第18話 シチローの作戦

「ブタフィを甘く見ていたな……これじゃあジョンに連絡が取れない」


てぃーだが提案したせっかくの作戦も、ジョンに連絡が取れなくては何にもならない。ぬか喜びに終わった作戦に、チャリパイの四人は再び肩をガックリと落とす。

いつもの宴会騒ぎとは違い、重苦しい空気が部屋中を支配する中、その雰囲気を打ち破るように、ひろきが叫んだ。


「でも、助けるんだよね!」

「当然!イベリコはサムライの助けを求めて遠い日本にまでやって来たのよっ!チャリパイが、そのサムライ魂見せてやろうじゃないのよ!」


ひろきに続いて、子豚が右手の拳を高々と突き上げる。そんな二人を優しい笑顔で見守るてぃーだ。そして、イベリコを助ける事で一致団結する、ひろき、子豚、てぃーだの様子を見届けたシチローは、胸ポケットから煙草を取り出すと一服つけながらこう切り出した。


「実は、作戦が無い訳じゃないんだ……」

「えっ?何よシチロー。作戦があるなら勿体ぶらないで早く教えてよ~~」


すぐさまシチローの周りに群がる三人に、シチローは『喜ぶのはまだ早い』とばかりに後を続けた。


「けれど、この作戦を遂行するには準備に相当な労力を要する……四人じゃとても出来ない……ざっと見積もっても百人は必要だよ……」


まだ詳細は明かさないが、シチローの作戦とはかなり壮大な計画らしい。


「百人って……日本でも無いのにこの国でそんなに人集められないよ……シチロー……」


ひろきの言う事ももっともである。困難な条件に、再び静まり返るチャリパイの四人。


「だから喜ぶのはまだ早いって言っただろ。……百人いても一週間はかかる作業だから、オイラも言うのをどうしようか迷っていたんだ……」


相手は一国の軍隊である。確かにシチローの言う『百人』というのは、あながち大袈裟な数では無いしむしろそれでも少ないのではと思える人数である。しかし、異国の地でチャリパイにそんな人脈がある訳も無く、ましてや人を雇う金はもっと無い。


「やっぱり、これはダメだな……別な方法を考えるとするか……」


シチローが残念そうに呟いた。すると……


「その作戦とやらは、百人集められれば出来るのかい?」


先程からチャリパイのやり取りを黙って見ていたブタマーンが、興味深そうにシチローの話に乗ってきた。


「えっ……ブタマーンさん、もしかして百人集められるんですか?」


シチローの驚いたような顔をみると、ブタマーンは少し愉快そうにこんな答えを返した。


「君達が今やろうとしている事は、この国の国民の願いだと言ったじゃないか。話によっては、百人なんて言わず、もっと大勢の人間が協力してくれるかもしれんぞ」

「そうだよ、シチロー。イベリコはこの国のマドンナなんだから、きっとたくさんの人が協力してくれるよ」


すぐさまひろきがブタマーンの意見に賛同する。


「差しつかえなければ、その作戦とやらを話してくれないだろうか。俺が条件にあった人材集めを請け負うよ!」


もとはといえば、この国のいざこざが原因の問題に対し果敢に挑んでいるチャリパイに協力が出来る事は、ブタマーンとしても喜ぶべき事であった。


軍の報復を恐れ、今まで何の行動も起こさなかった臆病な自分を、これで変える事が出来るかもしれない……そして、この事が国を変える何かのきっかけになるのではないかと、ブタマーンは期待を抱いていた。



