第3話 女神フィロ

 6かいての建物たてものの、2階の一室いっしつ。そこが、サラさんの家だった。


 地球でいうところの賃貸ちんたいマンションみたく、りている部屋へやになるのだろうか?


 玄関げんかんくつぎ、室内に入る。

 元の世界こっちでいうところのワンルームと同じくらいの広さの家だった。

 木製もくせいつくえの上には、大量の書類しょるいらしきもののやまが、五山ごやまほど置かれてあった。


「これは……?」


 そして一点いってん

 とく視界しかい目立めだって、入ってくるものがある。

 壁一面かべいちめんに、大きな絵がかれていたのだ。


 雲の下に、小さな人影ひとかげ複数ふくすう集まり、その人影たちが上を見上げている。雲の上には、大きな女性らしき人物じんぶつ浮遊ふゆうしていた。足よりも下まで伸びる長髪ちょうはつをなびかせ、ひかりらしきものをはなち、両腕りょううでをハグをもとめる人みたいに広げている。


 絵を全体ぜんたいで見ると、まるで地上ちじょうの人間が、神様かみさま尊敬そんけい眼差まなざしを向けているような。そんな絵図えずに見えた。


 サラさんが「これはですね――」と口を開ける。


女神めがみフィロの壁画へきがですよ」

「女神フィロ?」

「ええ。この、雲の上にえがかれている女性が、女神フィロです。前の住居者じゅうきょしゃが、女神フィロをあつく信仰しんこうされていたかたのようでして。それがここに、ずっと残っているという話なんです」

「なるほど、ですね」

「ちなみに、この世界の名付なづおやも、この女神フィロだと言われているんですよ」

「世界の名付け親、ですか?」

「はい」


 そういえば、と思って聞いた。


「この世界の名前って、なんて言うんですか?」


 サラさんは、答えた。


「この世界の名前は――イソニアといいます」

「イソニア……」


 世界の名前を聞き、僕は再認識さいにんしきする。

 やはり自分は、夢の中からしていると仮定かていするのであれば、異世界いせかい転移てんいたしているのだろう、と。


「あ、そうだ」


 そう言ったサラさんが、僕に目を向ける。


「よければ、ナオキさんのステータスを確認してみませんか?」

「僕のステータス、ですか?」

「はい。あなたのレベルや能力値のうりょくち、スキルを確認するんです」

「レベル、能力値、スキル……」


 これはまた、異世界小説でやまほど見てきたような展開てんかいになったものだな。

 なんですか!?  この高過ぎるステータスは! と驚愕きょうがくされるパターンのやつだ。

 僕が、そのパターンにめぐまれるかどうかは、分からないけども。


「その、ステータスは、どうやって確認するんですか?」

いしに片手を乗せるだけで、すぐに確認できますよ」

「石?」

専用せんよう石板せきばんがあるんです」


 彼女は、ゆかはしに置かれていた1まいの石板をかかえ、木製机の上に乗せる。

 まないたくらいの大きさの、長方形の石板だった。


表面ひょうめんに片手の手のひらを当てれば、ステータスが空中くうちゅう表示ひょうじされる仕組しくみになっています」

「じゃあ、乗せてもいいですか?」

「はい」


 僕は、右手の五本ごほんゆびを広げ、ザラザラしつの石板にれた。


「ちなみに――」とサラさんが話し始める。


「――異世界いせかいじんは、特出とくしゅつした才能さいのうを持っているケースが、非常に多いんですよ」


 やっぱり、そうですか。


「ステータスが極端きょくたんに高かったり、強力きょうりょくなスキルを持っていたり。私もギルドで、彼らに何回おどろかされたことか」

「なんか、僕のハードル、上がっています?」

「ま、まあ。全員が全員、天才というわけではありませんので。安心してください。私は、ナオキさんがたとえ凡才ぼんさいでも、がっかりなんてしませんよ」

「……まあ。そうしてもらえると、たいへんありがたいです」


 そうこう言っているうちに、ステータス測定そくていは進んでいった。

 まず、石板がうすい緑色に光り、そして――


「これが、ステータスですか?」

「はい」


 ステータスが、空中に表示される。

 まるで、スマホの画面のような、光でできたわくが、石板から出力しゅつりょくされていた。

 パソコンのフォントのような文字で、情報じょうほうが書き出されている。



 レベル:1

 H P:100

 攻撃力:10

 魔 法:5

 防御力:8

 耐 性:1

 俊敏性:5

 スキル:睡眠すいみん強化きょうか……詳細しょうさい不明ふめい



 僕のステータスを確認したサラさんは、言葉をはっする。


「ザ・普通ですね」

「ザ・普通ですか」


 はるばる異世界からやって来たものの、才能には恵まれていない自分なのだった。


「ただ、ですけど」


 あごに手を当てるサラさん。

 僕は、首をかしげる。


「なんですか?」

「見たことのないスキルを持っていますね」

「スキル……」


 僕は、自身じしんのステータスをもう一度確認する。



 スキル:睡眠すいみん強化きょうか……詳細しょうさい不明ふめい



 睡眠強化……。

 睡眠オタクである僕には、何ともピッタリなスキルめいなのだった。


 しかし、スキルの詳細が不明だと表示されている。

 つまり、得体えたいれない能力ということか。

 しかも、この世界でらしきたサラさんも、初めて見たと言っている。

 僕は、直球ちょっきゅうなスキル内容の予想を口に出した。


「文字通り。睡眠したら、何かしらの能力のうりょく上昇じょうしょうしたり、覚醒かくせいしたりする……的な。そんなやつじゃないですか?」

「睡眠しただけで、でしょうか?」

「ただ、名前をやくすと、そうなるので」

「まあ、そうですよね……」


 サラさんは、やわらかいみをかべた。


「もしかしたら、このスキルが、ナオキさんの特出した才能なのかもしれませんね」

「……そうだと、いいですね」


 睡眠強化。

 そのスキルの中身なかみは、くろなぞに包まれていた。

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