ドライブイン安土 改革10-2 終

 「ワシがどこへ行こうと貴様に許しを得ないといけないのか?岡部が貴様の店にて、たらふく飯を食っていると聞いて、飛んで参ったのじゃ。ワシが未だ食べた事のない、ほいこうなんとかという飯を食べたと聞いてな?」


 「回鍋肉ですか!?」


 「おう!それじゃ!ワシが食べた事のない物を先に配下が食べる事は許さぬ!なんぞ面白い事を言っていたな?甲賀を纏めると?面倒を見ると?それと、山中何某は・・・(グワッ)」


 信長はおっさんの方へ向くと、今までにないくらいのオーラ?を発した。隣に居るだけでナイフを首に当てられている感じだ。実際は睨んでいるだけなのにだ。本物とは織田信長。この人だ。桜ちゃんの威圧なんか目じゃない。


 「貴様はワシを討とうと企んでおるらしいな?あん?長秀!連れて来い!」


 ドサッ


 「ま、間違いありません!多羅尾様が山中様を討ち、織田様を討ち、この者等がしたように見せかけ、本人は三河へと落ち延びると・・・」


 「き、貴様!でたらめを言うでない!」


 「黙れッ!此奴は安土普請に潜んでおったネズミじゃ。ワシは身分問わず、能力ある者は採用すると触れまで出しているのに、貴様はそのワシを害そうとした。よって、死罪。ワシの配下の中にネズミを潜ませ、何かを企んでいた事により死罪。ワシの配下の尊及び、尊の配下を使い何かを企んでいた事により、死罪。自らの里を牛耳ろうとし、私利私欲にて山中何某を害した事により死罪」


 おいおい。清々しいくらいの問答だな・・・。


 「ま、待ってください!ワシは・・・いや、某は役に立ちます!どうか・・・」


 「貴様なんぞ要らん。出てこい」


 (シュルシュルシュルシュル)


 信長が一声掛けると、どこからともなく、普通の庶民のような出立ちの男女が5人現れた。風貌は普通のように見えるが、間違いなくこの人達は・・・あの多羅尾っておっさんより強い。素人のオレでも分かる。


 「お、お前達・・・死んだ筈・・では・・・」


 「ほう?死んだ筈とな?ここに生きておる。ワシの暗部としてな?言ったであろう?ワシは能力ある者は使うと。この者等はよく働く。先の武田等相手にも気取られずよく働いた。

 ワシは戦とは開戦する前にどれだけ準備しておくかが肝だと思っている。それをするのがこの者達だ。

 貴様は好き勝手しているようだがな。山中何某が甲賀を纏めようと動いておったのも知っている。使える者だからそれなりに厚遇しておったものを。貴様が壊したのだ。ふん。喋って良い」


 「多羅尾様・・・いや。多羅尾ッ!!お前が長篠の任務の時、武田に情報を流し我等を亡き者としようとしたのはこの時の為かッ!?俺達はお前より強い!だが、上忍になれば格が同じになり貴様の好き勝手できぬから俺達を上忍にはなれないようにし、剰えも俺達を消そうとしたかッ!!?」


 「ち、違う!あの時は織田家が負ける可能性もあったからだ・・・どちらに着いても・・・それにお前達を上忍にするのは危なくて早いと思ったからであって・・・」


 「抜かせッ!!!お館様!どうか!どうかこの者を斬る許可を・・・」


 「ふん。お前等も抱えるものはあるだろう。だが、今は此奴の獲物でもある。尊!どうなのだ?」


 「えぇ。申し訳ないですけど、譲るつもりはありません。オレがこの手で終わらせます。織田様。それにあなた達もいいですか?」


 「ま、待て!いや、待ってください!某はそんな・・・」


 「黙れッ!!尊!其方に沙汰は任せる!一端の顔になった!」


 暗部の5人は静かに下がり、信長はオレに目配せして外に出た。つまり、オレがトドメを刺せという事だ。

 オレは動画で見た通りにリロードし、今一度、おっさんに銃口を向けた。今度は身体ではなく、頭にだ。


 「事ここに至って、あんたが生き延びる方法はない。オレが来た時点で、謝れば許すつもりが少しはあったけど、悪いけどもう無理だ」


 「待って下さい・・・この通り・・・」


 パンッ


 「「「「「・・・・・・・」」」」」


 この場に残る人達全員が静かにこのおっさんの最後を見届けた。オレは躊躇なく引き金を引いた。それは現代と決別をするという決心。いつまでも同じままではダメだと分かったからだ。

 この時代のオレは異質だ。たかが飯屋の男だろうと異質だ。ここへ来て数日で2度も命を狙われた。つまり今後も起こりうると思うべきだ。だからオレはこのおっさんを殺した。自らの意思で。


 これから先、あのタブレットから購入する武器があれば何とでもなるだろう。外に居る信長までも殺せるだろう。だが、そんな事はしない。天下を治める事のできる人はオレは信長しか居ないと思っているからだ。

 それは歴史を知ってるから?たまたま未来の滋賀県のそのままの場所にタイムスリップしたから?


