第18話 銀河水平面三時方向

 ――翌日。


 補給体制の再編成が行われた。


 前線から補給船を引き抜き後方へ回す。

 補給基地から補給基地への物資輸送が強化された。


 戦略的に見れば、正解だと思う。

 さすがローエングリン侯爵。

 略して『さすロー』。


 だが、俺たちジャガー男爵領補給船団はさらに忙しくなった。



『ジャガー! 朝メシは――』


『ソーセージ! クロワッサン! 目玉焼き! 積み荷の下ろしを手伝って下さい!』



『デイビス・ジャガー! ミサイルがなくなりそうだ!』


『あと十分で到着します! 受け入れ準備を願います!』



『ジャガー少佐。ザワークラウトは、もう、ないか? 兵士がうるさくてな……』


『一ロットだけ残ってるので、次の便で持ってきます!』



 オンボロ宇宙戦艦とオンボロ輸送船なのに、どうしろというのか。

 外付けのロケットは余ってないかなと真剣に考えてしまう。


 レーザーとミサイルと将兵の泣き言が飛び交う前線付近で、俺たちは必死に補給を行った。


 敵は全面攻勢を継続している。

 敵を二万隻以上削ったが、我が軍も五千隻やられた。


 キルレートはこちらが有利だが、補給の負荷は確実に大きくなっている。

 兵站では我が軍が不利だ。


「敵を打ち倒すのが先か? 俺たち補給部隊が過労死するのが先か? 賭けるか?」


 そんなジョークが、一瞬で補給部隊の間に広がった。

 ちなみに賭けは不成立。

 補給部隊の過労死にかける者ばかりだったのだ。



 俺たちジャガー男爵領補給船団は、物資集積宙域で荷物を積み込み前線へ向かった。

 移動中に船員を交代で休ませる。

 酒はダメだが、カプセルベッド睡眠を取らせ疲労を回復させるのだ。


 船団は物資集積宙域と前線の中間地点に差し掛かった。


 俺は艦橋の艦長席に座り、コーヒーを飲みながら索敵モニターを見ていた。

 艦橋はリラックスした雰囲気だ。

 俺も楽な姿勢を取っているが、気は抜いていない。


 なぜなら――。


「レーダーに感! 百隻以上の艦艇が、銀河水平面三時方向から接近!」


 俺は艦長席から飛び起きて指示を出す。


「おいでなすった! 総員起し! 通信員! 所属を確認! オープン回線で呼びかけろ!  観測員! 敵味方識別信号を確認! 艦型を確認しろ!」


 通信員がコンソールにしがみつき、必死に通信を始めた。


「接近する艦隊! 所属を述べられたし! 所属を述べられたし!」


 すぐに休憩していた副長が艦橋に上がってきた。

 あごのヒゲをさすりながら、厳しい目をレーダーに向ける。


「ぼっちゃん。敵ですか?」


「敵だ」


 俺は断定する。

 副長は不思議そうに俺に聞き返す。


「ここは後方ですよ? 前線でもないのに、敵がいるなんて――」


「副長。敵だよ。俺が敵のメルト提督なら補給部隊を襲う」


「……」


 俺の言葉に副長が押し黙る。

 副長の目に危機感がうかがえる。


 俺は自分の予測を述べた。


「少数の足の速い艦艇で戦場を大きく迂回させ、補給部隊をゲリラ的に攻撃するのだ」


「成功しますかね?」


「成功しても、しなくても良いんだ。もし、敵に補給部隊を襲撃されれば、ローエングリン侯爵は、補給部隊に手厚い護衛をつけざるを得なくなる。我が軍は補給に負荷がかかっているからね」


 副長は深くため息をついた。


「はー……。我が軍の一番やって欲しくないことを、敵さんはやるわけですね」


「戦争だからね。さあ、歓迎の準備をしよう!」

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