ドライブイン安土 改革10-1

 「尊様・・・少しお話したい事が・・」


 「うん。どうした?」


 「いえ、その上役様なのですが、名前を山中様と言いまして・・・その・・・此度の太郎の事が腑に落ちないというか・・・」


 「うん。続けて」


 「はい。上役様はそれはそれは、任務に大してはかなり厳しいお方ですが、それでも任務中に勝手に目的を変えるような事はしないお方です。今回の事が何か引っかかると言いますか・・・」


 「けど、されている事は事実だからね」


 「これは・・・私の考えですが、上役様の下に取次役様が居るのですが、その方は多羅尾様という元上忍です。それも上忍の中でも上から数えた方が早いくらいのやり手の方なのですが、頭の方もかなり良いお方で、上役様とよく意見の相違がありまして、衝突しておられました。織田の大殿様の天下が現実味を帯びて来たら・・・今後の里の扱いに関して・・・」


 「じゃあ、桜ちゃんはその上役の山中さんって人じゃなく、取次役の多羅尾さんって人が怪しいと?関係ないな。悪いけど、こんなにイライラしてるのは初めてなんだ。その2人だろうと、太郎君を使ったり、コソコソ裏でなんか仕掛けてくるようなら躊躇なくオレは殺すよ。ウジウジとオレの居た世界での倫理観を振り翳してもこの世界では通用しないと知ったからね」


 「で、ですが!そんな事をすれば里の者が・・・」


 「そうなればオレが全員面倒見てあげるよ。最悪、衣食住を提供すれば生きて行けるだろう?金なんてないかもしれないけど、衣食住があれば生きていける。今回の事で分かったんだ。オレの店には文じゃなく、貫の価値があるって」


 「あのう・・・1000文が1貫になりますが・・・」


 ック・・・。桜ちゃんよ!?こんなカッコよく決めゼリフ言ってる時に揚げ足取りか!?分かってくれよ!?

 まぁ、冗談はさておき・・・。


 「分かるよ。1文なんかじゃなく、一品1貫でも権力者は食べたくなる飯だとね。それに"オレが作る飯"に関しては秘密もあるようだしね。主に力が上がるとか、体力が上がるとかね。この事を踏まえ、今一度、織田様にもオレは自分で自分を売り込みしてみるよ」


 「なんだか・・・太郎がすいません。しかも身分もないような上忍にもなれなかった出来損ないの草の私達なんかにこんなに厚遇してもらえるような・・・」


 「桜ちゃんが謝る事じゃないよ。もし、その上役か取次の人と話が合わなくて、オレが甲賀だっけ?その里を面倒見る事を織田様が了承しなければ、オレは織田家と敵対してでも約束は守るよ。そもそもオレは平和主義だからね。皆が笑って食べていければそれでいい。歴史の事は大名達でしてくれって考えもあるから」


 「(本当に変わったお方・・・。上忍にもなりきれなかった私達をこんなに思ってくれ、里の人も面倒を見てくれるって・・・。なんなら、もう上役様じゃなく尊様の方が今後の展望も明るくなりそうな気がする・・・。私は絶対にこの方を裏切らない。いえ・・・裏切ってはダメなお方だ)」



 甲賀の草の人達は各地へと散って、各々が活動しているらしい。西は九州、中国、四国地方、東は相模や越後などなど、相当数の人が食い扶持を求め各々の任務に就いているみたいだ。

 元々甲賀の人達は六角家への忠誠・・・とまではいかないが、六角家から禄を食んで生きてきたそうなのだが、織田家がその六角家を滅ぼし、食い扶持が激減し、甲賀有力者は53家あったそうだが、甲賀筆頭格の望月家は武田家に落ち延び、またある者は毛利家が治める安芸の方に落ち延びたり、上杉家の忍の軒猿?とか言われる同じような身分に知り合いが居る者は越後に流れたりとバラバラになったそうだ。


 他にも相模 北条家には・・・


 「素性の分からない黒化粧を施した草の集団が居ります。その者達と顔見知りの者は数少ないですが、相模へ流れた者も居ます」


 オレは敢えて言わなかったが、風磨一族の事だろう。北条家の忍の人達だと思う。


 そのバラバラになった甲賀の人達を上役の山中って人がまた一つに纏めようと奔走していると聞いた。まぁ気持ちは分からない事もない。元は協力して生活していた同郷の人達と、敵対関係にはなりたくないよな。けど、うちの太郎君に仕掛けるのは話が違う。


