第29話 離れられない ※レイティア視点

「それで、なんで私が呼び出されたの?」


 公爵家の当主を相手に無礼な態度だと理解しつつ、私は敢えてそう言う。数日間も屋敷に閉じ込められていたんだから、これくらいしても許されるでしょ。


「ようやく、ランドリックが見つかったからな。これから話すことは、レイティア嬢にも関係あることだから、よく聞いておくように」


 私に関係あること、って何よ。そんなことよりも、私は早く帰りたい。今すぐ家に帰してほしい。屋敷に閉じ込められて自由を奪われていた、数日間の許されない行為について洗いざらい話してやりたい。


 そう思っていたのに。


「ランドリックとレイティア嬢の2人には辺境へ行ってもらう。そこで、夫婦として暮らすように」


 は? 今なんて言った? 辺境? そこの男と一緒に?


「えっと……、意味が分からないんだけど」

「待ってください、父上! レイティアを巻き込むのは、やめてくださいッ!」


 ランドリックが慌てた様子で口を挟むけど、当主はそれを一蹴する。


「巻き込んだのはお前だ、ランドリック。精霊の契約に"ランドリックとレイティアの2人は、結婚して夫婦になる"という内容が記されている。従わなければ、契約違反となる」

「ですが、それは──」

「反論は許さない。これは、決定事項だ」

「ちょっと待ってよ!」


 このままだと、私はランドリックと結婚させられる。そんなの嫌よ。切り捨てる、って決めたのに。


「それは、ランドリックがあの女と結んだ契約でしょ? 私は関係ないわよ」


 契約書にサインしたのはランドリック。だから念じても、私の左手首に金色の輪は出現しない。つまり、私はそんな契約に従う必要なんてないのよ。


「もう既に、ヴァレンティ侯爵家との交渉は済んでいる。承諾を得ている」

「ふざけんなっ! 誰が、そんな命令なんか聞くもんか!!」


 なによそれ! 交渉してるとか、なんで私の知らないところで勝手に許可してんのよ。


「何を言っても、無駄だ。これは既に、決定したことなのだから」


 それが事実らしい。最悪よ。まさかこんなことになるなんて、思いもしなかった。


「すまない、レイティア。君を巻き込んでしまって……」

「……ッ!」


 諦めて受け入れようとするランドリックに、怒りが湧いてくる。お前のせいでこんなことになったのに、最後まで頼りない。そんな口だけの謝罪で、許せるわけない!




 その後、どれだけ私が抵抗しても無駄だった。ランドリックと一緒に辺境へ送られる。それは揺るがず、覆らない現実なんだって理解させられた。


 どうして、こうなってしまったのかしら……。


 婚約おめでとう。どうぞ、お幸せに。2人で一生一緒にね。


 婚約を破棄されたあの女が去り際に残した、最後の言葉を思い出す。こうなるように仕組まれていた。それを理解した時には、もう遅かった。

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