第14話 カプセルベッド

 俺たちはアイアン提督の艦隊に合流した。

 アイアン提督から映像通信が入る。


 艦橋のメインスクリーンにアイアン提督が映し出された。


「補給ご苦労。流れ弾が着弾したようだが大丈夫だったか?」


 アイアン提督は、士官学校で二期上の先輩だ。

 真面目で成績優秀と有名だった。

 すでに准将の地位にあるのだから、実戦でも優秀だったのは間違いない。


 鉄のような鈍い灰色の髪。

 強い意志を感じさせるグレーの瞳。


 俺は真面目なアイアン提督にあわせて、しごく真面目な口調で対応した。

 戦闘の後で気が立っているかもしれないから、『先輩』などと気軽に呼ぶことは出来ない。

 ここはカタめに対応しよう。


「はっ! 我が戦艦ジャガーノートに着弾しましたが、損害はほぼありません。ブリッジで一人負傷しただけです」


「それは重畳」


「貴艦隊からリクエストがあったザワークラウトも無事です」


 アイアン提督の表情が緩んだ。

 軽く笑ってくれた。


「ふっ……。そうか、兵士から『故郷のザワークラウトが食べたい』と聞いた時は、無理だと思ったが、手に入れてくれたのか……。ありがたい!」


 雰囲気が少し柔らかくなった。

 俺も口調を和らげる。


「後方勤務のフェルマー少佐が頑張ってました」


「そうか。この戦いが終ったら礼をしよう。貴官もよく運んでくれた。補給に感謝する」


「ありがとうございます。負傷者は戦艦ジャガーノートで引き受け後送します。補給物資の運び込みに、手の空いている兵士のお手伝いをお願いします」


 戦闘は終った後も大変なのだ。

 負傷兵の治療、後送。

 傷ついた艦の修理。

 補給物資の受け入れ。

 兵士への食事、休憩。

 やることは山ほどある。


 俺とアイアン提督はテキパキと仕事の分担を決めた。


「ところで貴官はちゃんと寝ているのか? ヒドイ顔をしているが……」


 アイアン提督の顔が曇る。

 俺を心配してくれるのか。

 兵士のザワークラウトの件といい、結構優しいんだな。

 もっとガリ勉エリートな人かと思っていた。

 認識を改めよう。


「船員は交代で休ませておりますが、ブリッジは人員に余裕がなくて……」


「何日寝てない?」


「私は二日です。他の者は、丸一日寝ていません」


 アイアン提督が深くため息をついた。


「補給部隊に過度な負担がかかっているようだ。そちらのブリッジに交代要員を送ろう。補給の間にカプセルベッドで休むとよい」


「よろしいのですか?」


「ああ。我が艦隊から『ザワークラウトの礼』だと思ってくれ」


 アイアン提督がニヤッと笑った。

 俺はアイアン提督の申し出を受けることにした。


 カプセルベッドは特殊な箱だ。

 この箱に入って寝ると、睡眠を誘導し疲れを取ってくれる。

 カプセルベッドで三十分睡眠を取れば、八時間の睡眠と同じ疲労回復効果がある。

 ――と士官学校で教わったが、俺はベッドで八時間ぐっずり寝たい気分だ。


 絶え間ない補給。

 戦闘宙域への航行。

 戦闘に巻き込まれないかと精神をすり減らし、先ほどは流れ弾の直撃をうけた。

 疲労困憊……疲れがピークに達している。


 俺はカプセルベッドに入った瞬間、ゼロコンマ一秒で眠りに落ちた。

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