第40話 事前説明だけで時間食った。
午後の授業を終えて放課後になった。
復活させた先の議事録を印刷した俺達は特別棟の会議室に向かった。
『ではこれから体育祭実行委員会を始めます』
開始の合図は副会長が行い、庶務の
「お、おい。
「お前、知らないのかよ。先月末から役員入りしていたぞ」
「な、なんだと? それは初耳だぞ!?」
「結構前から生徒会室に行っていたが?」
「
『そこ、静かに!』
「「失礼しました」」
一部の男子達が興奮したがこれは仕方ないわな。
「ねぇ?
「隣の人? ああ。新しい会計さんだよ」
「新しい会計?」
「前の会計がやらかしたらしくてさ」
『君たちも静かに!』
「「あ、すみません」」
俺の事は置いといて。どうも生徒会役員の刷新は各所に波紋をもたらしたらしい。
各委員会も顔合わせだけは初日から数日かけて行われた。本番がかなり先であってもな。
今後、各委員会へと出席する度に同じ騒ぎが起きると思うと頭痛がするよな。
(いや、マジで)
これは主に内部的な人手不足の補充なのだが、各種委員会の面々からすれば女だらけの生徒会に男が一人という状況が許せない者も居るようなのだ。そんな事を問われても知らんがな。
「何、あの間男」
「シッ!
「
「いや、あの人、
「はぁ? それこそ有り得ないんですけどぉ。顔が良いだけの男なんて前の会計と同じじゃん!」
俺の事は好きに言っていいが
「そこ、静かにして」
「「ひぃ!?」」
怒ってテーブルを叩いたし。後輩に睨み付ける
先ほどの声音もいつぞやの一件で怒鳴る前のような低い声だった。
「自ら地雷を踏みに行く後輩乙」
「ぶふっ」
『
「ごめんなさい」
いや、噴き出す理由は分かるけど。
今の
というより
その間の俺は部屋の一部を暗くして端にあるスクリーンを開いた。
ノートパソコンをプロジェクターに繋いだのちアプリを起動した。
すると会長がマイクを持って用意した資料を捲りつつ説明を開始した。
『これから簡単にだが説明を行う。要項は今、配ってもらった通り、例年と同じ競技を行う』
俺は説明の速度に合わせて事前に作っておいた資料を表示していく。
『但し、借り物競走のみルールを改定した。これは後に続く競技への配慮であり』
「「「「ざわっ」」」」
『借り物の種類を制限させて頂く事になった』
ルール改定と聞いて騒がしくなったな。
『改定したルールは以下だ』
それを表示した瞬間、男子達の声が響く。
主に三年生達の周辺で、だが。
「お、おい。物に限るって」
「ひでぇ。人は無しかよぉ」
ひでぇって。何を考えているんだ。この先輩?
『今聞こえた通り、人物は借り物に出来ない。主な理由は本人の同意を取る際に時間をかけすぎる事にある』
『競技上、時間制限はあるが、一人の人物を相手に数人が押し寄せる行為は風紀委員からも風紀を乱す恐れがあると苦情が出ている。よって、今年度より人物の持つ小物類に限定する事とした』
「質問!」
『本当は終わってからの方がいいのだが・・・仕方ない。どうぞ』
質疑応答は後ほど取る予定だったのに空気を読まない者も居ると。
それは二年女子からの質問だった。男子よりはいいか。
「小物類とありますが、どういった品物ですか?」
質問に応じたのは副会長だった。
『例としてあげるならば、クラスの男子、または女子の小物と記された場合、こういった紐ゴム。あとはリストバンド等になります。但し、セクハラ紛いの品物は風紀委員の処罰の対象となりますので、ご注意を』
『これは書いた方も、受け取った方も対象になる。誰もが困らない借り物を書いてくれる事を切に願う』
人によっては持っていたりするからな。セクハラ紛いとなるのはゴムとか生理用品だ。
それらの封筒を用意するのは、あくまで体育祭実行委員の面々なので、この周知は必要な事だった。
男子の不可解な行動で風紀委員が出張るのは良くないからな。この委員会には風紀委員長も居るし。
「分かりました。ありがとうございます」
『では次の説明を行う』
そうして順当にルール説明を終えるとタイムテーブルに移行していった。
『先に説明した通り、ルール改定になった原因は後の競技への影響だ。後の競技となっている障害物競走。二人三脚などは人によって速い遅いが存在するからだ』
参加人数もある程度は固定なのだが、出たい出たくないとの我が儘が発生した所為で部分的に人数が偏っている。それを調整した結果が今のタイムテーブルなので、この変更には頭を抱えた程である。
「それなんて借り物競走でも一緒だろ」
「なんで人がダメなんだよぉ。元に戻せよ!」