 聞いた事を色々考えながら早歩きで桜ちゃんに着いて行くと、城下の町から少し離れた所にある、壊れ掛けの家があった。どうやらあそこのようだ。


 「桜ちゃん。ありがとう。あそこだろう?ここからはオレが前に出るよ」


 「・・・・はい」


 桜ちゃんも思う所はあるだろう。元の上司のような人をオレが害しようとしてるんだからな。まず話し合いは無理だと思う。この時代の人は我が強い傾向があるからな。歯向かう者は殺してしまえ。な考えが蔓延っているし。兎に角、命が軽い。


 桜ちゃんから『足音をできるだけ消してください』と言われ、オレなりに忍び足?的な感じで向かった訳だが・・・


 「誰だ!?」


 どうやら向こうに気取られたらしい。足音なんてまったく立たず、物音も気にしていたのに気付かれた。糞みたいな上役?取次役?でも、忍というのは本当らしい。


 「入るぞ」


 オレは普段言わないくらいの低めの声で建て付けの悪くなった、朽ち掛けの扉を横に引いて中へ入る。


 「貴様・・・」


 どうやら、中は男1人で・・・正確には太郎君がボコボコにされているみたいだが、上役か取次の奴かは分からないが、知らない男は1人のようだ。しかも向こうはオレを知っているような口振りだ。


 「あんたが上役か?取次役か?」


 「た、尊様!!来てはなりません!この方は本物の正真正銘の上忍です!」


 「太郎君は少し黙ろうか。悩みがあるなら言ってくれればいいのに。1人で先走って解決しようとするからそうなるんだよ。岡部様の件は話を付けた。問題ないから戻っておいで」


 「ほぅ?内を蝕む草と知りながらまだ雇うと言うのか?控えよ!飯屋の男風情が!」


 パンッ


 「!?!?!?!?」


 「「・・・・・・」」


 オレは足元に1発撃った。まずは威嚇だ。


 「一度だけ警告する。あんたが上忍だろうが誰だろうがオレは関係ない。オレは太郎君、横に居る桜ちゃんを雇っている、謂わば社長のような者だ。関係は家族のような者だと思っている。で・・・あんたは何をしようとした?」


 「ふん。戯言を抜かしよって。いいだろう。言ってやろうか。ワシが甲賀を再び一つに纏め、日の本一の傭兵集団とさせる。織田の殿様が日の本を一つに纏めようとし、最初こそ六角家の中から見れば、『血迷うた事』と思っていたが、その元の主家だった六角家は織田家に討たれた。

 あの織田の殿様は誠に一つに纏めようとするのが、ワシにも見えてきた。だが、未だ世は乱世。甲賀のような草は必要だ」


 「意味が分からないな。あんたらの里がどうとかは分からないが、強制的に無謀な事を下の者にさせるのがお前のやり方か?ならお前が上役だな?」


 オレは精一杯ドスの効いた声で話したつもりだが・・・


 「ぶっはっはっはっ!ワシが上役とな!?こりゃ傑作だ!」


 「た、尊様・・・言いにくいのですが、あの方は取次役の多羅尾様です」


 ック・・・恥ずかしいじゃねーか!?今世紀最大のドヤ顔で、かましてやったのに上役じゃなくて取次役だと!?あれ?なら本物の上役は!?


 「間違えたようだ。そんな事はどうでもいい。お前が誰だろうと関係ない」


 ザッ、ゴリ押しだ。恥ずかしい気持ちを隠すにはゴリ押ししかない。


 「相手を調べず向かってくるとは愚の骨頂。貴様はもう少しワシを調べてくる事だな。それと・・・桜ッッ!!!(ドスンッ)」


 「グハッ・・・」


 はぁ!?マジかよ!?桜ちゃんがこの多羅尾っておっさんに蹴られたけど、このおっさんの今の動きがまったく見えなかったんだけど!?


 「そこのお前は三下も三下だから脅威ではない。見た事のない小さな南蛮鉄砲のようだが、馬鹿がするように1発撃ち込んできたから次はないだろう。別に弾込めするならしてよいぞ?

