第17話 メルト提督の狙い

 俺は少佐で小さな補給船団を動かすだけの立場だ。

 怒濤のウルフと呼ばれるウルフ先輩に何を語るやと思ったが、ウルフ先輩が楽しそうにしているので、自分の見立てを話すことにした。


「ここ五日の挑発行動で我が軍は、一万隻以上の敵を葬りました。メルト提督としては手痛く感じたでしょう」


「うむ。メルト提督は、数的な有利が崩されると考えただろう」


「さらに、敵は統制が難しくなっていると思います。勝手をする貴族が増えたのではないでしょうか?」


「間違いないだろう。その状況で全面攻勢に出た理由は?」


「はい。今なら数的な有利は敵にあります。メルト提督としては、数的有利があるうちに我が軍を打ち倒したいでしょう。メルト提督の言うことを聞かない貴族も前線に押し込めば、否応なしに戦うでしょう」


「そうだな。メルト提督の判断は的確だ。敵ながら、さすがだ」


 ウルフ先輩は真顔になり、深くうなずいた。


 ああ、ウルフ先輩!

 大事なことに気が付いていないのですか!

 やはり前線で剣を振る武人ゆえに見えないことがあるのですね。


 俺は頭を一つ振るとウルフ先輩に、大事なことを話し始めた。


「ウルフ先輩。メルト提督の狙いは、それだけじゃありません」


「何!? まだ、何かあるというのか!?」


 ウルフ先輩が厳しい顔をする。

 自分が想定していないことに身構えているのだ。


 俺は短く告げた。


「補給です」


「補給……ああ! そうか!」


 さすがウルフ先輩。

 すぐに理解をしてくれた。


「全面攻勢は、我が軍の補給にも過剰な負荷がかかります。まだ、物資集積宙域は大丈夫ですが、一光年先の後方補給基地の物資がかなり減っているそうです」


「その情報はどこから?」


「後方の補給基地から高速輸送をしている補給部隊の士官からです。これだけの大軍ですから、食料だけでも一日に四千万食以上消費されるのです。物資を積んだ超大型コンテナが、あっという間にグロス単位で消えます。」


「不味いな……、メルト提督の狙いは、我が軍の兵站に過剰な負荷をかけることでもあるのか……」


 ウルフ先輩が首をひねり疑問を口にした。


「ん? いや、待てよ? 全面攻勢をかけている敵側も兵站に負荷がかかるだろう?」


 俺は再び手短に答える。


「コンドール要塞」


「ああ! しまった! 俺としたことが! メルト提督は、コンドール要塞で生産した物資を利用出来る。我らは大銀河中から物資をかき集めなければならん!」


「まあ、実際には、いくつかある補給基地に物資を集積していありますので、ピストン輸送で対応出来ますが……」


「兵站の負荷で見れば、我が軍が不利……」


 ウルフ先輩が押し黙る。

 不味かったかな?


「すいません。景気の悪い話で……」


「いや、良いんだ。窮地に陥ってから自軍の弱点を知るより遥かに良い! デイビス! よく教えてくれた! 俺からローエングリン侯爵に注意喚起をしておこう」


「よろしくお願いします」

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