 違う。

 

 織田信長という人物を知り、この人に天下統一してもらいたいと思うからだ。明智に討たれその明智は豊臣秀吉が倒すのを知ってるのに?それでも・・・。


 オレは織田信長に天下を取ってもらいたい。その一歩後ろでもいい。その一歩後ろにオレは並びたい。そうなる為にはオレがいつまでも現代倫理観でいる訳にはいかない。


 オレは太郎君や桜ちゃんと約束した。甲賀の里の人を面倒見ると。約束を果たすにはオレにも力が要る。オレにしか使えないタブレットを使い、オレは飯屋ではあるが、一つの村を食わせるくらいの男になる。


 「えぇ〜。太郎君。桜ちゃん。オレは戦う飯屋になるよ。太郎君の妹だっけ?オレが面倒見るから」


 オレは2人に宣言した。そして、信長が居る外へと出る。正確には義父の丹羽さんも居るけど。


 「済んだようだな。で、貴様はワシに言う事があるのではないのか?あん!?」


 信長は急にオレに向けて殺気のような物を放ってきた。あぁ。分かる。勝手に甲賀の里を面倒見ると言ったからだろう。いったい、いつから聞いてたのかは分からないけど、そりゃ、領主からすれば気分悪いだろうな。けど、こちらにも交渉カードはある。


 「まず・・・勝手を言った事は謝ります。ですが、撤回するつもりはありません」


 「貴様!いくら娘の婿になったとはいえ・・・」


 「長秀。良い。続けろ。ワシを納得させてみろ」


 「まず、今回オレはあなた様を救いました。しかも2度も」


 「ほぅ?言うてみろ」


 「一度は天王寺砦でしたかね?突撃した折に例の片手銃が役に立ったと岡部様から聞きました。次にこの企ての事です。オレがあのおっさんを殺した事により、暗殺?かは分かりませんが起こり得なくなりました。これで2回目です」


 「小癪な。だが嘘では・・・ないな。続けろ」


 「自分がこれより、戦の折などには飯を作ります。それを兵に食わせてはいかがでしょうか。それと弾の方も前向きに考えます。それと先の二つの褒美として、甲賀をオレに治めさせていただけませんか?」


 「き、貴様!自ら褒美を強請るとはどういう事だ!」


 「長秀!良い!ふん。そんな事か。あぁ。別に構わんぞ?」


 「お、お館様!?」


 「この事が他の者の耳にでも入ってみろ。いきなり領地でも与えようものなら反発するであろう?だが、欲しいという地は甲賀だ。誰があんな山の中、実りも少ない地を欲しがる?」


 「確かに・・・」


 「尊!二言はないよのう?貴様が甲賀を面倒見るという事は食わせるという事なのだぞ?その算段もあるのか?あそこは傾斜が強く、米も稔らん。それに獣や熊やオオカミまで出る。その地を貴様は欲するというのだな?」


 「はい。間違いありません」


 「クッハッハッハッ!ワシはてっきり、長秀の佐和山や美濃の一部を強請ってくるのかと思うたわ。あんな地でいいなら貴様の活躍及び今後の活躍と知識をワシに使う事による利益を鑑みればツリが出るくらいだ。追って、沙汰を出す。その前に家臣の皆に貴様を紹介せねばならぬ」


 「なんだか・・・あっさり決まるのですね!?」


 「あっさり・・・といえばあっさりなのかのう?まぁ未だ坊主とも決着はついておらんからな。イタズラに内輪で揉め事を大きくするつもりはない。それに甲賀の者が誰の手からも離れてしまっては面倒だ。まずは貴様は岐阜の城まで来い。祝言と家臣へのお披露目も兼ねる。その右手に持っておる片手銃を忘れるな」


 何故か信長は上機嫌となり、一度オレの店へ戻る事となった。結果オーライというやつか。ただ、残されたのは暗部という5人だ。


 「あのう・・・よければオレの飯屋に来ませんか?太郎君や桜ちゃんと同郷ですよね?飯くらいはお出ししますよ」


 「あ、あぁ。分かった。これを片付けてから参らせてもらいます。それと・・・里の者の為に血を流す覚悟を・・・ありがとうございます」


 「当たり前の事をしたまでですよ。あなた達は不本意かもしれませんが、恐らくオレが甲賀の人を纏める?かとは思いますが悪いようにはしませんよ」


 その通り。イケイケで信長にも啖呵切ったんだ。


 『あっ、やっぱ甲賀は田舎すぎて無理っすわ!』

 

 なんて言えないしな。


 動画で田植えの事とか調べ、タブレットで肥料とか探して、里の誰かを代表にでも決めたら・・・なんとかなるか・・・な?

 オレが甲賀に行くのは無理だしな。まぁ、まずは信長はカレーとか回鍋肉が食べたそうだから出してやろうか。後は片付けまでしてくれているあの5人だ。とりあえずは、太郎君にでも言って、タブレットから米を300キロくらい購入して、里まで運ばせるか。

 あっ!妹が居るって言ってたし、お近付きにチョコレートでもあげようかな。何歳なんだろう?別に変な意味はないけど。

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