第14話 商店街
俺はリノンと案内人と共に、商店街前の広場に居た。看板によると、この街の名前はクロルというみたいた。
オブジェの前で待ち合わせをする人々や、そのまま商店街に行く人などで大いに賑わっている。
「うぉっ、デカいカバンッスね!」
案内人は俺を見た瞬間驚きの声を上げた。
俺は今、金貨が大量に入ったカバンを持っているので体が重い。風魔法というもので軽量しているらしいが、それでも20キロは超えていた。
これが筋トレを終えたばかりの俺にはキツい。
不思議と昨日のトレーニングが休まなくても出来るようになったので、回数を倍にしたのが良くなかった。
だが、精神的に辛いだけで痛みや苦しさは無い。昨日リノンが言っていた体の再生能力が関わっているのだろうか。
案内してくれている人はビアードという冒険者らしい。
冒険者とは所謂、街の何でも屋の事だ。
彼は人懐っこくて大型犬みたいなヤツだ。彼に尻尾は無いが、尻尾をブンブン振り回しているのが見える気がする。
「冒険者のビアードっス! よろしくお願いしやッス!」
ビアードは人間なので、リノンは完全に警戒して俺の後ろから離れようとしない。
俺の背後から半分だけ顔を出して、気に入らないというように尻尾をペチペチと地面にたたきつけていた。なんだか猫のようだ。
ビアードは人間と言っても、実際にはオオカミの獣族の血も少し混じっているらしい。
だが分類上は人間になるそうだ。
確かにチェロナのようにケモミミもないし、人間にしか見えない。
セルゲンによると、頼む予定の者は他にも居たらしいのだが、竜族と、とんでもない覇気を放つ者がいると聞いて逃げてしまったという。
「リノンさんもよろしくしゃス!」
ビアードは勢い良くしゃがんでリノンに目線を合わせると、至近距離で元気の良い挨拶をした。
ああ、ダメだよそんな事しちゃ……。
「シャー!」
リノンは威嚇してしまう。
だがビアードはそれを威嚇と捉えていないのか、気にせず案内を始めた。
今日はまず買い物をして、夕方に宿屋を借りる事になっている。セルゲンにも相談をしていて、これ以上彼に頼る訳にもいかないし、今後の為にも宿屋の借り方を覚えておきたいのだ。
「イゴルが良かった」
「イゴルさんは今寝てるからダメだよ」
リノンはふてくされている。
イゴルさんはハーフリザードという夜行性の種族だから、昼間は寝ているのだ。
彼はリザードマンと人間のハーフで、純血のリザードマンは昼間は洞窟や穴蔵で過ごし、夜になると外へ狩りに出る種族だかららしい。
俺も異世界には多少慣れてきたが、様々な種族の話を聞くとやはり驚いた。
「まずは金貨を預けたり銅貨とか銀貨に替えて使いやすくするとこからッスよね!」
ビアードは高貴そうな建物に案内してきた。
だが出入りしている人々は平民のような格好から太っていて宝石のアクセサリーをジャラジャラ付けた者まで様々だ。
「ここは?」
「銀行ッスよ!」
中に入ると美人なお姉さんが対応してくれた。リノンは俺にしがみついていた。
銀行の部屋に飾ってあった紙に、貨幣の価値について詳しく書いてある。
それから分かった事だが、何かの記念に発行される宝石の付いた金貨が一番高く、ニ番目が今大量にある金貨で、百枚で宝石の金貨一枚と同じ価値になる。
金貨よりひとつ下が銀貨で、五十枚で金貨一枚と同じ価値。
一番下が銅貨で、これは十枚で銀貨一枚分の価値になるそうだ。
円とかドルみたいな単位もあるらしいが、ヴィスタの知らない文字なのか俺には読めなかった。
金貨を一部銀貨と銅貨に替えて貰ったが、残った大量の金貨を預けるのはリノンが待てと言ったので一旦リノンと話す事にした。
単にリノンが人間を信用していないというのも考えられるが、彼は長生きなので何か知っているかもしれない。
俺とリノンは人気のない場所に移動した。
「この腕輪をお前にやる。金貨はこの中に入れた方が直ぐに取り出せて便利だ」
リノンは付けていた腕輪をこちらに寄越した。昨日の凄そうな剣が出てきた腕輪だ。
「高そうなやつだけど大丈夫なの?」
「不安ならおれと一緒に行動しろ。腕輪の容量はそのカバンと同じくらいだから剣は出す必要がある。まぁ、入っているのは剣くらいだ」
リノンは腕輪を俺の腕にねじ込んできた。彼が良いと言うので使い方やその他諸々を聞いたのだが、かなり使い勝手が良さそうだ。
デザイン的にも、寝ながら付けても痛くなさそうなので四六時中付けられる。
「分かった。俺が預かっておくよ」
だが、俺にはまだ気になる事がある。
「ねぇ、最後に聞きたいんだけどさ、これってカバン同然だから、優先的に狙って取られたりとかしない?」
やはりここは、日本と比べれば治安が悪いので気になる。盗まれたら大変だ。
「あぁ、それは問題無い。魔導具にある程度知識がある者なら、それは着用した者を守る結界の機能の魔導具に見えるだろうからな」
リノンの説明によると、心臓部のとある魔物の魔石は結界の魔導具によく使われる物と全く同じ物らしい。
そもそも、魔導具を持てるくらい高貴な人物に手を出すのはあまり無いらしい。単純に戦闘能力が高い可能性もあるし。
「セルゲン達にこの腕輪について聞かれたときに結界の魔導具と勘違いされたんだ。
結界の魔導具なら、大体が着用者に勢いよく何かが近寄れば、自動的に発動する仕組みになっている」
なるほど、ならば俺の腕から盗もうと素早く手を伸ばされても、結界が発動して防がれる、と勘違いさせられる訳だ。
それが結果的に盗難を防止するのか。
「あ、それと、おれも魔力を腕輪に記憶させているから、遠隔操作できるぞ」
俺は腕輪から出した剣を手に持って、ビアードに声を掛けて建物を出た。
剣はどうしてもリノンに渡されて俺の物というになった。
彼からこの剣の性能を聞いたが、どうやら魔力組織とは物にも希にあるそうで、この剣にはその魔力組織があるらしい。
その魔力組織の働きだが、魔力を込めると威力強化と言って、魔力を込めるだけ剣を振ったときの勢いが増すのだ。
ただし、増した勢いの反動は軽減される事無く、そのまま手に伝わるらしい。
それと、剣が遠くにあっても手元に戻す事も出来るみたいだ。
細身で機能的なデザインに反して結構なパワー系の機能だ。ヒョロヒョロの俺に果たして使いこなせるだろうか。
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