第7話 クルップ工廠
俺は宿泊先のホテルに帰ってきた。
「まいったな……」
ダルメシアン大佐から、支度金として百億帝国マルクの小切手を渡されたてしまった。
『戦艦の武装を強化しておくように』
――だそうだ。
つまり、俺はローエングリン侯爵派に組み込まれてしまった。
内乱が起った場合は、ローエングリン侯爵の旗下に馳せ参じるようにということだ。
親父に超空間通信で連絡をすると、ジャガイモが高く売れたことを喜び、ローエングリン侯爵派に組み込まれたことを怒った。
親父としては、中立でいるつもりだったのだ。
『父上。気持ちはわかりますが、既に帝都は開戦前夜です。日和見は許されません』
『ぐぬぬぬ……』
俺は何とか親父を説得した。
ローエングリン侯爵に百億マルクも支度金をもらっておいて、今さら『中立です』とは言えない。
それにローエングリン侯爵は名将だ。
名門貴族の連中がローエングリン侯爵に勝てるか?
難しいだろう。
政治闘争であれば、名門貴族派にも勝ち目はあるが、武力闘争となればローエングリン侯爵が勝つ。
ローエングリン侯爵の旗下には、ウルフ先輩を始めとし有能な将官が沢山いるのだ。
それに、バター・ピーナッツの野郎に嫌味を言われ続けるのも嫌だ。
それならローエングリン侯爵に味方をして、バター・ピーナッツに戦場で一撃かましてやる!
結局、親父は今の状況を利用して、さらに食料を売りつける算段を始めた。
領地で準備するそうだ。
さすが領主! しっかりしてるな!
俺はダルメシアン大佐から受け取った百億マルクで戦艦ジャガーノートを強化することにした。
だが、宇宙艦隊のドックは、ローエングリン侯爵の艦隊整備で一杯だ。
俺は民間のドックを探した。
すると、帝都から一光年先の星系に、大型宇宙船を整備できる工廠を見つけた。
ドックの名前は、クルップ工廠だ。
戦艦ジャガーノートでワープして、クルップ工廠へ向かう。
「うわ……」
クルップ工廠を見て、俺は呆れた声を上げる。
クルップ工廠は、人が住む惑星の衛星にあった。
重力の少ない小さな衛星だ。
空気がないので人は住んでいない。
クルップ工廠が衛星を占拠しているのだ。
ドックは大型で、宇宙戦艦も余裕で入渠できるサイズだった。
それはいいのだが……。
ドックの周りには、宇宙船の残骸が散らかっていて、ジャンク屋といった様相を呈している。
ここで宇宙戦艦の武装強化が可能なのだろうか?
戦艦ジャガーノートにクルップ工廠の社長であるクルップが乗り込んできた。
クルップは宇宙ドワーフといった外見の頑固そうな親父だった。
帝国軍で技術者として働いていたが、定年退職を機に民間工廠を開いたそうだ。
クルップは、宇宙戦艦ジャガーノートの艦橋を見回しながら嬉しそうに声を上げた。
「ドレッドノートか! 良い船を持ってるな! メンテも行き届いている!」
クルップは、戦艦ジャガーノートを褒めてくれた。
俺は機嫌を良くする。
「ありがとう。帝国軍の払い下げだけど、乗組員みんなで大事にしているよ」
ウンウンとクルップが嬉しそうにうなずく。
「ドレッドノート型は、貴族趣味的な美麗さはないが、拡張性が高いんだ! ベースの設計が良いんだよ! 古くたって、まだまだ使える船さ!」
「拡張性が高い……。それは知らなかった!」
俺はクルップの親父さんと意気投合した。
次の日から、戦艦ジャガーノートをどう改装するかをクルップの親父さんと打ち合わせた。
ダルメシアン大佐とも連絡を取り、内乱になった際の艦隊編成も教えてもらった。
俺の船団は、独立の補給部隊として動くことになるそうだ。
「……となると、防御力の強化か? エンジン周りの装甲を厚くして、エネルギーシールドの予備ジェネレーターを組み込むか?」
戦艦ジャガーノートの艦橋で、俺は堅実な案を口にした。
武装が物足りないとダルメシアン大佐に言われたが、補給部隊として参戦するなら防御力を強化という考え方もある。
クルップの親父さんは、口を尖らせる。
「まあ、それも悪くねえ。対空兵装を増やして、艦載機を寄せ付けないようにするとかな!」
「不満そうだね?」
「面白みがねえ」
「ん……確かに……堅実すぎる。実運用で切り札的な武装が欲しいな」
独立部隊として運用するならピーキーな性能の方が、俺の好みだ。
そもそもジャガーノートは宇宙戦艦で、元から装甲が厚く防御力は高い。
オーソドックスに防御力を強化するよりも、やはり攻撃力――武装の強化だろう。
俺の言葉に、クルップの親父さんが考え込む。
「切り札的な武装ねえ……そんな物は……あっ! あったな! ちょっと船を動かしてくれ!」
クルップの親父さんの指示で戦艦ジャガーノートをゆっくり移動させる。
衛生の上空をノロノロと移動していると、ガラクタが沢山置かれたクルップ工廠の隅に到着した。
「アレだ!」
「なに!?」
クルップの親父さんが指さす先に、巨大なビーム砲がゴロリと置かれていた。
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