 その代わりその隙にワシ自ら貴様を殺してやろう。あぁ〜可哀想に。丹羽の殿様から飯屋の店主の護衛を承っていたが、その任務に就いた者が銭欲しさに対象を殺してしまった!」


 まぁこの男の勘違いは良いとして、何を言っているんだ?もう殺してしまうか?それに、桜ちゃんは、『グハッ』とか言ってるけど全然効いていないのは分かる。だって、スーパー強化させているからだ。桜ちゃんの演技・・・女の演技は分からないものだな。

 ただ、この多羅尾というおっさんの動きは本物だ。強化していなければ桜ちゃんは肋骨くらいは折れていたかもしれない。そのくらい凄い蹴りが桜ちゃんに入っていた。女に手を上げる男は最低だ。しかも上司にされるなんて・・・。DVだ。DV!パワハラ!


 「お前の話す事、言いたい事は分かった。桜ちゃんにまで手を上げたな。許さんぞ」


 「ほう?何を許さないって?線も細い修練を積んだようにも見えん男がワシに勝てるとでも?」


 パンッ


 オレはイライラが頂点に達し、おっさんに向かって自らの意思で撃った。が・・・


 「グフッ・・・やはりか・・・。こんな事もあろうかと着込みを着ていて良かった。少し肋骨(あばら)をやられた・・・か。が、多少の問題はあろうが、他愛ない」


 この男・・・鉛のような物の服を着ていた。しかも親切にそれを見せびらかしてきた。


 「何を驚いた顔をしている?ワシは相手の事は必ず調べる。それは甲賀忍の者においては当たり前の事だからだ。仮に対象が赤子だろうとワシは調べる。貴様の片手銃のカラクリまでは分からなかったが、連射できるとは掴んでいた。似た物を織田の殿様に出していただろう。本願寺側に潜んでいる配下から聞いた」


 マジで本当にどこにでも潜んでいるんだな。


 「尊様!お逃げください!ここは俺が!」


 「だから太郎君は少し黙ろうな?後で怪我は治してあげるから戻っておいで。美味しい飯を食べさせてあげるから」


 「ふん。ここで貴様等を生きて返すと思うてか?少々策を弄さねばならなくなったが、問題ない。その片手銃も貰っていくぞ」


 パンッ パンッ パンッ パンッ パンッ


 カチッ カチッ カチッ


 オレはおっさんに向かって引き金を引きまくった。弾が無くなるまで。だがどうだろう。おっさんはかなり後ろへ倒れ込んだ。が、血が出ていない。


 「グフッ・・・フゥー フゥー。誠に連射できる銃・・・とな・・・。咄嗟に後ろに勢いを逃し衝撃を和らげたつもりだが・・・また肋骨がやられたか・・・。誠にその片手銃は脅威だ・・・」


 「はぁ!?何であれで立ち上がれるんだよ!?」


 マジでこのおっさんは化け物か!?しかも勢いを逃すって・・・人間のできるレベルじゃねーだろ!?


 「ふん。自分より力のある者と相対する時に、組み手争いになれば上忍の一部・・・頂に近い者ならば相手の勢いを殺す事くらいできる。故にワシは強い。教えてやろうか?ワシは今まで任務失敗はない。それがどれだけ凄い事かと!囀るなッ!!小童がッ!!死ねいッ!!(ビシュンッ)」


 多羅尾というおっさんは懐から短刀のような物を取り出し、オレに向いて投げてきた。思わずオレは棒立ちになってしまい避ける事が出来なかった。


 が・・・

 

 「尊様ッ!!!太郎!!私は尊様に賭けるよ!尊様なら私達を変えてくれる!腹を決めなさい!(ハッ! パリン)」


 横で倒れてた桜ちゃんが立ち上がり、投げ刀を手刀で叩き割った。うん。この子がNo.1だ。多羅尾っておっさんより、桜ちゃのが怖い。

 誰が投げられてる刀を空中で叩き割れるんだよ!?スーパー強化されてるっていっても無理よりの無理だろ!?


