ウミガメのスープ
赤崎家の居間の何倍も広いような、畳の敷かれた部屋に通される。
途中の廊下には高価そうな壺や掛け軸が飾ってあったりするのが、赤崎家との決定的な違いだ。
広い部屋の中央には2枚の座布団。
その奥の座布団に蒼衣ちゃんは座ると、わたしに手前の座布団に座るよう促す。
「さて、勝負しましょうすずめ。ルールはシンプル。互いに問題を3つずつ出し合い、より多く答えられた方の勝ち」
「……同点だったら?」
わたしが聞くと、蒼衣ちゃんは難しい顔をする。
「そうね、悔しいけど引き分け……」
「蒼衣、もしかして自分が負けるわけないとか思ってる?」
蒼衣ちゃんの声をさえぎって響く、虎子ちゃんのりんとした声。
「……そんなの当たり前でしょ。負けると思って勝負する人なんてどこにいるの?」
「まあそうかもしれないけれど。すずめさんのことをよく知らないままに、堂々とそんなこと言って良いのかしら?」
「じゃあ虎子は、あたしが負けると思ってるの? そんなわけないでしょ」
「思ってはいないけど、そうなったら面白いかなとは考えてるわ」
虎子ちゃんは部屋の隅に積まれた座布団から勝手に一枚引き抜いて、わたしと蒼衣ちゃんを横から見ることのできる真ん中に座る。
「同点の場合は、わたしが勝敗を判断するというのは?」
「何よそれ! あんた、絶対すずめびいきする気でしょ!」
「いや、虎子はそんなことしない。それはすずめに対して、というより謎解きに対して失礼だ」
虎子ちゃんの後ろに座った隼くんが言う。
「良いんじゃないか。他に良さそうな手もないし」
その隣に座った鷹くんも同意する。
「二人の言う通りよ。隼や鷹はすずめの身内だもの。この中で最も公平な審判ができるのはわたし。そして白井家の人間として……というか、海老川の人間として、謎解き勝負に私情を持ち込むことはしない」
「…………わかったわよ」
蒼衣ちゃんがようやく言葉を絞り出すと、虎子ちゃんはにっこりとほほえんだ。
「すずめさんは、いいかしら」
「……はい」
虎子ちゃんの顔は笑っていたけど、わたしに向ける視線は笑ってなかった。
「じゃあすずめ、先攻はあたしよ。……ウミガメのスープ、って知ってる?」
「えっと確か……質問して真相を当てるゲーム……?」
「そうよ。これからあたしが説明する状況に対して、すずめがその理由を当てることができたらすずめの勝ち。そして理由を当てるために、すずめは『はい』か『いいえ』で答えられる質問だけが許されている」
つまり、例えば『〇〇がありましたか?』みたいな質問はOKだけど、『何がありますか?』『どうしてこうなのですか?』みたいな質問はダメ、ということだ。
「そして、すずめができる質問は10回。ただしここでは、答えることも質問1回とカウントする。その10回の間にすずめが正解できたらすずめの勝ち、正解できなかったらあたしの勝ち」
10回……その数が多いのか少ないのかはわからないけど、それで本当に答えにたどりつけるのだろうか……
「あと、間違った答えをしてもその場で負けにはならないわ。質問回数が減るだけ。……どう?」
「……わかったわ」
……わたしは心のなかで深呼吸する。
今更いろいろ言っても始まらない。もうわたしは逃げられないのだ……
「じゃあ行くわよ。『ある男は、お店にいろんな種類の寿司が並んでいるのを見て美味しそうだ、迷ってしまうとしきりにつぶやいていた。最終的に男はまぐろ、いくらを注文したが、食べることなく店を出ていってしまった』……さて、どうして?」
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