第9話 アイゼンハーケン……なのか?

 超巨大ビーム砲アイゼンハーケン。

 まったくとんでもない自爆兵器だ!


 一発撃ったら宇宙戦艦のエネルギーを使い尽くしてしまう。

 アイゼンハーケンを撃った戦艦は、宇宙空間を漂うことになる。

 それも戦闘宙域でだ!

 敵の良い的じゃないか!


 俺たちは、クルップの親父さんをボコボコにしたが、クルップの親父さんは懲りない。


「まあ、聞けよ! アイゼンハーケンを積んだ戦艦に輸送船を随伴させるんだ! 輸送船にエネルギーをシコタマ積んでおけば――」


「輸送船をエネルギーパックにするのか!?」


「理にかなってるだろう? 輸送船のエネルギーを使って、超巨大ビーム砲アイゼンハーケンを放つ! 戦艦のエネルギーは残る! 撃ち終わったら、戦艦のエネルギーを使って、すたこらさっさ!」


「そんなに上手く行くか……?」


 クルップの言うことは、理屈の上では上手く行きそうだが……。

 実運用としては、どうなのだろう?


 いや、ダメだな。

 俺たちの船団は五隻の大型輸送船で編成されていると、ローエングリン侯爵に報告してしまった。

 ローエングリン侯爵サイドは、大型輸送船五隻で運用計画を立てている。

 一隻をエネルギー供給艦にしては、ローエングリン侯爵サイドの計画に支障を来す。


「クルップ。輸送船は五隻必要なんだ。一隻をエネルギー供給艦にするのはダメだ」


「大丈夫! 輸送船もあるんだ!」


 クルップが艦橋から地上を指さす。

 指さす先には、スクラップ同然の輸送艦が横たわっていた。


「あれか!? 動くのか!? この宇宙戦艦ジャガーノートより古そうだぞ!」


「姿勢制御スラスターは生きてる。メインエンジンは、部品取りで使っちまった」


「じゃあ、飛ばないじゃないか!」


「宇宙空間は牽引すりゃ良いだろう?」


「大気圏内は?」


「衛星軌道上に待機させとけ! ワープエンジンは健在なんだ。問題ねえって!」


「問題大ありだろう……。第一誰が動かすんだ? 船員の予備はいないぞ!」


「ケーブルでつないで母艦と連動させりゃ良い。スラスターの操作はAIでイケる!」


 クルップの親父さんは、無茶苦茶言っているが、微妙に出来そうな感じなんだよな……。

 クルップの親父さんは、グイグイ推してくる。


「アイゼンハーケンは、一発で戦艦も巡航艦も吹き飛ぶんだ! 決戦兵器ってヤツだぞ!」


 確かに一発の威力が大きい艦砲は魅力がある。

 使いどころは限られるが、艦隊決戦となれば出番があるかもしれない。


「他にはないのか?」


「ない!」


「ないってことはないだろう?」


「じゃあ、聞くがな。艦載機を増やすか? 誰が操縦するんだ? 普通のレーザー砲を増やすか? レールガンを載せるか? 誰が操作するんだ?」


「AI……じゃ、ダメだよな……」


「単独で行動するなら良いぜ。けど、船団は五隻だろう? 味方艦との連動までAIはカバーしちゃくれないぞ。それにアンタたちは、ローエングリン侯爵の陣営で戦うんだろう? 艦隊決戦の時に出番はないのか? 艦隊内で臨機応変に行動するのはAIじゃ無理だぞ」


「そうなんだよな……」


 AIにも限界はあるのだ。

 艦隊決戦のように敵味方が入り乱れる複雑な環境で、AIは力を発揮できない。

 現在のAIでは、刻一刻と変化する戦況に対応するほどの能力はないのだ。

 だから、戦闘艦の操作には乗組員が必要だ。


 だが、戦艦ジャガーノートは、乗組員が少ない。

 補充も出来ない。


 クルップの親父さんは続ける。


「この旧型戦艦のエンジンを最新型にして機動力を上げるって方法もなくはないが……。新型エンジンは、エネルギーチューブの口が違うんだ」


「自作できないかな?」


「無茶言うなよ! 新型エンジンは高出力なんだぞ! 自作した口なんて、すぐに壊れちまう。メーカー純正一択! それにジェットノズルが保つかわからんぞ!」


「新型戦艦と旧型戦艦じゃ設計思想が違うからな……。いやドクトリンの違いか……」


 俺が乗る戦艦ジャガーノートは旧型艦で、新型戦艦とは根本的に考えが違うのだ。


 宇宙船の星系間移動は、ワープを使う。

 ワープエンジンを使うので、艦型で移動スピードに差は出ない。


 だが、ワープはどこでも出来るわけじゃない。


 恒星、惑星、衛星の動き。

 恒星から発せられるエネルギー流。

 ワープする場所に存在する他の宇宙船の有無。

 ワープアウトする場所の状況。

 色々な要素を勘案してワープしなければならない。


 ゆえに、星系内では通常エンジンで移動することが多い。

 通常移動ではエンジンの性能差が出やすいのだ。


 かつて帝国軍は大艦巨砲主義で、大きく、防御力が高く、大口径の長距離砲を搭載する戦艦が好まれた。

 俺が乗るドレッドノート型は、大艦巨砲主義時代の戦艦だ。


 現在の帝国軍は、機動力重視にドクトリンが変更されている。

 戦場を素早く移動し、相手より有利な位置を取ることをヨシとする。


 機動力ドクトリンに沿って開発された最新型の戦艦は、大艦巨砲主義時代の戦艦よりもコンパクトだ。

 エンジンは技術進歩で高出力を得られるようになったので速度もある。


「色々考えると、アイゼンハーケンは悪くないのか……」


「だろ! やろうぜ!」


 選択肢はなかった。

 俺は超巨大ビーム砲アイゼンハーケンを戦艦ジャガーノートに搭載し、エネルギー供給艦として中古の輸送船を買い上げた。



 整備が終わり、超巨大ビーム砲アイゼンハーケンの試射を行おうと宇宙空間を移動していると帝都から超空間通信が入った。


 艦橋の通信員がメッセージを読み上げる。


「発、帝都、ダルメシアン大佐! 宛、ジャガー男爵船団、デイビス・ジャガー少佐! 内乱が発生! 至急戻られたし!」

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