第3話:アビリティとスキル

 ひとしきりパニックなった俺、しかしながらそれはずっとは続かなかった。 


「はぁ、少し落ち着いてきた。 とりあえず家まで・・・・・、どうやって帰ろう?」


 冷静になった俺はとりあえず自宅の無事を確認すべく帰路につくことにした。 流石に人がいなくなるといったこの状況、ここ以外も起きているとは限らない。 もしここのエリアだけ人がいなくなったのなら、警察やマスコミが嗅ぎつけてくるはず。 しかし結果としては誰も来ない。 つまりこの現象は他でも起きていると考えるべきだ。 

 だが、電車がこれでは家には帰れない。 歩くにしても片道数時間はかかってしまう、更に今は電気はついているが帰りは真っ暗な中を帰らなければならない。 


「しゃあない、車使うか」


 俺はホームを降りて駅前ロータリーまで歩いた。 駅前ロータリーなら何かしら車は止まっているはずだ。 ただ車のカギはあるのか、というか無事な車はあるのか?

 ロータリー前に着くと無事な車がたくさんあったが、道路側では電柱にガードレール、街路樹に建物に突っ込んで煙が立っている車もあった。


(ラッキー♪ ってなんで車が突っ込んでんだよ。 もしこれが誘拐なら一度停車させてからどこかに連れ去るはずだよな?)


 そう、これが営利目的の誘拐なら少なくともぶつけてから拉致なんてそんな手間がかかることはやらないはずだ。 そう考えると変なことが多すぎる。 そもそも誘拐ならそんな大人数を誘拐して何のメリットがある? スパイ? 兵士? ただそんな目的のためにこんな大規模な誘拐をするか? 

 よくわからなくなってきた俺はとりあえず考えるのをやめ、貸していただく車を探し始めた。 一応言っておくがこれは窃盗ではないぞ! それに無免許運転は本来は違法なため、ご注意だ。


「とりあえずこれでいいかな? 鍵は差し込んであるな・・・・・」


 少し大きな4wdに乗り込んだ俺だったが、自動車教習を受けたことはない。 当然扱い方はわからない。


「どうやって動かすんだよ。 えっと鍵を回して・・・・・、このペダルか? あっその前にシフトか?」


 悪戦苦闘しながら車を動かそうとすると、突然頭の中に声が響いた。


〈アビリティ【学習ラーニング】が発動しました。 スキル【騎乗Lv1】【ドライビングLv1】が作成されました〉

「ん? ラーニング? ・・・、って?」


 その瞬間だったさっきまでなれなかった操縦だが急にスムーズにできるようになっていた。 シフト操作はもちろんアクセルペダル、ブレーキなどの運転技術が出てきた。 さっきの声が何か関係あるのか? そんなことを思いながら走らせていくと、何かにぶつかったのか、ドンッ!!という鈍い音がした。

 

「なんだ?」


 おれは車から降りてぶつかった地点まで行く。 そこにいたのは人ではなかった。 汚れたどぶの色に近いようなくすんだ緑の肌に長い耳ととがった鼻、大きさは子供ぐらいだが頭は胴体に比べて大きかった。


「ゴブリン? えっ?なんで?」


 その戸惑いがまずかったのか、ゴブリンは体を起こして手に持っていた木製の棍棒らしきものをこちらにぶつけてきた。 俺はそれに反応が遅れ直撃を受け、車まで吹き飛ばされた。


「がぁ!! いでぇ・・・・・」


 あまりの痛さに少し体をうずくまりながら車のトランクを開けた。 もしかしたら武器があるかもしれない、そう思って。 結果は残念ながらなし。 この時の俺には絶望しかなかった。 それでも必死に探していると近くに工事現場があった。 俺は体を起こして走りながら武器を探していたが、あまりの痛さに気を失いそうになった。


〈アビリティ【痛覚遮断】【自動回復Lv1】を作成しました〉


 そう声が聞こえてくると痛みは和らいできた。 どうやら自分が欲しいと願った瞬間、アビリティはできるようだ。

 そんなことより武器を探しているとちょうどいいサイズの鉄パイプがあった。 それをもってゆっくり近づいてくるゴブリンを待ち伏せし、近づいてきたところをタコ殴りにするためだ。

 計画通り、ゴブリンは片足を引きずりながらやってきた。 まだ回復出来てはいないようだった。 俺はゴブリンめがけて鉄パイプを振り下ろした。何度も何度も・・・・・。 しばらくしてゴブリンは息絶えた。


「はぁはぁはぁ・・・・、どうなってんだよこの世界は・・・・え?なんだよあれ」


 ふと空を見上げると、そこには大きな黒い穴が開いていた。 ブラックホールぽいけど、あれはいったい何なのか? 今でもわからない。

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