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 でも、そんなことは全然怖くなかった。(本当だ)

 むしろ、木蔭はうれしくなった。

 今、自分は変な世界の中に迷い込んでいる。もし本当にそうだとしたら、出会ったときからずっと変な人だったあの東雲飾が、この自分の走っている道の先にいる可能性がすごく高くなると思ったからだった。

 ……飾。あったら絶対に謝らせてやるんだからね。勝手にいなくなってさ。すごく悲しかったんだよ。めちゃくちゃ泣いたんだからね。絶対に許さないよ。絶対に謝らせてやる。絶対に世界のどこにいても(あるいは、絶対にないとは思うけど、あなたが私のことをもし本当に大嫌いになったとして、そう思って私の前から、いなくなっちゃったんだとしても)絶対に捕まえてみせる。

 絶対に見つけだしてあげるんだからね。(どうせ、どこかに隠れて一人で泣いているんでしょ?)

 黒猫はひさしぶりに道を曲がった。

 木蔭も少し遅れて道を曲がる。

 それから木蔭は黒猫がどこに向かっているのか、だんだんとわかってきた気がした。

 ……猫ちゃん。もしかして、神社に向かってるの?

 黒猫の走っている方向には東雲神社があった。ほかの場所かもしれないけれど、木蔭は黒猫はきっと東雲神社に私を連れて行こうとしているのだと思った。

 神社にはなにもなかったし、飾もいなかった。

 ……もしかして、今、飾は神社に帰ってきているのだろうか? もしかしたら本当に突然の旅行のような用事があって神社からいなくなってしまっただけなのだろうか?

 でも、もしそうなら手紙を書いてほしいと思った。(幽霊の飾は電話番号もメールアドレスも、もちろんもっていなかった)あるいは、いなくなる前に一言言ってほしかった。(それが言えない決まりが幽霊にはあるのかもしれないけど……)

 木蔭はいろいろと後悔をした。遊んでばかりいないでもっと幽霊について詳しく飾に聞いておけばよかった。(だって、飾と遊ぶのが本当に毎日楽しかったんだからしょうがないんだけど……)

 道を曲がったところで木立樹はくびをひねった。

「あれ? おかしいな。さっきこの曲道を曲がったばっかりだったのに、いない」

 道路わきに自転車をとめて汗をかきながら樹は妹の姿を探した。

「あれ? 樹じゃん。なにやってるの? こんなところで」

 そんな声をかけられて、声のしたほうをみるとそこには同じ中学校に通っている同じ教室の同じ陸上部に所属している女の子。八坂奈緒がいた。

 奈緒は樹のすがたをみて、ぱたぱたとうれしそうに軽い足取りで樹のところまでやってくる。

 奈緒はいつものようにその綺麗な黒髪をポニーテールの髪形にしている。(相変わらず猫のしっぽみたいだった)緑色の模様のある(奈緒は緑色が大好きだった)スポーツバックをもって、中学校の白のワイシャツと紺のブレザーの制服をきている。

 八坂奈緒は同じ教室同じ陸上部、それに席も隣ということもあって、樹と一番仲のいい女の子の友達だった。あるいは男の子の友達をいれても、奈緒は樹と一番の親友とってもいいような間柄だった。

「珍しいね。制服姿で汗なんかかいてさ。自主練?」(うれしそうな顔で)奈緒は言う。

「ごめん、八坂。とりあえずあとで」と言って樹は自転車をこぎ始める。

「え!? ちょっとまってよ! せっかくあったんだからどこかでなにか食べていこうよ!?」と奈緒はいったのだけど、樹は返事もせずに自転車を走らせて言ってしまった。

 その背中をみて怒った奈緒はとりあえず、(思いっきり)パンチするために樹を追いかけることにした。

「陸上部さぼって、私の真剣な相談も用事があるって断ってさ、今度はなに!? 樹そんなことばっかりやっていると不良になっちゃうよ!」走りながら奈緒はいう。(大きな声だから恥ずかしいと樹は思った。実際に奈緒の言葉を聞いて、くすくすと笑っている人もいた)

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