♢♢♢



「ハッハッハッそれは愉快だ。その時のブタフィがどんな顔をするか見ものだよ」

「うん、傲慢で見栄っ張りのブタフィ将軍相手なら、その作戦は効果的かもしれないわね。シチローにしては良い作戦じゃないの」


シチローの立てた作戦を聞いた皆の評価は、まずまずのものだった。


「よし!それなら、人集めの方はこのブタマーンに任せてくれ!百人だろうと二百人だろうと集めてみせるさ!」

「おいらも人集めるのを手伝うよ」


チャリパイとブタマーンとのやり取りを部屋の外で聞いていたのだろう。突然中に入ってきたミミガーがブタマーンに続き、満面の笑みでそう叫んだ。


「なんだ、聞いていたのかミミガー」

「うん、良かったねとうちゃん。イベリコ姫のお役に立てて」


ミミガーは、いたずらっぽくブタマーンの方を見てそう言うと、壁に飾ってあった一枚の写真を手にしながらその理由をチャリパイの四人に公表した。


「だってとうちゃんたら、イベリコ姫の大ファンなんだから」

「こらっ!余計な事は言わなくていいっ!」

「なるほど……あの写真はそういう事だったのね……」


ミミガーが手にしていた写真は、ブタマーンとイベリコのツーショット写真であった。


しかも、ブタマーンの隣に写っているイベリコは本当は子豚で、ブタマーンは子豚にと、せがんで写した写真であった。


「よし、ミミガー!早速人集めに出掛けるぞ!付いて来い!」

「わかったよ、とうちゃん」

「あ~~ちょっと待って二人とも!言い忘れた事がある!」


勢い勇んで部屋を出て行こうとするブタマーンとミミガーを、シチローが慌てて呼び止めた。


「分かっていると思うけど、この作戦は当日まで絶対に軍に漏れてはならない!その事を肝に命じて行動して下さいね」

「心得た!そこは十分に気をつけよう」

「それともう1つ……その人集めの時、一緒に集めて貰いたいモノがあるんだけど……」

「いいとも。それで、その集めて欲しいモノとは?」

「ダチョウを百羽ほど」

「ダチョウ?」


シチローの意外な要請に、ブタマーンの目が点になった。


「ダチョウ百羽がさっき聞いた作戦に必要なのか?」

「うん、重要なアイテムだよ」


と、満面の笑顔で答えるシチロー。


いったい、ダチョウ百羽なんて作戦の何に使うつもりだ……


ブタマーンの頭に、一瞬そんな思いがよぎったが、必要というなら仕方がない。


幸いこのブタリアという国では、自家用車が普及していない代わりに、ダチョウに人や荷物を乗せて移動するという事が日常的になっていて、ダチョウを集める事はさほど困難な事でもないのだ。


「わかった!ダチョウ百羽も集めるとしよう!……何ならウチのダチョウも使ってくれ!」

「えっ、ブタマーンさんもダチョウを飼っているんですか?」


ブタリア王国の世帯当たりダチョウ普及率は、95%……ブタマーン家にも一羽のダチョウがいた。


「ああ、裏の小屋で一羽飼っている。名前は…………………………………

………『ハゲタ』っていうんだ」

「ハゲタ…………?」


その名前を聞いた途端、チャリパイの四人の頭上に同じある映像が浮かんだ。

それは、首から下はダチョウの体。そして頭だけがテロリスト集団『尊南アルカイナ』のボス『羽毛田尊南』という、なんとも異様な生物の映像だった。


その生物が野太い声でひと鳴きする。


グエエェェ~~!


「プハハッダチョウの名前がハゲタかぁ~~こりゃケッサクだぁ~~」


腹を抱えて笑い転げるシチローの姿に、意味の解らないブタマーンは首を傾げる。


「はて、何かおかしい事言ったかな……今……」

「いや……何でもないんです。気をつけていってらっしゃい」


なんとかその場合を取り繕って、ブタマーンとミミガーを送り出すシチロー。だが、その顔はまだ笑っていた。『謎の生物ハゲタ』の映像が頭からなかなか離れないのだ。


グエエェェ~~!


「プッ、プハハッヒィ~~おかしい~~~」


ついさっきまでの緊張感はどこへやら……チャリパイはやっぱり、純然たるコメディなのだ……














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