第3話 帝都のバター・ピーナッツ伯爵令息

 俺の率いるジャガー男爵領輸送船団は、旧型の宇宙輸送船が五隻、旧型宇宙戦艦一隻の編成だ。


 戦艦の名前は『ジャガーノート』。

 戦艦ジャガーノートは、帝国軍で使われていた戦艦だ。


 退役する時に、スクラップ同然の値段で父が買い取った。

 旧型艦なので、無駄にデカくてゴツイ。

 全長は1500メートルもある。


 最新型の戦艦は、全長1000メートル前後で優美な曲線フォルムを持ち、移動速度が速い。

 最新型戦艦に比べれば、ジャガーノートはダサイ旧型艦だ。


 まあ、それでも、辺境星域に出没する宇宙海賊が相手なら、旧型戦艦でもオーバーキル出来るのだ。


 俺は旧型戦艦ジャガーノートに乗り込み船団の指揮をとった。


 船員百四十名は、全員農家の次男坊や三男坊で、実家でこき使われるのが嫌で船に乗り込んでいる。

 船が出ない日は実家の農業を手伝う。

 半農半船員というのは、辺境星域ならではだ。


 二十日の行程を走破し、我らジャガー男爵領輸送船団は、帝都に到着した。


 俺は早速ジャガイモの売り込みを開始した。


 しかし……。


「なんだ! ジャガイモ男爵ではないか! 生きていたのか! てっきりフライドポテトにされて平民兵士に食われたかと思ったぞ!」


 俺は士官学校の同期のツテを使って、有力貴族へ売り込みをかけた。

 だが、俺はバカにされている。


 相手は士官学校同期で、有力者ピーナッツ伯爵の息子バター・ピーナッツだ。

 コイツは伯爵の十男坊だか十二男坊だかで、ピーナッツ伯爵の血を引いている。


 一方、俺は田舎男爵の息子。

 貴族としては、圧倒的にバター・ピーナッツの方が格上なのだ。


 さらに軍の階級も上で、俺は少佐。バター・ピーナッツは准将だ。


 士官学校を卒業しただけで、階級に差がつく。

 これだから貴族社会ってヤツは!


 バター・ピーナッツは嫌なヤツだが……、コイツは派閥争いの一方――名門貴族派に所属している。

 コイツの父親ピーナッツ伯爵は名門貴族派でも、有力な貴族なのだ。

 親父の目論見通りなら、内乱を見据えて食料を買ってくれるハズだ。


 バター・ピーナッツは、ピーナッツ伯爵家の帝都屋敷のソファーにふんぞり返る。

 俺はふかふかの応接ソファーに居心地の悪さを感じながらも頑張って卑屈な愛想笑いを浮かべて、マッシュルームカットの同期生バター・ピーナッツと対話を続ける。


「ははは……。俺はジャガー男爵だよぉ! 冗談きついなぁ……」


「おお! そうそう! ジャガイモ男爵だな?」


「ええと……。はい、ジャガイモ男爵です……」


「はははっ! 面白いぞ! いや、もちろんわかっているさ。ジャガー男爵のご令息であるデブ君であったな」


「いや……その……デイビス……」


「ははははっ! 君は愉快な男だ!」


 バター・ピーナッツは、士官学校在学中から何かにつけ俺をいじめてきた。

 だが、直接手を出してこない。

 俺にネチネチ嫌味を言い、田舎者ネタでからかってくる。

 陰湿でタチが悪いのだ。


 バター・ピーナッツは、有力者ピーナッツ伯爵の息子だから、俺は逆らわないようにしていた。


 何せピーナッツ伯爵の血を引いているからな。

 ピーナッツ伯爵家を敵に回すのは不味い。


 まあ、俺をからかって、コイツがご機嫌になるなら、それで良い。

 問題はジャガイモだ。


「それで、どうだろう? 大型輸送船五隻分のジャガイモを買ってもらえないだろうか?」


「ジャガー男爵令息。君は何を言っているんだ?」


「いや、商売の話だが……」


 バター・ピーナッツは、バンと机を叩いた。

 音で威嚇する。

 いつもの手口だ。


「イカン! イカンなあ! 君は状況が分かっていない。この帝国では明日にも内乱が起るかもしれないのだぞ!」


「ああ。だから食料を――」


「だからこそ! 旗色を鮮明にし、自ら忠誠を示すべきだとは思わないかね? うん?」


 あっ……!

 つまり、俺たちのジャガイモをピーナッツ伯爵に献上しろと、バター・ピーナッツは言っているのだ!


 バカバカしい!

 何万光年もワープを繰り返して運んできたのに、どうしてタダでくれてやらなきゃならないんだ!

 きっと俺からタダで巻き上げて、自分の手柄にするつもりだな!


「いや、気が利かなくてゴメン! でも、これは父のジャガイモだから、俺に決定権はないんだ」


「うん、うん、そうか。では、早くお父上に確認をすることだな。貴殿らが忠誠を示せば、私が父上、ピーナッツ伯爵に伝えよう」


「わかった。ありがとう」


 俺は内心怒りながらも、愛想笑いを浮かべて商談を終えた。

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