第25話 主砲! 斉射三連!
敵の攻撃は、一層激しくなった。
長距離ビームを放ったかと思えば、艦載機が突撃してきて近接戦闘を仕掛けてくる。
ウルフ先輩の艦隊が、敵の攻撃を的確に防いでいる。
俺の乗る戦艦ジャガーノートは、ウルフ艦隊の中央で超巨大ビーム砲アイゼンハーケンにエネルギーを充填し発射に備えている。
ウルフ先輩は、映像通信を開いたままで、俺を心配そうに見ている。
「どうだ? いけそうか?」
「非常用の小型ジェネレーターは接続しました。これでアイゼンハーケンを撃っても通信は確保出来ます」
ウルフ先輩は、大急ぎで小型のジェネレーターを戦艦ジャガーノートに運び込んでくれた。
小型なので出力はお察しだが、エネルギー切れになっても通信が確保出来るのはありがたい。
戦艦ジャガーノートから超巨大ビーム砲アイゼンハーケンにエネルギーを充填しているが、時間が掛かっている。
補給船からエネルギーを充填するよりも、エネルギー流路が複雑で細いのだ。
俺は待っている間、ウルフ先輩に話しかけた。
「しかし、攻撃が激しいですね」
「うむ。怖いのだろう。アイゼンハーケンがな。長射程の大出力砲を撃たれる前に、接近し混戦に持ち込むのがメルト提督の狙いだろう」
「さすがメルト提督ですね。ですが……」
「ああ。我が方有利だ。メルト提督は判断を誤ったな。コンドール要塞の前面に布陣すれば良かった」
「そうですね」
もしもコンドール要塞の真ん前に布陣していれば、敵メルト提督はコンドール要塞の要塞砲を使うことが出来た。
作戦を立てる前提条件が、まったく違うのだ。
そろそろだろうか?
「副長。どうか?」
「エネルギー充填九十五パーセント! 間もなくです!」
「ウルフ先輩。突撃の準備を!」
「うむ!」
ウルフ先輩が腕を組んで力強くうなずく。
通信員が俺に振り向く。
「本営から目標座標来ました!」
「読み上げろ!」
「目標宙域の座標! アルファ! ニー、イチ、! ベータ! サン、サン! シータ! ロク、ゴー!」
俺は復唱しながらコンソールを操作する。
目標宙域の座標を入力し終えた。
「副長!」
「あと二パーセント……。一パーセント! エネルギー充填百パーセント!」
「ウルフ先輩! 射線を開けてください!」
「了解した! 戦艦ジャガーノート前方の艦は散開しろ! 巻き込まれるぞ!」
ウルフ先輩の命令が艦隊に飛ぶ。
メインスクリーンに表示された艦隊図が大きく変化する。
戦艦ジャガーノートの前から、全艦艇が逃げているのだ。
敵を除いて。
もう、少しで射線が開く。
もう、少し……。
「敵! 戦闘機群来襲!」
「構うな! エネルギーはアイゼンハーケンだ!」
通信員がガナる。
俺は瞬時に無視を決断し、アイゼンハーケンに集中した。
まだ、敵戦闘機群との距離がある。
間に合うはずだ。
早くどけ!
射線を開けろ!
メインモニターの艦の動きが遅く感じる。
俺はジリジリしながら射線が開くのを待った。
「敵戦闘機群! 至近!」
メインモニターの端に敵戦闘機群が見えた。
ダメか?
いや……、射線が開いた!
「アイゼンハーケン! 発射!」
俺はコンソールパネルのボタンを押した。
超巨大ビーム砲アイゼンハーケンが唸りを上げる。
戦艦ジャガーノートの構造物を伝って、発射の振動と音が艦橋に伝わる。
アイゼンハーケンのビーム出力に、メインモニターが真っ白に光り輝く。
すぐにメインモニターはダークモードに切り替わった。
「敵戦闘機群消失!」
「アイゼンハーケン! 目標宙域の敵艦隊に直撃!」
「敵艦隊が蒸発しています! 凄い! 千隻以上の戦果です!」
観測員から次々と報告が入る。
同時に、ぷつりと電源が切れた。
俺は真っ暗な中で、つぶやいた。
「ああ~」
副長が冷静に返す。
「非常用ジェネレーター起動します!」
通信員のコンソールパネルが復活し、真っ暗な艦橋の中でほのかに光っている。
艦橋のスピーカーから、ウルフ先輩の声が聞こえてきた。
「戦艦ジャガーノート! 聞こえるか! デイビス・ジャガー! 返事をしろ!」
俺を心配している声だ。
俺は嬉しさから微笑み、ウルフ先輩に返事をした。
「こちら戦艦ジャガーノート。デイビス・ジャガー少佐です。非常用ジェネレーターで通信が復旧。なれど航行不能」
「おお! 無事か! よくやってくれた! 敵は大混乱だ! あとは任せろ!」
「お願いします!」
ウルフ先輩の声がスピーカーから雄々しく響く。
「主砲! 斉射三連! 突撃!」
ウルフ先輩の命令を最後に通信は切れた。
俺はブリッジ全員に声をかけた。
「お疲れ様! やあ、なんとかやりきった!」
「はぁ~。まったくローエングリン侯爵も人使いが荒いですね。こちらは輸送船の護衛が普段の仕事なのに、最前線ですからね……」
副長がぼやいた。
俺は副長や船員たちをなだめる。
「まあ、そう言うなよ! ローエングリン侯爵から、特別ボーナスをもらってやるから」
「本当ですね! 約束ですよ!」
「ああ、任せてくれ!」
おそらく我らローエングリン侯爵陣営が勝つだろう。
俺たちジャガー男爵領補給船団は、補給に戦闘に大活躍したんだ。
特別ボーナスくらいもらえるさ。
しかし……遅いな……。
曳航艦から連絡がない。
俺たち戦艦ジャガーノートは、宇宙を漂っているのだが……。
重力発生装置もオフになっているので、フワフワしてかなわない。
「通信員。曳航艦に連絡してくれ。早く後方へ引っ張ってエネルギーの補給をさせてくれと」
「承知しました。こちら戦艦ジャガーノート! 応答願います! えっ……、いや、それは! ちょっと!」
なんだろう?
通信員がモメている?
何かあったのだろうか?
「どうした?」
真っ暗な中、通信員の不機嫌な顔が通信コンソールパネルの光に照らされた。
「曳航艦はいません……」
「えっ!? どういうこと!?」
「曳航艦も一緒に突撃してしまったそうです……」
「なっ!? なんで!?」
「アイゼンハーケンの一撃に興奮して我慢ならなかったと……。一暴れしたら戻ってくるから待っててくれ――だそうです」
「そんなのありかー!」
真っ暗な宇宙空間の中、戦艦ジャガーノートは漂っていた。
いつまで待てば迎えが来るのか……それは神のみぞ知る。
俺たちは! 大活躍した! 戦艦ジャガーノートだ!
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