第8話 剣
「うん……?」
そうか、俺はリノンが寄越した剣に触って気を失ったんだっけ……。
無性にあの剣を振り回したい感覚がある。剣の使い方というか、剣術が何となく出来るような気がする。
不思議な感覚だ。
窓の外は夕方だ。すごい眠いけどとりあえず起き上がろう。
あと、のどが乾き過ぎて痛い。この部屋に水あったっけ。
「えっ」
布団を捲るとリノンが隣で寝ていた。しかもピッタリくっついてきている。
俺が布団から出ようとすると、リノンは俺の服を掴んできた。
「待て。体は大丈夫なのか……?」
リノンにそう言われて意識してみると、体が軽い事に気付いた。火照った感じも無くなっていて、さっきよりラクだ。
そしてものすごい情報が流れ込んできた頭は、試験が終わったあとみたいな、めっちゃ疲れた感じがする。
こちらは何とか大丈夫そう。
そうか、リノンは寝ている間に魔力を貰うって言っていたし、余分な魔力を全部取ってくれたのか。
「魔力取ってくれたのか、ありがとう。体は平気だよ。水が飲みたいけど」
「水か。待ってろ」
リノンが呪文を唱えると、水の玉が出てきた。
「おお。リノンも魔法使えるんだ」
「魔力さえあれば誰でも使えるぞ?」
水は俺の口元まで浮いてきて、吸ってみたらミネラルウォーターの味がした。
けっこうおいしい。
「うぶフッ」
「お前水飲むのが下手だな」
寝ぼけていたら溺れかけてしまった。
でも大丈夫だ。このおかげで完全に目が覚めた。
「ケホッケホッ」
俺達はソファに移動した。
「なぁ、お前の出身は何処だ? 魔法について何も知らないなんてありえないぞ」
リノンは心配してくれた。
確かに疑問に思うのは仕方ないが、本当の事を話しても信じてもらえるだろうか。
そもそも、この子供は信じても良いのだろうか。
「話すのはいいけど、まずはリノンからだ。俺はお前の事を信じていいか迷ってるんだ」
リノンはハッとしていた。
「確かに。それもそうだな」
リノンは真剣な顔になって話し始めた。
「強王については知っているか?」
「それは知ってる。三人いるやつだろ?」
「そうか……。今は三人なのか…………」
リノンはボソッと呟いた。
「そうだ。おれはそのうちのひとりだったんだ。封印されて四百年ほど経っているし、もう外されていると思うがな」
リノンは角を出した。
額に光の粒子が集まって、角の形になる。これも魔法だろうか。
「この一本角で分かってくれるか? いや、お前には分からないかもしれないが……」
「尻尾は隠さないで平気なの?」
「尻尾は面倒なんだ」
強王とはにわかには信じ難い話だが、俺は半分くらいは信じることにした。確かに服も泥を落とすとかなり高貴な物に見える。極めつけはあの剣だ。日本だと国立博物館に厳重に保管されるような、なんか凄い圧を放っていた。
「封印されたって言ってたけど、リノンはなんで封印されたの?」
俺がそう聞くと、リノンは詳しく説明してくれた。
……まず、リノンは俺の前世の、ヴィスタという人物とハイメルナと言う亜人の国を治めていたそうだ。
豊かな国で、交易の重要地点となっていた国だった。
今はわからないが、当時の人間は亜人を奴隷扱いして自分たちより下に見ていたため、亜人の国を経由しないと別の人間の国と交易出来ない事が、人間はかなり気に入らなかったらしい。
それが原因で戦争になり、最初は有利だったが卑怯な手を使うたくさんの人間国家を相手にするうちに疲弊がたまり、状況が悪くなっていった。
人間側が勝利を確信し始めた頃、人間国の中の大国同士で、最終的にどちらがハイメルナを支配するかで揉めて、そちらで戦争になってしまう。
そんな中で、海を隔てた向こう側の魔王が、漁夫の利と言わんばかりに直接ハイメルナに攻め行った。
魔王が得意とする精神支配の魔法や昏睡の魔法で、軍が疲弊していたハイメルナはあっさり魔王の手に落ちて、最終的にはハイメルナは魔王の物になったらしい。
そしてリノンはというと、魔王に挑むが精神を支配された仲間を人質にとられて、魔王に負けてしまった。
必死で魔王から逃れ人間の国に隠れるが、人間達に気付かれ報復に来たと勘違いされて、勇者という人物に封印されたそうだ。
リノンの話はセルゲンから聞いた話をより詳しくした様な感じだった。
リノンが人間を恐れるのはこの経験と、今現在弱っていて人間の中でも力が強い者には勝てないかららしい。
彼は実に不憫だし、人間はどの世界でも意地汚くて傲慢だ。
あと、俺はリノンを子供扱いしていたが、本当は竜族の中でも長寿な部類らしい。
衰弱していたから見た目が幼かったそう。
本当に申し訳ない。
「竜族の中でも高齢なおれにとって四百年など人間にとっての数年に等しいが、封印された結界が苦痛を伴う物だったんだ……もう封印なぞされたくない」
「それは大変だったね……。てか俺は人間なんだけど、リノンは怖くないの? やっぱりヴィスタの生まれ変わりだから?」
「それと時代が違って少し緊張するというのもあるが……そもそもお前は人間では無いだろ?」
「へ?! どういう事?」
俺は人間では無い……?
「お前は人間というより、魔族や妖精に近い」
「それは俺が魔力を引き付ける体だから?」
「そうだ。
一部の魔族や妖精には、魔力と結びつく細胞を持っているというのが分類方法になる種族がいる。それに則ってお前を分類すれば、お前は人間とは言えない」
「へぇ」
「まぁ、四百年前の知識だから、図書館などで調べるのが確実だがな」
そうか。セルゲンは図書館があると言っていたし、図書館に行ったらこれについても調べてみよう。
「次はお前だな。お前の生まれは何処なんだ?」
俺は覚悟を決めた。リノンを信用しよう。
彼にも利があるとは言っても、余分な魔力を取って助けてくれたし、人間にひどい事をされて恐れているはずなのに、俺を怖がらないでくれた。
「分かった」
俺はコミュ障だが、このときにだけはちゃんとリノンの目を見て話した。
「俺は異世界から来たんだ。日本っていうところで、こことは違って魔力とか魔法も無いし、対話出来る種族は人間だけで、獣人とかの亜人は居なかった」
「なるほど、異世界か。まぁ何となくそうだろうと勘付いていたがな」
リノンはこちらを真剣に見てくれている。
本当に信じてくれているみたいだ。
「ある日突然倒れたんだ。それで起きたらこっちに来てたんだよ」
「他の奴には隠しているのか?」
「まぁ、信じてもらえるか分からないから」
「じゃあ、おれとお前だけの秘密だな」
リノンは少し嬉しそうにした。
「魔法とか獣人さんとか、この世界にはワクワクする事もあるけど、それ以上に家に帰りたいっていう気持ちが強いんだ。だから俺は日本に戻る為に行動するよ」
俺が申し訳無さそうに言うと、リノンは寂しそうな顔になった。
「だからごめん。リノンがいう、国を取り戻すってのにはあんまり協力出来ないかもしれない」
俺は本心だけを伝えたつもりだ。
「分かった。国はおれひとりで取り戻すよ」
リノンは力強く決心をしたようだが、寂しいようにも見えた。
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