第四章 飛躍

ドライブイン安土 飛躍1-1

 「いらっしゃいませ〜」


 「「「いらっしゃいませッ!!」」」


 「おぅ!しゃぁ〜せぇ〜!!」


 「今日も元気いっぱいだな!いつもの肉うどんを頼む!」


 「ワイはラーメンを頼む!」


 「おはようございます。尊様。朝の出店班の支度ができました」


 「出店2番隊も同じく」


 「3番隊も同じく」


 著しく状況は変わった。まず、ドライブイン安土がかなり飛躍したのだ。慶次さんに関しては然も10年くらい働いているかのようなベテランの掛け声だが、それなりに働いてくれている。

 まずは、例のおっさんを撃った後の事だ。


 例の件から、数日の後に、信長直属だという黒一色の服を着た、騎乗兵の人達に出迎えられ本当に岐阜城で祝言を上げる事となったのだ。

 この時代での結婚式の事はまったく分からない為、城中の人達に全て任せるという事で、オレはそうでもないが、清さんに関しては着せ替え人形のような感じだった。

 どれもこれもこの時代の人と比べると頭1つ・・・いや、頭2つは飛び抜けているくらいに可愛いくて、美人だ。

 だが、周りの人は少し引いているのは分かった。身長が自分より高い且つ、男勝りな刀や槍術も持ち合わせている女性だから、初対面の男でも自己紹介した後にオレの事を・・・。


 「・・・・まぁ、そのなんだ。お主とは初めましてだが、これから織田家を盛り立てよう。飯屋を営んでいるんだったよな?近々伺わせてもらう。悩みがあれば何でも言ってこい」


 「かかあ天下の家は栄えるというが、悩みならいつでも聞いてやるからな?その代わり、甘味を食べさせてくれよ?な?」


 と、皆が生類憐れみな顔して言ってきやがる。清さんはそんな人じゃないのに。

 この祝言の前日に、お歴々の猛者が集まり、オレを信長が紹介する席を設けた。あの時も大変だった。


 「皆の者!御苦労!よく来てくれた!さっそくだが、この横に居る者を紹介したい!この者は安土にて飯屋を営んでいる男じゃ。飯屋だけではない!この者の頭はここに居る誰よりも賢い」


 「なっ!!?お館様!!その言い方はあんまりではないですか!?」


 「そうです!我らなんかより明らかに弱そうな男ではありませんか!!」


 「ふん。おい。尊!(クイッ)」


 信長は最初こそ普通に紹介したくれたが、大事な所は丸投げしてきたのだ。それにまったくもってオレは賢くない。賢いのは未来で、世界の133言語に精通するグーグ◯大先生が賢いだけなんだけどな。 まぁ、言語は関係ないけど、ネットというチートがあるからな。


 「紹介されました、たけ・・・ゴホンッ。尊と申します。名字はありません。飯屋を営んでおります。銭の高い飯や安い飯など色々とありますので、時間がある時にお越しください。この度はお近付きにと・・・私自らが作りました、ドライブイン安土、自慢の"肉"うどんを御賞味ください」


 「に、肉じゃと!?」「肉!?おのれ!!」


 「皆様の意見は分かります。ですが、私は肉を食べる禁忌を撤廃させたく。宗教の考えにで生臭物を食べないとは存じております。ですが、肉にはあなた達の身体を作る栄養があり、咳病に罹りにくいような身体作りができます。

 特に四半刻も経てば実感するでしょうが、敵と戦う時や、戦の折に力を発揮する能力が肉にございます」


 「何を能書き垂れておる!お館様!こんな者に仕える事を許したのですか!?」


 「権六。控えよ。それと口は慎め。先の天王寺への救援に使った武器にてワシは楽々と光秀を助ける事ができた。のう?光秀?」


 「はっ。お恥ずかしながら、坊主相手に少々手こずってしまいました。が、焙烙玉や新式の鉄砲など、この尊が出す兵器は正に・・・夢幻兵器とでも言いましょうか。正にその夢幻兵器は今までの武器と一線を画します」


