第30話 辺境で最悪な夫婦生活 ※ランドリック視点

 辺境へ送られるということは、貴族社会では死んだも同然ということ。


 そこに行ってしまえば、戻ってくることは不可能。生きたまま王都に来ることは、もう二度とないだろう。


 唯一の救いは、レイティアが一緒に行くこと。辺境で、夫婦になることを認めてもらった。彼女はかなり嫌がっていたし、巻き込んでしまったのは申し訳ないけれど。仕方ないだろう。


「嫌よ! 私は、家に帰るんだから!」

「ダメだ、レイティア。命令に従わないと」

「お前のせいで! 私は、こんな目に……ッ!」

「本当にすまない」


 怒り続けるレイティアに、俺は何度も謝った。それで気が済むのなら、いくらでも謝ろうと思う。





 辺境での生活が始まった。


 何もすることはない。何もさせてもらえない。自ら死を選ぶことさえ許されない。ただ、時間が過ぎていくのを眺めるだけ。病気か老衰によって、死ぬまで待つだけの日々。


 横で文句を言い続けるレイティア。もうそろそろ、受け入れてもいいんじゃないのか。文句を言ったって無駄なんだから。


「こんな生活、耐えられない! 私は、もっと優雅で華やかな生活をしたいのに!」

「そんなこと言っても、どうしようもないじゃないか。ここで一生を過ごさないといけないんだから」

「うるさい! お前のせいで、私は……!」


 聞かされ続けた言葉。もう何度も繰り返して、俺は責められ続ける。聞き飽きた。まだ俺は、謝らないといけないのか? もう十分に謝ったが。




 簡素な結婚式を行った。俺の思い出にある結婚式と比べたら、とんでもなく質素。だけど何もしないより全然マシで、用意してもらったのが本当に嬉しかった。


 それなのに、レイティアは終始不機嫌な様子。


「せっかく用意してもらったのに、その顔はやめてくれ」

「は? こんな結婚式、意味ないじゃない! 私が望んでいるものと違うのよ!」


 この時から、レイティアに対する申し訳ない気持ちは一気に薄れていった。




 それからも、文句を言い続けるレイティア。言っても仕方ないのに、言い続ける。それを聞いて、だんだんと腹が立ってくる。


 なんで俺は、レイティアなんか選んでしまったのか。


 強く意識すると、腕に浮かび上がってくる金色の輪を眺める。それを見て、彼女のことを思い出していた。今も精霊の契約で繋がり続けている、アンリエッタのこと。


「はぁ……」


 あの時、アンリエッタと一緒になる選択をしていれば、俺は今も幸せだったのか。選択を間違えてしまったせいで、今のような状況に陥ってしまったのか。


 どうするべきだったのか。悩み続ける毎日。


「今すぐ、戻りたい……。こんな辺境じゃなく、私のいるべき場所に」


 文句を言っているレイティアにうんざりして、後悔する日々を送るだけ。


 こんなんじゃ、生きていても意味がない。地獄よりも最悪な場所だと思う。


 もう十分に罰を受けたはずだ。こんな毎日が死ぬまで続くだなんて。俺の人生は、なんて最悪なんだろうか。救われないんだろうか。

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