家の一員になるということ
「……
転校生のわたしは、クラスのみんなの前であいさつをさせられた。
軽く頭を下げて、顔を上げると感じるみんなの視線。
「赤崎さんは、家の都合でこの4月から学校に来ました。皆さん、仲良くしてくださいね」
若いお姉さんのような担任の先生が優しく話す。この先生は、どこまで赤崎家の、海老川の街のことを知っているのだろう。
「ねえ、すずめちゃんって呼んでいいかな?」
「鷹くんや隼くんとはどういう関係なの?」
案の定、休み時間になるとわたしの机の周りをクラスの子たちがわっと取り囲んだ。
「えっと、待って……順番に聞くから。わたしのことは、別になんと呼んでくれてもいいけど……」
知らない子達に囲まれるというのは、あまりいい気分ではない。
せめて鷹くんや隼くんがいれば、と思うがクラスは別になってしまった。
わたしは1組、鷹くんは4組、隼くんは5組。
「あ、聞いたよ? 赤崎家って、前の当主様が死んじゃったんだって」
「そうなの? もしかしてすずめちゃんもそれで……」
「わからないけど……すずめちゃんって海老川の外から来たんだよね? 海老川のことって知ってたの?」
やっぱり、そういう質問も飛んでくるのか。
「ううん、わたしそういうの全然知らなくて……鷹くんや隼くんはいとこなんだけど、それも海老川に来て初めて知ったことだし……」
「いとこ? もしかして一緒に住んでるの?」
「まあ……そうだけど……」
「いいなー」
女子たちからうらやましそうな声が飛ぶ。そういえばと思って、わたしから聞いてみた。
「鷹くんや隼くんって、学校ではどんな感じなの?」
その途端、女子たちの顔がぱっと変わる。
「それはもうかっこいいし」
「あと優しいよねー」
……やっぱり。
鷹くん隼くんは、学校ではイケメン兄弟として通っているのだろう。
やや対照的なところもある二人だから、どちらが好みかとかそういう話もありそうだ。
「ねえねえすずめちゃん、鷹くんや隼くんのことももっと教えてよ」
「あたしも。そうだ、メッセージ交換しよ?」
うーん……やっぱり赤崎という名字を持って、鷹くん隼くんと一緒に暮らしている時点で、目立たなくやっていくのは相当難しい、らしい。
――しかし、わたしが赤崎家当主として見られていることを本当に知るのは、その日の学校が終わった昼前だった。
「赤崎 すずめ! あなたが新しい赤崎家当主ね!」
その声に、わたしの周りに集まっていた女子たちがぱっと道を空けるように移動する。
そのおかげで、声を上げた彼女の姿がわたしからもはっきり見えた。
茶髪混じりのツインテールを揺らし、両手を腰に当てて胸を張りわたしを見下ろす。
大きな瞳で厳しくこっちをにらむが、怒ってるというよりは何か勝ち誇っているような、そんな感じ。
「……そうだけど……あなた、
わたしは名前を挙げる。だって、あまりにも鷹くんや隼くんから聞いてた特徴通りの見た目だったから。
同い年だということは知っていた。いつ絡んで来るかなと思ったけど、初日から早速だった。
「ええそうよ、あたしは
蒼衣ちゃんは並んだ机越しに、右手で真っ直ぐわたしを指差す。初めて会う人に対して、鷹くんとかとは別のなれなれしさがある。
蒼衣ちゃんはその名の通り、『海老川四家』の一つである龍沢家の現当主の一人娘。
龍沢家は今でも結構な資産家で、家には高そうな美術品がたくさん置いてあるらしい。
その娘である蒼衣ちゃんも、いかにもお金持ちの子どもという態度で、事あるごとにそういうのを見せつけてくる、というのが鷹くんから聞いていた情報だ。
「なんでってそれは……」
「あっ、さては鷹から聞いたのね。ちょっと何勝手に話してるのよ」
「いや、すずめにだって海老川の説明しなきゃだし、これぐらいは良いだろ」
蒼衣ちゃんの後ろからひょいと鷹くんが現れる。
「……まあいいわ。それより、ちゃんと言ったんでしょうね? 最初の家は龍沢家だって」
「それはさすがに言えねえよ、分かってないことなんだし」
「ちょっと! 龍沢家に代々伝わるご先祖様の日記に書いてあるのよ! それをうそだというつもりなの?」
蒼衣ちゃんの声が大きくなる。蒼衣ちゃんと鷹くんの身長は同じぐらいだ。
ちなみに鷹くんは普段、龍沢家に頻繁に出入りしているんだとか(鷹くん自身は赤崎家のためのスパイ活動だとか言ってるが、隼くんに言わせると鷹くんの謎解き力を上げるための武者修行らしい)。
だからなのか蒼衣ちゃんも怒ってるという感じじゃないし、鷹くんも軽い調子だ。
「別にうそだなんて言ってねえよ。でもさ……」
「あら蒼衣。前も言ったじゃない、その日記に書かれていることが本当だって証拠はどこにもないと。そんな妄想めいたことを言ったら、赤崎家の新当主に失礼じゃないの」
新たな声がして、わたしは振り向く。蒼衣ちゃんも鷹くんも、周りの子も注目をそこに集中させる。
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