第18話 魔王

Side:アルミナ・オルタネイト


「私、アルミナ・オルタネイトと言います。先ほどは部下を救って頂きありがとう存じます」

「どういたしまして。フローだ」


「ぶしつけですが、あなた様は特殊能力者ではございませんか」

「うーん、どうなのかな。分からん」


 心当たりはありそうですね。

 ただ、どういう能力かはっきり掴めてないのでしょう。


「この金貨は魔王の施しだ」


 土壁の向こう側から、子供の声が上がった。

 フローは照れ臭そうに頬をかいている。


「さっきの金貨は貴方が?」

「まあね。他に思いつかなかったから」


「魔王様でいらっしゃる?」

「いいや、浮浪児にそう呼ばれているだけだ」


 大当たりの日ね。

 魔王に接触できるなんて、思っても見なかったですわ。

 禍を転じて福と為すかしら。


「二つ名みたいな物でしょうか」

「まあね、今は」


 今はということはゆくゆくはということは。

 土壁ひとつ取ってみても、すでに冒険者のAランクぐらいの実力はありそうですわね。

 ああ、浮浪児が売っている呪符のことを聞きませんといけませんわ。


「浮浪児が売っている呪符ですが、呪符職人をたくさん抱えていらっしゃるのかしら」

「秘密だ」


「まあいいですわ。王都で売るようなことはしませんから直接、私達に卸して下さいませんか」

「断る。浮浪児を通すのは絶対だ」


「なんでですの?」

「貴族が信用できないからだ」


 私は脳内の貴族の名前と特徴を検索し始めた。


「そういう貴方も貴族ではありませんの。王族のお顔立ちが見受けられます。年齢と特徴が一致するのはバリアブル公爵家次男ですわね」

「ちっ、これだから特殊能力者は。とにかく出自も秘密だ」


「他言は致しませんわ。オルタネイトの名に誓って」

「まあ、お前達はまともそうな貴族だから、そこは信用するよ」


 フローは呪符を抜き取ると、それを起動して、土壁を消した。

 暴れている人はもういない。


「浮浪児から買った呪符を私達が転売するのは気にしませんの」

「人に売った物をどうしようとその人の勝手だ。ただ悪用するなら懲らしめるけど」


「ではこれからも浮浪児から買い上げると致します」

「あんた達の炊き出しのことは気に入っている。浮浪児に売る呪符の数を100倍にしてやろう」


「それはありがたい申し出ですわね」


 転売していると知って足元を見られた気分。

 いいえ、そっちが利用するなら、こっちも利用するってことですわね。


 彼を部下にほしいと思う反面、出自が邪魔ですわね。

 バリアブルとオルタネイトは不俱戴天の仇。

 ロマンス的には敵同士の家の男女が恋に落ちる。

 小説の読み過ぎね。


 フローが離れたので、暴動の負傷者を助けるように指示を出した。


「ソレノ、しっかりして」


 ソレノを揺さぶった。

 駄目ね。

 完全に死んでいる。

 ああ、良い子ほど神様は連れてってしまうのね。


 フローが来て、呪符を使うとソレノは目を開けた。

 良かった。


 フローは死んでいる者を全て生き返らせた。


「じゃあ、また」

「ごきげんよう」


 用は済んだとばかりにフローが去って行く。

 他の負傷者も助けないと。


「大丈夫ですか」

「うう」

「【マナを用いて彼の者の傷を癒せ】」


 私は怪我人の体に手を置いて魔法を使った。

 10倍詠唱を使ったので1秒も掛かりません。


「お嬢様、手が汚れます」

「汚れは洗えば落ちます。こういう時に動かないで何が貴族ですか」


「ありがたや、ありがたや」


 治療した人から拝まれた。

 やって当然のことよ。

 拝まれるほどではないわ。


 さあどんどん癒しますわ。

 私は貴族でも魔力量が多い。

 それにそれを補強するためにモンスター退治もやっている。

 10倍詠唱があれば大抵のモンスターにはやられません。


 生き返りの呪符の呪文はどうなっているのでしょう。

 しかし、文献では死んだ人間を生き返らせるのは100%とはいかないと書いてありましたわ。

 なんて凄い呪符なんでしょう。

 しかも何人も生き返らせたのに、フローは魔力切れを起こしませんでしたね。


 魔王の二つ名は伊達じゃないってことですか。

 さっきはロマンスと思いましたが。

 これでは私は引き立て役の一人に過ぎないようです。


 私の特殊能力も伊達ではないのですが、それを上回る能力です。

 生き返りの呪符を調べたい。

 うずうずしますわ。

 その知識の一端に触れたい。


 フローに弟子入りを言ったら断られるでしょうか。

 次の機会に言ってみましょう。

 大勢の人を助けたいからと言えば、たぶん気を悪くはしないはずです。


 負傷者は全員助けられたようね。

 これでオルタネイトの名前に傷が付かないで済みます。


「炊き出しの後始末をしたら撤収です」


 後片付けはしないといけませんから。

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