 「ック・・・・」


 「カッカッカッカッ!柴田様はお館様をお疑いなのですか!?いや、アッシは皆より凡愚故、まずはこのうどんを食べてみとう思いまする!」


 「なっ・・・サル如きに言われる筋合いはないわッ!!」


 「ふん。信盛も口だけではなく、まずは食べてみろ。で、尊?此度のワシの飯はなんぞ?」


 「はい。ピーマンの肉詰めになります」


 「・・・・ピーマンとやらは要らん。肉だけにせよ」


 この時程、この信長がお子ちゃまだとは思わなかった。いや、この人は例のおっさんを殺した後に、店に戻った時に・・・


 『ほう?これが回鍋肉かッ!どれ・・・おっふ・・美味い!誠に美味ではないか!今の所これは3等じゃが、どれもこれも高水準な飯じゃ!岡部!これを貴様はワシに内緒で先に食ったらしいのう!?罰として、この緑の葉っぱは貴様が全部食え!』


 こんな、件(くだり)があった。要は野菜が嫌いなんだとオレは分かった。あの岡部さんの虚無な顔は忘れられない。

 それから、信長は『出来る限りワシに出す飯は新しい飯を出せ!一度食べて、美味かった物は頭が覚えている!その時はワシが言いつける!』と言い、今回はピーマンの肉詰めにしたのだ。

 この人は極端だからな。酒が飲めないのも本当みたいで、コーラを30ケースも持って帰りやがったのだ。しかも、それを1週間もしない内に飲み切ったらしい。

 次の注文という名の魔法・・・


 『コウラガナクナッタ。ヨコセ』


 を、唱えられ、オレは抵抗(レジスト)が出来なかったからな。このままいけばこの人は間違いなく本能寺を迎える以前に糖尿病になってしまいそうだから、少しでも野菜を食べてもらうのと、砂糖は控えめに作るようにしている。

 その砂糖を極力使わない為、甘味を出す料理では、イタリア料理では基本中の基本の香味ベースにて甘味を出している。

 玉葱、人参、セロリをオリーブオイルで超弱火で極限まで水分を飛ばした物だ。謂わゆる、ソフリットという物だ。手間暇掛かるが、旨みの塊となったこのソフリットは煮物、カレー、パスタとイタリア料理だけではなく、和食にも合うのだ。


 「織田様。出来れば・・・お食べください。ピーマンは苦いかと思いますが、手間暇掛けて作りました。決して、苦手とは思わないと思います」


 「チッ。今回だけ(ハムッ)だ・・ぞ!?何!?美味い!?美味いだと!?(ハムッ!)うむ!実に美味い!」


 なんとか、この人には健康で居てもらわないといけないからな。


 「ワシも食べるぞ!」「俺もだ!」


 「カッカッカッカッ!(ジュルジュルジュル)」


 「「「「「美味いッッ!!!」」」」」


 ちなみに、ここに集められた人達は後世に名前を残す人達ばかりだ。歴史をあまり知らなかったオレですら知ってる人達ばかりだ。明智光秀、羽柴秀吉、佐久間信盛、柴田勝家、滝川一益、池田恒興、前田利家、丹羽長秀、金森長近、佐々成政、河尻秀隆。


 これもちなみにだが、オレを岐阜城まで案内してくれた黒い一団の1番偉い人が河尻秀隆という人らしい。信長の側近も側近、黒母衣衆というらしい。それも精鋭中の精鋭で、その筆頭の人だそうだ。


 うどんを食べてもらった事により、少し雰囲気が変わった。それも信長の一言からだ。


 「ワシは古き考えは捨ててしまえと言っていたよのう?よって、これから織田家では肉食を解禁したいと思う。ただ悪戯に獣を追い立て、殺すのではなく、命を頂くという事を忘れず、節度を以ってそうしたい。此奴の飯を食ってから調子が良い。見てみろ!(ガバッ)」


 「おぉ〜!!お館様!!」


 「流石でございます!若き日を思い出しますぞ!」


 信長は服を脱ぎ、褌一丁となり身体を見せつけたのだが、とても40代には見えない体付きだ。シックスパックに、慶次さん程ではないが、筋肉がかなり凄い。


 「ふん!どうやらこの肉に含まれるタンパク質とやらが重要らしい。それと、これらを農民等も食えるようになれば、たかが食如きで此奴は『死亡率や出生率も変わる』と言っている。つまり・・・これを当たり前にできれば織田家は更に強くなる!この意味が分かるか!権六!」


