第41話 立てたフラグは俺が折るか。

「封筒は前回の残りを使ってね」

「「分かりました」」

「障害物競走の飴はどうすれば?」

「商店街にある菓子屋と話をつけてある。そこで必要数の飴を買ってきてくれ。領収書も忘れないように」

「分かりました」


 説明会のあとは出来る限りで相談に乗っていく。

 設営と片付けに関しては一日の長がある市河いちかわさんが慣れた様子で指示を出していた。


「テントは備品倉庫から前日に取り出すように」

「ところでブルーシートは?」

「それも備品倉庫にありますよ。大きさが三種あって中ぐらいでいいと思います」

「分かりました」


 会長達は風紀委員との話し合いを行っていた。


「で、はるは私にどんな質問があるの?」

「後輩にはきっちり名前を教えておきなさいよ」

「ああ、それが質問だったのね」

「お陰で無駄に怖がられたじゃないの」

「口調は厳しいけど根は内気だものね」

「うっさいわね」


 体育祭の件かと思ったら別の話し合いだった。

 流石に同学年なだけあって普段とは違う姿が垣間見えるよな。


「それとチラッと聞こえたけど、前の会計が何かやったの?」

「あー。凪倉なくら君達の会話の事ね」

「それ以外に何があるのよ」

「要件的に風紀委員会の管轄だったけどね?」

「いえ、あれは素通りする案件ですよ。会長」

「風紀委員会を素通りする案件ですって?」

「噂の元になるからあまり大きな声では言えないけどね」

「何があったのよ? 噂というと彼の件じゃないわよね」


 それって俺か? 俺を見たな。


凪倉なくら君は違うわ。私の従弟がそんな悪事をするわけないし」

「は? 従弟? 彼って李依りえの従弟なの?」

「母方のね。私の父の妹だけど」

「そんな繋がりがあったのね」


 会長も最近知った事だけどな。俺に目をかけていたのはその前からだ。


「だから彼の素性は気にする必要がないの」

「じゃあ、噂って?」

「直近だと暴行犯。その前なら盗撮犯ね」

「前、会計の行いよね。それは」

「報道上、もっと酷い物が存在しているけど」

「ああ、裏口疑惑か」


 これを調査したのが生徒会とは言えないが。


「まぁその潜在的犯罪者が置き土産を残していてね。それが今朝発覚して」

「置き土産?」

「共有ファイルの一括削除よ。ゴミ箱に放り込んで先人の知恵を消し去ったの」

「は?」


 これが最新の奴の犯罪行為だな。嫌がらせレベルだから立件は出来ないが。


「そ、それって、何処までの情報を?」

「隅から隅まで。私達、生徒会の情報だけはバックアップから復元したけどね」

「あとは教職員のデータも同じですね。先生方が顔面蒼白になっていましたし」

「それなんて」

「風紀委員会の範疇を軽く超えているわね」


 あれも詳しく調べると見える範囲のデータがゴミ箱にあった。

 復旧こそ叶ったが奴の置き土産の所為で先生方が忙殺されたのは言うまでもない。

 今日の話し合いの場にも顧問が誰一人として現れていないからな。


「というか共有から消されたデータって残るものなの?」

「意外と安全策が成されているみたいよ。誰が消したかも調査して判明したしね」

「それってどういう手段で?」

「まっとうな手段で」


 パスワードを解除する時にまっとうではない手段を講じたがな。

 解析時しか使わない代物だから、いちいち教えないけども。


「生徒会には情報技術に長けた会計が居るからね。昼休憩にシステム管理者との会話を聞いていたけど、ちんぷんかんぷんだったわ。専門用語が多すぎて」

「会計っていうか従弟では?」

「そうともいう」


 その時は会長から呼び出されて行ったんだよな。

 復旧方法が分からない人が多いから俺が代行して伺ったのだ。

 分かる範囲の事だったから、スムーズにやりとりが叶ったが。


李依りえの従弟って何者なの?」

「普通の男子高校生」

「いや、話を聞く限り普通じゃないって」

「そうかしら?」


 いえ、普通の男子高校生です。


「ま、前の会計は別の意味で普通ではなかったけど」

「なんであんな奴を入学させたのかしら?」

「こればかりは言祝ことほぎ先生しか分からないでしょうね」


 なお、人事データを消した者の正体は別にあった。

 こちらの方が驚きでしかないな。山路やまじ先生のアカウントからログインした。

 だが、山路やまじ先生の権限では閲覧する事が叶わなかった。

 次に何をしたかと思えば権限の昇格だ。それがログに残っていた。


「それと一部の人事データも消えていたけど」

「はい?」

「そちらは校長先生が消していたわ。証拠隠滅ね」

「なにそれ・・・酷すぎない?」


 これをシステム管理者から聞かされた時は唖然としたものだ。

 普通に生徒へ話すなよって事案なんだけどな。


「それもあって職員室は大忙しね。教育委員会からも査察が入ったし」

「件の離島飛ばし、問題教師を採用したのが学校長ですから」

「証拠隠滅しても不思議ではないわね」


 これもシステム管理者から報告が上がっただけなんだけどな。


「そうなると校長先生の挨拶は?」

「暫定的に教頭先生になるのでは?」

「いえ。教育委員会からの打診を見るに用務員の先生がなるのが妥当ね」

「「え?」」

「表向きは定年退職した風を装っているけど、あの先生ってまだ五十代前半よ」

「う、嘘でしょ?」

「もしかして老けているだけですか?」

「そうなるわね。先生が退職した件も校長が裏で手を回していたらしいわ。目障りだから追い出せってなって。関係性で言えば同期で同僚で同じ担当科目って事ね。出世は校長が先に。用務員の先生は出世に興味がなかっただけだから学年主任止まりね」

