずつ椅子が置かれている。ここで向かい合って腰掛け、黙々と編み物に勤しむ先輩たちの姿が思い浮かんだ。この部屋もまさか次の使用者が未来に困難を抱えた生徒だとは思わなかっただろう。
壁際には物置として使えそうなラックが備わっていて、手芸の解説書がほこりをかぶった状態で置き去られていた。高瀬はそれを手にとり、咳込みながらページをめくった。多才な彼女は手芸も得意なのだろうか。
あらかた見るべきものを見ると、俺と太陽はアイコンタクトをして長テーブルの左側に座り、高瀬を右側に座らせた。これではまるでなんだか面接みたいだが、実際に太陽は面接官のようにテーブルの上で仰々しく手を組み、あらたまった声を出した。
「さて高瀬さん。ようこそ、と言いたいところだけど、その前にオレたちには聞いておかなきゃいけないことがある」
俺も真剣にうなずいてテーブルの向こうの高瀬に声をかけた。
「高瀬はきのうこう言ったよな。私はこの高校生活であることを変えなきゃいけない。そのあることとは未来だって。それは間違いない?」
彼女は眉をひそめながらもゆっくり一度うなずいた。
「よっぽどのことだと思うんだ」と俺は続けた。「未来を変えたいから俺たちの仲間に入りたいだなんて。学校中の部活から勧誘を受けても断っているのだって、放課後の時間をその目的のために使いたかったからなんだろう? そこでぜひ教えてほしい。高瀬の未来にはいったい何が立ちはだかっているんだ?」
彼女は唇を噛んでうつむいた。しばらく待ってみたけれど、答えは聞けなかった。
「高瀬さん。現状じゃちょっとアンフェアというもんだぜ」と太陽が待ちくたびれたように言った。「高瀬さんはオレと悠介の裏事情をよーくご存じだ。その気になればオレを退学に追い込めるし、悠介を人間不信のどん底へ叩き落とすこともできる。ま、高瀬さんにかぎってそんなことはしないだろうがな。頼むから、どうか話してくれないか」
それを聞くと高瀬はゆっくり顔を上げた。
「そう、だよね……。私だけ二人の秘密を知っているなんてずるいよね。それじゃ仲間として受け入れてもらえない。わかった。話してみる」
俺は隣の太陽と顔を見合わせた。そして意識を集中し、次の言葉を待った。
「私ね」と高瀬は抑揚のない声で言った。「高校を卒業したら、結婚しなきゃいけないの」
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