 「は、はっ!えっと・・・」


 「遅い!(はい!はい!このサルめに!)(クイッ)」


 「端的に言えば、国力が上がると言う事ですよね!?お館様!」


 「その通りじゃ。この知識をワシに与えたのが尊!此奴じゃ!他にも武器が数点ある。光秀!」


 「はっ!各々方。ご覧ください。片手銃2丁に、鉄砲が1丁。ここより階下の的を私が撃ちましょう」


 明智がそう言い、窓から下にある的に然も撃ち方は全て分かっているかのように撃った。


 パンッパンッパンッパンッパンッ


 凄い事に全弾命中。


 「見ましたか?不発なしの私如きの腕で全弾命中です。では・・・柴田様?いかがですかな?」


 「ッチ。お館様!御照覧あれ!柴田が鉄砲術!見てくだされ!」


 オレはこの時程、おかしな事はないと思った。明らかに肉弾戦を好みそうな柴田勝家に見えた。が、意外に器用で、明智から操作を教えられ、然程難しくはないにしても、この人も的に当てやがったのだ。

 それから続々と続き、全員が終わる頃には皆はオレを馬鹿にするような言葉は言わなくなった。


 「皆も気付いたか。此奴が如何に恐ろしい奴かと」


 「誠に・・・。ワシは勘違いしておったようです」


 「ふん。その間違いに気付くという事はまだ伸び代があるという事だ!権六!励め!で、だ。ワシは此奴に2度命を救ってもらった。まずは先の救援の折に、この片手銃でな。次は先日、安土領内でワシを害する話があったらしい。いや・・・あったのだ。このワシの目の前でな。それを尊が未然に防いだ」


 「なっ!?安土でですか!?五郎左殿!どういう事だ!?安土普請は其方の仕事だろう!?」


 「面目ない。その後、何度も人を詮議した。今は大丈夫だ」

 

 「長近。今は問題ない。長秀を攻めるな。それに未然に防いだと言っただろう?」


 「ですが・・・」


 「織田領は広くなった。つまり、人手が足りなくなった訳だ。当初は尾張の豪族に近い存在だった、弾正忠家がだ。今や畿内を纏め、武田にも打ち勝った。が、未だ世は乱世。使える者は誰だろうとワシは使う。尊は今後の織田家に必要な者ぞ」


 「いえ、某はその男は既に認めております。それで、犯人は・・・」


 「此奴が頭を吹き飛ばしたわ。グチャっとな。あれは容赦が無かった。ワシですら身震いする程にな。その犯人は甲賀の草だ。上忍師範の者だった。生国を隠して、名を上げようと画策しておった奴だ。多羅尾光俊。元、六角家の有力者だった」


 「六角家・・・多羅尾・・・」


 「お館様。多羅尾が山中殿を?」


 「うむ。一益は思う所があるだろう。甲賀出身だからな。旧知の仲だったのではないのか?」


 「多羅尾は某とは馬が合いませんでした。我欲の強い奴でして。ただ、任務に対する姿勢だけは評価しておりました」


 「で、あるか。思う所はあるだろうが、彼奴がワシを害そうとしたのは事実だ。ワシも聞いた。この耳でな。ワシを殺し、三河へ逃げるつもりだったらしい」


 「で、では・・・三河殿が・・・」


 「いや、ないな。タヌキは腹黒いが、ワシに搦め手を使う奴ではない。彼奴は知らぬであろう。この件は放っておいて良い。今は内輪で揉める時ではない。そもそもその事を言うつもりで集まってもらった訳ではない。その先の出来事にて山中何某が多羅尾に殺された。甲賀が手薄となったわけだ」


