第19話 ロース①

シチローが作戦を立て、ブタマーンとミミガーはその作戦に必要な人材、そしてなぜかダチョウを集める為に町へと飛び出していった。そんな中、チャリパイのムードメーカーである子豚も動き始めた。


「こうしちゃいられないわ!私も準備を始めなくちゃ!」

「準備って、何始めるの?コブちゃん」

「いいから、ひろきも手伝うのよ!一緒に来なさい!」


両手の袖を捲りながら張り切る子豚は、ひろきを連れて別室へと入っていった。


「コブちゃん、そんなに張り切っていったい何するの?」


いまいち状況を把握出来ないひろきが子豚に説明を求めると、子豚はハイテンション気味に答えた。


「決まってるでしょ!『サムライ』コスを作るのよっ!」

「サムライコス?」

「そうよ!サムライ魂見せるのに、サムライの衣装がなきゃあカッコつかないじゃないの」


何事もカタチから入らなければ気がすまない、何とも子豚らしい発想である。


「既に材料は手に入れてあるわ。これでみんなの『サムライコス』を作るのよ」


子豚の手には、膨大な量の布が載っていた。いったいどこでそんなモノを手に入れたのだろうか?


「コブちゃん、それどうしたの?」

「市場で買って来たのよ。お店の人、わ」


それは、買って来たとは言わないと思うのだが……


「ふぅ~ん……それで、あたしは何を手伝えばいいの?」

「それじゃ、アンタは旗でも作ってなさいよ」

「旗?」

「そう!よく戦国時代のくさのシーンとかで『風林火山』とか書いた旗持って戦うでしょ?」

「あっ!それ見た事ある。カッコいいよね、アレ」

「でしょ?どうせやるならカッコ良くやらないとね」


作戦の本道からは少し外れたところで、がぜん張り切って準備を始める子豚とひろきの二人。こうして、チャリパイの『イベリコ救出作戦』の準備は着々と進められていったのであった。



♢♢♢



イベリコが宮殿の前でチャリパイの四人と決別したあの日から、もう既に二週間が経過していた。チャリパイの作戦の事など全く知らないイベリコは、もうあの四人が今更自分を助けに来るとは思っていなかった。しかしその事に対して、約束を破ったとチャリパイを非難する気持ちなどは毛頭無い。今の宮殿の厳重な警備を考えればそれは仕方がない事であり、二週間も経った今頃は、チャリパイの四人は既に日本へと帰国しているのであろうと、イベリコは理解していた。


そんな事を考えながら、窓の外を遠い目をして眺めていたイベリコの耳に、うざったいブタフィの声が入ってくる。


「姫、何をぼんやりしているんです!私の話をちゃんと聞いているんですか?」


言うまでもなく、ブタフィは毎日のようにイベリコに会いに部屋へとやって来ていた。ただ、最初の頃のように愛だの恋だのと、見えすいた言葉を並べてイベリコを口説くような事はしなくなった。


「イベリコ姫、貴女は王室の人間なのです!その王室の婚姻は、国益を伴うものでなければならない!その点、私とイベリコ姫の組み合わせなら申し分ない!イベリコ姫の持つカリスマ的な人望と、そして私の軍の圧倒的な力!それがひとつになってこそ、この国の政権は強大無比なものとなるのです!」


まるで選挙演説のようなブタフィの主張に、イベリコは冷めた表情で反論する。


「ブタフィ将軍……アナタの主張は、すべて自分の権力を磐石にする為の手段にしか聞こえません……国益とは、この国に住むすべての民の幸せ。私には、アナタがその為に尽力するとは到底思えません」

「イベリコ姫は私の事を誤解していらっしゃる。私とて、国民の幸福を願っていない訳ではありません!その一番の方法は、この国の経済が成長する事なのです!経済成長の為の最も手っ取り早い手段は戦争による特需景気!すなわち、軍備の拡大は全てこの国の為を思っての事なのですよ!」


戦争を経済成長の道具に使う………

そんな道義に外れた論理に、平和主義者のイベリコが賛同出来る筈が無かった。


「アナタのその理論は、私が思い描くこの国の理想とは全く相反するものです。ですから、アナタを王家の一員に招き入れる事など金輪際無いでしょう」


ブタフィの懸命の熱弁も、イベリコにことごとく全否定されてしまう。そんなイベリコに、ブタフィはさも不服そうに噛みついた。


「私が何を言っても、貴女は全て否定、否定、否定だっ!そんなに私の事が嫌いですか!」

「ええ……です」

「な、なんですと!」


まさか、そんなにハッキリと答えが返ってくるとは思っていなかっただけに、ブタフィは鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしていた。


イベリコにしても、そこまでハッキリ言うつもりは無かったのだが、あまりに自己中心的なブタフィの語りぶりにうんざりしてしまい、つい本音が出てしまった。


「あ~~そうですか!姫は私の事が大嫌いなんだ!だったら誰がいいんだ!

あのがいいのか!」


すると、ブタフィの口から発せられた『ロース』という名前を聞いた途端、今まで冷静だったイベリコの態度は急変した。


「だったらどうしたって言うのっ!のはアナタじゃない!」









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