赤崎家のテスト
***
「すずめさん……ようこそ、赤崎家へ」
畳の上、厚い座布団に正座したおばあさんが、ゆっくりと頭を下げる。
「えっと、よろしくお願いします。赤崎 すずめです」
「すずめ、おばあちゃん相手にかしこまらなくてもいいんだぜ」
「まあ仕方ないだろ。すずめは会うの初めてなんだし」
わたしが合わせて頭を下げると、おばあさんの隣であぐらをかく鷹くんと、足を伸ばす鷹くんから声が飛ぶ。
……ん? 鷹くんが二人?
でも、それぐらいこの二人は、良く似ている。
「それもそうか、俺らにも緊張してたしな。隼も大変だったか?」
「当たり前だ。鷹がなれなれし過ぎるんだよ」
「えー。親戚なんだから良いだろ」
気を抜くと、どっちがどちらかわからなくなりそうだ。
「私は、赤崎 ことりです……この通り私にできることはあまり無いので、孫たちをよろしくお願いします」
鷹くんたちによると、ことりばあさんは今年で80才。
足腰がかなり弱っており、ほとんど家からは出ないらしい。
……二人目の鷹くん、もとい隼くんが出てきて、『家の中でちゃんと説明するから』と言われた。
言われるがままに玄関から入り、居間に来るとことりばあさんが待っていた。
「すずめも疲れただろ、座れよ」
それで、スーツケースを部屋の隅に置いて、そのまま引っ越しのあいさつが始まったのだ。
まず名乗ったのが、ことりばあさんである。
「おばあさん……でいいの?」
「ああ、まあ……」
「それでいいの、かな」
わたしの言葉に、鷹くん隼くんが互いの顔を見合わせる。
……?
「俺たちも自己紹介するか。改めて、俺は赤崎
「で、鷹と公園のトイレで入れ替わって、すずめをここまで連れてきたのは自分。赤崎
……顔は鏡合わせのようにそっくりだが、今は髪型が違うので見分けはつく。
駅で初めて会ったときと同じ、普通の髪型なのが鷹くん。
一方、隼くんの髪はぼさぼさになっている。きっと寝ぐせが立っていても気づかないだろう。
「すずめと同じ、今度から5年生になる。よろしくな」
「よろしく。それと……さっきはすごかったな。隼、結構慌ててたぞ」
「えっ、そうなの?」
表情変わったな、と読み取るのがやっとだったのだけど。
普段から見慣れてる双子の兄弟だからこそわかるものもあるのだろうか。
「ああ。珍しい顔を見れたぜ」
「……はあ。大変だったんだぞ鷹のふりするの。お前があんまりすずめに気軽に接するんだから」
「隼くんは……もしかしてやりたくなかったの?」
「まあ……でも、鷹が『すずめを試すにはこれしかない』って言って聞かないから、仕方なく」
……わたしを試す、か。
「そういうわけだ。……母さんから言われたんだよ。『この赤崎家を任せるにふさわしい人間か、すずめさんをテストしなさい』って」
鷹くんは、そう言って右手で髪をかき上げる。
「テスト?」
やっぱり……赤崎家は普通じゃないんだ。
「ああ。というのも……」
「ただいまー」
隼くんの声を遮って、女性の声が聞こえてきた。
***
「改めて、赤崎
「すずめのことなら文句なしの合格だよ」
「良いんじゃないの?」
家に戻ってきて居間に入ってきたのは、朱那おばさんだった。
顔を合わせるのは、両親の葬式の日以来。だけど、厳しい視線はあの時と同じ。
「……そう。じゃあ早速、本題に行きましょうか」
朱那おばさんは、ことりばあさんの隣に正座。
……しかしこう見ると、朱那おばさんも結構美人と言えるのではないだろうか。
母さんには申し訳ないけど、姉であるはずの母さんとはあまり似てない。
母さんとは少し年の差があるようだけれど……
「すずめさんには、この赤崎家の当主になっていただきたいのです」
――え?
とうしゅ、という言葉を漢字に変換するのに、少し時間がかかった。
「当主って、そんな大げさな……」
「いえ、赤崎家は江戸時代初期から続く、由緒正しき『海老川四家』の一つ。その歴代当主の血を引くすずめさんには、この赤崎家を背負って立つ義務がある」
……ちょっと待って、話が大きくなってきた。
江戸時代?
わたしが、歴代当主の血を引くって……
「鷹、隼、すずめさんに説明してないの?」
「ずっとすずめをテストしてたから、時間が無かったんだって。な、隼」
「鷹は余裕あっただろ。さっきも言ったけど、俺は鷹のふりをするのに必死だったんだ」
「……はあ。ではすずめさん、私から説明します。……海老川が『謎解きの街』と呼ばれているのはご存知で?」
「……はい」
なんたって、駅前のビルの垂れ幕や、街なかの掲示板にまで書いてあるのだ、嫌でも目に付く。
「その由来は、江戸時代の初めにまでさかのぼります。当時この辺りは、江戸からの街道が海老川の水運と交差する、交通拠点として栄えていました」
海老川という川の名前は聞いたことがあった。その川が街の中心部を流れているから海老川市、ということらしい。
「街には旅行者や商人を客とした、たくさんの宿屋や茶屋が並んでいたそうです。その中で特に規模の大きかった茶屋が4つあり、互いに客の争奪戦を繰り広げていました。これが『海老川四家』の始まりで、我々赤崎家の先祖もこの地に店を構え、多くの客をもてなしていたそうです」
……へえ。
確かにそれは、由緒正しきと言えるかもしれない。
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