第19話 報われた

Side:アルミナ・オルタネイト


「あの、炊き出しのご飯美味しかったです。こんなことになって残念です。同じスラムの住人として情けない」


 そう言って片付けを一緒にやってくれる人達がいる。

 なんとなく少し報われた気になりました。


「みんな、こんなことになって悔しくないの。私は悔しい」


 カスミ草が声を張り上げる。


「じゃあ、何をするんだよ」

「暴力には屈しないと見せつけてやるの。鍋や食材をみんなで持ち寄って炊き出しを再開しましょう」

「いいな、乗った」

「俺もだ。クズ野菜ぐらいしかないけどな」


 カスミ草の一言でみんなが炊き出しの再開に動き出した。


「鍋、持ってきたぜ」


 ボコボコに凹んだ特大の鍋が持ち込まれました。


「こんなもんしかない」


 板を剥がして来たと思われた薪があります。


「お前、これお前の家の床じゃないか」

「おうよ。床なんざ何とかなる。とうざは寝台があるからな」


 無理しなくていいのにとは言えないです。

 ありがたく使います。


「これ、大丈夫」


 子供がもって来たのはカラカラに乾いた魚の頭。

 大きいわね。

 海の魚ね。

 50センチはある。


「おう、でかした。味が出て美味いぞ」


「これっ、いつも食べているご飯」


 草の束を子供から差し出された。


「ハッカ草、分かる?」

「大丈夫です。山菜として食べられている草です」


「では入れて下さいませ」


 草が刻まれて鍋に入れられた。


「おう、それは何の肉だ。ゴブリンのじゃないだろうな」

「これが緑に見えるのか」

「赤いな」

「オークの頬肉だ。美味いぞ。頭は食わないって捨てられそうになってたがな」

「おう、入れろ入れろ」


 オーク肉のステーキは何度も食べました。

 美味しい肉ですね。

 期待が持てます。


 色々な物が一緒に煮込まれました。

 美味しそうな良い匂いが漂います。


「お嬢様、味見を」


 一口食べる。


「美味しい」


 みんなの善意が染み込んでるそう思いました。

 そう思うと不味いとか言えません。

 実際、味は悪くない。

 いえ美味しいです。


「みなさん、ありがとうございます。炊き出し再開です。腹が一杯になるまで食べていって下さいませ」


 炊き出しが再開され何事もなく終わった。


「これあげる」


 スラムの子供から、花を頂きました。

 雑草の花のようですが、彼らにとってはこれは大輪の薔薇と同じなのでしょう。


「ありがとうございます」


 お礼を言って受け取ります。


「【石召喚、花瓶を形成せよ】【マナ10で水を召喚】」


 花瓶を石で作って、水を入れたそして花を挿した。

 

 これはこれで綺麗です。

 花に癒されました。

 完全に報われた気が致します。

 私のやったことは無駄ではなかったのですね。


「良かったですね。お嬢様の笑顔が戻ってなりよりです」


 そうハッカ草が言う。


「あなたは早く休みなさい」

「お嬢様にもしものことがあったら、私はオルタネイト伯爵に殺されてしまいます」

「父上はそんなことは致しませんわ」

「そうですね。ですから私達はオルタネイトに仕えてます」


「拾った金貨は金貨として使わないように、言って下さらない。あれは偽金貨です。次の炊き出しに持ってきたら、素敵な品を差し上げます」

「ご親切にありがとうございます」


 これで、偽金貨を使ったと言って捕まる人は減るはず。

 でもあんな偽金貨ではすぐに見破られるから、大して害はなさそうだけど。


 さっそく偽金貨を持って来た人がいる。

 素敵な品として銅貨2枚を払った。

 メッキされた銅貨を見る。

 良い品ね。

 見事な出来栄え。

 こんなのをいつも用意しているのかしら。

 ううん、きっとその場で作ったのね。


 ここからねフローの能力の高さが窺える。

 この技だけで、囲い込む価値がある。

 ですけど、今日は顔と名前を憶えてもらっただけで良しとしないと。

 さあ、機材を買い直して出直しよ。


 呪符の取引が100倍になるのなら、これぐらいの損失は構いませんわ。


 ハッカ草を失わなくて良かった。

 ハッカ草が失われたら、いくら儲けても釣り合いが取れない。

 鍋や食材や机や食器などはいくらでも買える。


 人材が失われるのは辛い。

 諜報組織は人命が軽いとはいえ。


 帰ると私は、バリアブルの次男、タイトに対しての調査を開始した。


「でどう?」

「バリアブル邸のメイドにタイトことを聞くと、貝のように口を閉ざします。あれは何かありますね」


 確実に何かありますね。

 見る限り、能力や性格で勘当されたという線は薄いような気がしますわ。

 有能過ぎて追い出された口かしら。

 それなら、囲い込んでも問題なさそうね。

 いざとなったら、バリアブルの家を乗っ取る駒にも使えそう。

 でもその時は無理強いしない。

 なるべく希望に沿うように動く。

 こちらの損にならない限りは。

 損になるとしたら得になるように考える。

 それが人を使うというものよ。


 フローは王族の血を引いている。

 末席に近いとはいえ継承権もある。

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