 「あの集団を手綱なしとは些か・・・」


 「うむ。佐久間殿の言う通りでありますな」


 信長の話の持っていき方が上手い。ここで恐らくオレが甲賀を治めると言うのだろう。


 「そこでだ。あの甲賀の地を自らの手で治めたいと思う者は居るか?獣や熊も多く、稔りが少ない地ではあるがな」


 「せ、拙者は岩村の方で手一杯でして・・・」


 「ワシはこれから越前に・・・」


 「ふん。心配するな!もう決めてある。此度、ワシを2度に渡り助けた、尊に任せようと思う。異議がある者は?」


 「プッ・・・いや失礼。羽柴異議なし!」


 「柴田異議なし!」「同じく」「同じく」


 羽柴秀吉・・・オレを笑いやがったな。あの人が明智を討つんだよな。いや、そもそもの本能寺はオレが防いでみせる。今の所、明智が裏切るようには思えないんだけどな。


 「決まりだな。甲賀一町を今日より尊が治める地とする!甲賀は山の中だ。米も中々稔らん。が、皆の者は手出し無用ぞ。全て此奴に任せろ」


 「「「「はっ!」」」」


 皆はオレを生類憐れみの顔で見ていたのを忘れない。本当にこの時代の人からすれば可哀想な地なんだというのが分かる。後は、差別的な意味もあるのだろう。

 そして次の日・・・


 「誠、目出度き日だな!清殿!」


 「五郎左!良かったのう!末娘とはいえ、喜ばしいぞ!」


 「カッカッカッカッ!アッシは誠、この日の為に、那古屋の漁師に言い、鯛を用意させていただきました!いやぁ〜、これで尊殿も武士の仲間入りですからな!鯛くらい捌けますよな!?カッカッカッカッ!」


 聞けば、オレは名実共に大名?の仲間入りをしたらしい。弱小中の弱小だけど。土地を与えられる=そういう事らしい。そして、大名という者は魚を捌けるのが当たり前というらしい。

 羽柴はオレに挑戦的に鯛を渡してきた。血抜きも何もしていない、魚の目も白く濁ってきている、少し鮮度の悪そうな鯛だ。

 そもそもだが、何故この人は今日祝言を上げる事を知っていたのか。だがそんな事より・・・。


 「えぇ。鯛くらいは簡単に捌けますよ」


 明らかにこのサル顔・・・って程でもないが、この羽柴の挑戦をオレは真っ向から受ける。今までなら一歩下がり、相手を立てて遠慮する所だろうが、信長に昨日、別室にて言われたのだ。


 『貴様は新参だ。ワシの家臣は一癖も二癖もある奴等ばかりだ。舐められるなよ。貴様はこれより手柄を立てて上に登って来い。新参だからと媚びへつらう事は許さん。堂々としておけ』

 

 と、言われたのだ。何か考えがあるかは分からない。が、信長と少し居て分かった事は、この人は無意味な事は本当にさせない人という事だ。だからオレはこの羽柴にも退かない。


 「(ザック ザック ザッザッザッ シュッ シュッ)」


 オレは無言で鯛を捌いた。義理だろうが、昨日初めましての人が殆どだというのに、昨日の人は皆が来てくれている。懐疑的な眼の人も、オレの事は眼中になく退屈な眼の人も、オレを知ろうとする眼の人も、本当に祝福してくれている眼の人も居る。


 「流石は尊殿ですな!いやいや!今日は祝言ですからな!丹羽殿!それに清殿!おめでとうございます!」


 羽柴は屈託のない笑顔でオレ達を祝福してくれているようだが、オレはこの人とは相容れない。そう思う、不気味な笑顔に見えた。



 祝言自体はすんなり終わった。本来はこの祝言を以ってオレを紹介する予定だったらしいのだが、信長のお漏らしがあったからだ。前日のあのやり取りがあったから、当初の目的は無くなったようなものだからな。

 それと祝言を本気で祝ってくれたのはまさかの明智と初めましての滝川さんだった。後の人は義理感情丸分かりの人ばかりだ。

 しかも、それを隠しもしない人達ばかりだった。そりゃあな。オレも初めましての次の日にその人の結婚式に呼ばれても嬉しくもないよな。

 ただ、飯に関しては太郎君に言って、オードブルにしてもらったのだ。


 前日のオレの肉うどんを食べて、皆は一様に身体が強化されたようで、驚いていた。オレが作った物にだけ変な力が備わるわけだが、これをオレは肉のせいという事にしたのだ。信長はこの秘密を知っているだろうが、敢えて言わなかった。

 多羅尾っておっさんみたいにどこに間者が居るか分からないからだろう。他国にオレがバレるとオレを殺そうとする人も現れるかもしれないしな。信長の優しさだ。

 まぁ、まだオレはそんな重要な男ではないけど。


 そして今・・・新生ドライブイン安土は飛躍しようとしている。その理由は、甲賀の人達と、滝川一益。この人のお陰ででもある。

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