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 八坂奈緒は中学校陸上部の部員の一人で陸上部のエースである。(県大会で優勝したりしていた。補欠の樹とは大違いだった)顔もかわいくて、(猫に似ているとよくいわれていた)陸上の成績のこともあり中学校の中でも結構有名な生徒だった。

 そんな奈緒はずっと前から木立樹のことが大好きだった。(奈緒が陸上部に入ったのも、樹が陸上部にはいったからだった)

 そのことを教室のみんなは知っている。(全員というわけではないけど、有名だった)でも、樹は知らなかった。なぜなら樹はどんかんでばかだからだ。(しかも、いつも不登校気味の小学生の妹のことばかり気にしている)

 友達に協力してもらって、四人で水族館にいってダブルデートをしたこともある。その目的は奈緒の告白だった。でも、作戦は失敗してしまった。友達には協力してもらったのに、奈緒は告白することができなかった。(恥ずかしかったからだ。あと、断られたらと思うとすごく怖かったからだった。樹に告白をことわられたら、もう生きてはいけないと思った)

 それが一年生の夏休みの一番の思い出だった。今となっては、まあいい思い出だった。(一緒の写真もとれたし、今も大切にしている)

 奈緒は走る。

 樹は自転車に乗っているけど、相手じゃない。ぜんぜんすぐに追いつける。そして奈緒の予測の通りに奈緒はすぐに樹に追いついた。

「どこにいくの?」走りながら奈緒は言う。

「僕にもわからない」自転車をこぎながら樹は言う。

「わからないのに、一生懸命走っているの?」

「そうだよ。でもわかっていることもある。僕は絶対にあきらめちゃいけないってこと」と奈緒を見て笑いながら樹は言った。(そんな樹の言葉をきいて、あいかわらず変な奴だなと奈緒は思った)

 黒猫が走っていった先はやっぱり東雲神社だった。

 いつものように東雲神社の赤い鳥居を通って、木蔭は神社の境内までやってきたところでその足を止めた。

 赤い鳥居を通り抜けるとき、木蔭は少し変な違和感のようなものを感じる。黒猫は東雲神社のお賽銭箱の向こう側にいる。木蔭はそこまでいこうとする。そのとき、霰木蔭はふいに不思議な映像を見る。

 そのイメージはいなくなった東雲飾の映像だった。

 飾が、世界のふちに(真っ暗な深い穴の中に)落ちていくような映像だった。飾はその手を穴の中に落ちないように、助けを求めるように、木蔭にむかって伸ばしている。

「……飾!!」

 木蔭はその手をつかもうとする。でも、つかめない。ちゃんと手は届いたのに、その木蔭の手は飾の手をすり抜けてしまった。いつのもように、きちんとつかむことができなかった。

 その映像はそこで消えてしまった。

 気が付くと木蔭は東雲神社の石畳でつくられている道の上に立っていた。

 世界を照らしているオレンジ色の光がだんだんと消えていく。日が沈んで夜の時間が迫っているのだ。

 夜の時間とは、つまり幽霊の時間だ、と木蔭は思う。

 木蔭は背中に寒気のようなものを感じる。ごくりと唾をのみこんでから、木蔭は一歩一歩歩いて黒猫のいるところまで行こうとする。黒猫はもう逃げだしたりはしない。神社の鈴の下あたりで、そこでじっと木蔭を見ている。

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