「そういえばそうかも?」

「確か生物教師でしたね」

「三年のね。あと一つは先生が教育委員長から気にかけてもらっていた事が気に入らなかったみたい。そもそも退職しても嘱託として校内に残っている時点で教育委員長が残したとしか思えないしね」

「「確かに」」


 あの用務員のおじさん。もとい先生は経済に詳しいと思ったけど生物教師だったのか。

 だから花畑の面倒を見ていたのかもな。あの人が校長になるなら学校の雰囲気も良くなりそうだ。

 生徒を見ずにゴムの木しか見ない校長よりはマシである。


「おーい。あき君? 手元がお留守だよ?」

「あ、すまん」


 会長達の会話に集中しすぎて手が止まっていた。

 幸い、相談に乗っていたのはさきだけなので任せていても問題はないが。


「会長達の会話が気になるのは分かるけどさ。隣の彼女の事も意識してよ」

「すまんすまん。さきが押っ立てたフラグの続きが気になってな」

「私は立ててないよ。フラグなんて」

「そうだな。そうだといいが」

「どういうこと?」


 俺は正面でこそこそする一年女子をジッと見る。

 会話を聞きつつも俺の意識はそちらにあったから。


「俺の事を間男って言ったギャルが居ただろ?」

「居るね。今も下品な笑いを浮かべて反対を向いたけど」

「今、出席簿を見たらな。担任と同じ我起わだち姓だったんだよ」

「担任?」

「中学時代にやらかした奴と言えばいいか」

「内申書を偽造して裏口入学に関与した?」

「そうそう」


 俺が名字を発するとさらにビクビクした。


「厚化粧だから判別が難しいが、誤魔化せない鼻筋と顎のラインが陽希ようきなんだよな」

「そ、それって妹って事?」

「何人姉弟か知らないが、奴等兄妹はポイズンスライムと同種なんじゃないかって思ったわ」

「ポイズンスライムとか言うな!」

「なんか、反応したし」

「自分で暴露してるし」


 というか自分の兄貴を顔が良いだけの男って良く言えたな。


「いや、言えるだけの下地はあるか?」

「なんのこと?」

「クズを顔が良いだけの男って言ったろ?」

「ああ、言っていたね。顔だけで中身は空っぽの粗末な汚物をぶら下げたクズだって」


 それは市河いちかわさんの毒舌のような気もするが。


「そこまでは言ってない!」

「あと、自己中心的で自分可愛いで世の中の女は実妹も含めて自分の物と思っていて、女子を殴ろうが悪くないと叫びだす、情緒不安定な変態的クズだっけ?」

「そこまでは言ってない! お兄ちゃんは悪くない!」


 市河いちかわさんの毒舌にブラフを含めやがった。

 市河いちかわさんもそれを聞いて苦笑してるし。


「悪くないって言うなら数々の証拠はどう説明が付くのか?」

「証拠品が揃っている中で悪くないは悪手ですよ?」


 すると風紀委員長が俺達の会話に気づいた。


「何かあったのか?」

「いえ、挙動不審な一年生が奥に居るので」

「挙動不審?」


 そして思い出したように顔をジッと見つめた。


「というか君達、我が校の生徒ではないね。見覚えがないもの」

「「ビクッ」」

「そんなド派手な格好、流石の先生方でも見過ごせないわよ?」


 そういえば厚化粧が過ぎる時点で校則違反だわ。

 我が校のギャル達もここまでの厚化粧は居ないもんな。

 風紀委員長に次いで会長も会話に乗ってきた。


「教師が居ないからって不法侵入はどうかと思うわよ?」

「「ビクッ」」


 風紀委員長は風紀委員の女子達に顎だけで指示を出した。

 不法侵入した者達は風紀委員達に連行されていく。

 放課後とはいえ安易な不法侵入を許したのだ。

 この後の尋問はとんでもない事になるだろう。

 すると副会長が思案しつつ問いかけた。


「ところでいつの間に入ったのでしょうか?」

「開始ギリギリで入ってきたように思えますが」

「会議室には五十人以上の人手があるから紛れ込まれたら最初は判らないかもね。私も判らなかったし」

さきさんの名前も直前で男子達が会話していたから振りに利用したのね」

「彼氏云々は校内で得た情報ですかね?」

「そうでしょうね」


 奴からも聞いていそうだが。


「というか恐ろしい風紀委員長の前で平然と在校生の振りする精神力が凄まじいわ」

「「「「確かに」」」」

「勝手に怖がらないでよ!」

はるはスイッチが入ると恐くなるから仕方ない」

「普段は潰した胸が苦しいと嘆く女の子だけど」

「胸の事を明かさないでよ!?」

「義妹に好かれようと潰しているのよね」

「義妹が自分よりも小さいから」

「実際の大きさってどれくらいですか?」

さきさんくらいね」

「それは苦しい」


 急に女子だけの空気を作ったので注意した。


「先輩方、野郎共の存在を思い出して」

「「「あっ」」」


 股間を押さえて蹲る野郎共が居るからな。




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