『文句があるなら私が喧嘩を買うがいいか?』
「「!? なんでもありません!」」
そう口走ったのは風紀委員長だった。
見た目は男子かと思うほどの短い黒髪。
猛禽類かってほどの鋭い顔立ちと男口調。
薄いように見える胸と長身が目立っていた。
「確か、名前は・・・誰だっけ?」
「はぁ〜。
「えっ? 似てないけど」
そういえば
この学校は割と美男美女が多くその中に埋もれてしまう顔立ちだった。
身長は副会長に近かったが姉の方は会長と同じくらいか。
「血縁がありませんから」
「え? 義理ってこと?」
そういえば自己紹介すらなかったな。顔合わせの時に行ったらしいから俺達が知らないのは仕方ない。
俺は資料に書かれた名前を小声で読み上げる。
「
「なんか曇り空が似合いそうな名前だね」
『あん? そこ、何か言ったか?』
「な、なんでもないです」
「
「名前が地雷とか恐すぎるよぉ」
「キラキラじゃないのに地雷って」
「ぶふっ」
『そこのバカップル黙ってろ』
「「うっす」」
いつの間にかバカップル認定されていた件。
割と三年の間では有名になっているのかも。
周囲が沈黙した事を確認した会長は説明の続きを行った。
『次は男女混合リレーについてだ。先に説明した通りだが、今年度から特例で景品を追加する事になった。たちまち予算の都合上、用意出来たのは学食の食券、三ヶ月分のフリーパス、それを人数分だ』
「「「「おー!」」」」
『といっても、一日に一食しか購入は出来ないがね。それは、どのメニューでも一品限りとなる』
「水は含まれますか?」
『水は含まれない。水が欲しければ水道水でも飲んでいればいい』
「ですよねー」
これが控えていたから予算を捻出することが難しくなったんだよな。
それもリレーに参加した四人分。三ヶ月分の食費を限定的に補填する形となる。
請求は生徒会に送られてくるので食べた品によっては厳しい財政となるのだ。
「これって誰の発案なの?」
「悲しいかな、奴ですよ」
「「おぅ」」
あいつの発案が残ったまま実行する事になったか。
その間に使い込みして悪化させたならとんでもないな。
「生徒会になんの恨みがあるのやら?」
「恨みなんてないだろ。利用出来るから利用しただけで」
「そうですね。利用されたんですよね」
たちまち運動部がやる気になる品だから反対出来ないな。
苦しむのは後にも先にも生徒会執行部だけだけど。
「運動部が怠けなくて済む報酬としては最高だな。特に陸上部」
「そうなると
「あんなのは走りたい奴に走らせるに限る。速い奴が一番だ」
弁当組にとって学食の食券など欲しいとは思えないからな。
「俺は弁当だけでいいよ」
「それもそうだね。
「確かに美味しいですよね」
俺達の会話の間も会長の説明は続く。
『最後に。文系クラスの紅、理系クラスの白、一年生は文理と同系統のクラス分けで紅白になるわけだが、高得点を得た組には特例で用意することになった問題集を景品として提供する』
「「「「「はぁ?」」」」」
我が校は周囲からは進学校と呼ばれている。
遊びたい盛りが多いが学生が学業を蔑ろにする事は出来ないからな。
一瞬は不評ともとれる反応だが、これで終わるワケがない。
会長はテーブルに置いていた色違いの冊子を三つ示した。
『これは見本だが。文系は私が、理系はとある御仁が監修した問題集だ。要点をキッチリ押さえているから成績向上に繋がると期待していい。教師陣からも好評なので、購買で売る話まで出ているくらいの代物だ』
「「「「「!?」」」」」
ここで会長が濁した御仁とは俺だったりする。名前を晒すと面倒なのでそういう形にした。
一応、監修者として「Yaki」の名を記している。「焼き」という文字にも読めるが、これは
「購買で売る話ってマジ?」
「大マジだ。市販品よりも出来が良いと言われているな」
「そうなんだ」
「これで回収出来るなら申し分ないしな」
「それも目的に入っていると」
「要点というと教科書の要点ですか?」
「試験は教科書の範囲しか出ないから」
「「なるほど」」
仮に教科書が改訂されたら部分改訂は手伝うけどな。
そうしないと学校の知名度が維持出来ないから。
質疑応答は途中で入ったため無しになったが説明後は本来の目的が行われた。
『警備は引き続き風紀委員会が執り行う』
『本部には生徒会役員が常に控えているから困った時は相談するように』
『では次に、設営と片付けは書記の
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