 「なっ・・・」


 「桜・・・俺は・・・」


 「太郎。尊様は上忍になれなかった私達に何をしてくれた!?冷や飯じゃなく、暖かい飯を食べさせてくれた!新しい服も頂き、擦り傷をしたくらいでも治療をしてくれる!そんなお方が日の本に居ると思う!?草だよ!?私達・・・。破壊工作もし、対象は赤子も殺した事ある。身分のある人の任務に就けば、『下賤の草か』とか、『銭で動く汚い者』とか言われるのに尊様は一度でも私達を蔑むような事を言った!?」


 「・・・・・・・ない」


 「な、何をベラベラと言っている!おい!お前等!この男を殺せ!太郎!妹がどうなってもいいのか!?」


 「へぇ〜。太郎君は妹が居るの?知らなかったよ。オレが面倒見るから里に居るなら連れておいでよ?あっ、変な意味じゃないよ!?」


 「ほら!太郎!それに多羅尾様もお聞きください!このお方は甲賀の里の者全てを面倒見てくれると言っているのです!そんな方が他にも居ますか!?」


 「ふん。どうせ、でまかせだ!我等を酷使して裏では好き放題言うに決まっている!そもそも!そもそも、ワシは自分より弱い男に仕えるなんて真っ平御免だ!桜!お前が何の技を使ったかは分からぬ!だが・・・いつまで耐えられるかのう?(ビシュンッ!ビシュンッ!ビシュンッ!)」


 「(ハッ!パリンッ パリンッ パリンッ)何本でも私は叩き割ります。尊様に手出しさせません!私の任務は尊様の世話役及び護衛です!」


 いやいや、マジで桜ちゃん凄すぎじゃない!?惚れてまうやろ!?カッコよすぎるんだけど!?


 「なっ・・・貴様!それはなんなのだ!?ワシのクナイを・・・おのれッ!(ビシュンッ ビシュンッ)」


 「(パリンッ パリンッ)多羅尾の叔父貴ッ!!時代は変わるのです!甲賀の他の者は分かりませんが、私は尊様に着いて行きます!山中様と多羅尾様が裏でどんな仕掛けをしているかは存じませんが、私は今までのやり方では変わらない!そう思います!それと・・・私の任務は尊様の護衛ッ!!その腕ッ!!斬り落とすッ!!(シュパッ ポト)」


 桜ちゃんは怒声に近い声で腰に挿している短刀よりは少し長い刀を抜き、おっさんの右腕をこれまたオレにはまったく見えない動きで、しかも一刀で斬り落とした。


 「なぁぁぁぁ〜〜!!?ワシの腕がぁぁぁぁ!!!」


 グロイ。正直、血飛沫も上がりグロイけど、ここはオレは目を逸らしてはいけないところだと思い、無言でその状況を見ている。


 「太郎!あんたはどうするのよ!あんたも尊様の護衛なのよ!」


 「あぁぁぁぁぁ!!!!俺も決めたッ!!尊様ッ!!オレはあなた様を裏切ってしまいました!!腹を斬れと申すならば喜んで召します!ですが・・・ですが!!今一度、赦しを頂けるならば二度と裏切ったりしません!!今一度、お仕えする許可を・・・」


 「ははは。太郎君は既にオレの家族みたいなものだよ。見ての通り、オレは戦いには向いてないからね。こらからも守ってくれるよね?その代わりオレが提供できる事は、衣食住。その食に関しては他の誰よりも美味しい飯を与えると約束するよ」


 「(うわぁぁぁぁ〜〜〜ん!!)」


 太郎君は号泣し始めた。こんな姿なんて最初は見せなかったし、想像もつかないよな。感情のない子達じゃなくて良かったよ。


 「ふ、ふざけるな!!何が面倒みるだ!!ワシが!ワシこそが!甲賀の頭領に!ワシが甲賀を好きに致すのだ!山中の爺を殺した事で既に歯車は動き出した!」


 ガラガラガラ


 「何の歯車が動き出したのか。丹羽の領内ではあるし、瑣末な事ならばワシは出張ったりはせぬ。だが・・・ワシは自分の"者"を他人に好き勝手されたくないでな?」


 「え!?織田様!?」


 「おい!なんの騒ぎ・・・なんじゃこれは!?」


 「丹羽様!?何でここに!?(ゴツン)」


 オレ達が問答していると、織田家の主役2人が現れた。

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