第34話 勢いで言った後悔はないよ。

「血糊パンツに惚れるのは変態だよな。誰のパンツなんだ?」


 あき君がボソッと呟いたその言葉。

 私は一瞬で理解を示し、ブルリと震えてしまった。


「どうかしたか?」

「今日は寒いね?」

「そうだな。雨が降るから寒くはあるか。副会長もクシャミしていたしな」

「そうなんだ。あき君が抱いて温めて?」

「委員長、空気は読もうな」

「えーっ! いいじゃん!」


 言葉を濁したがあき君が何故それを知っているのか疑問に思った。

 あの件はまだ語っていないのだけど事が事だけに恥ずかしくて出来ないんだよね。

 すると何を思ったのかあおいちゃんが拾ってしまう。


「今、血糊って言っていたけどそれって血染めのパンツですよね?」

「そうなるか? というか市河いちかわさんも興味あるのか」

「興味あるというか経験がある的な」


 あー! ここにも経験者が居たぁ!?


「そもそも女子は経験があると思うよ?」

「女子は経験が・・・あ、そうか。そういう意味か! ガチの変態やんけ。あのクズ」

「どういうこと?」


 あき君はあおいちゃんから問われた事で知った理由を語り始めた。

 それは『気になる女子の血糊パンツは絶対に忘れない』だった。キモっ!

 聞いた瞬間、吐き気がしたよね。それをデカデカと裏サイトに書くって頭おかしい。


「裏サイトの一番目にそんな言葉が? キモいですね。冗談抜きで」

「忘れないための書き込みなんだろうが、見られた相手は酷でしかないな」


 ここまでの事になったなら言うしかないよね。

 あまりにも寒すぎて温めて欲しくなったし。


あき君、ごめん。見られたの私だよ」

「「は?」」


 きょとんのあき君とあおいちゃん。

 事の経緯を小声で伝えると、


さきに対する執着の原因はそれかよ」

「本気でキモいですね。死ねばいいのに」


 あおいちゃんはガチ切れし、空気を読めと言ったあき君も抱き寄せてくれた。


「次会ったら冗談抜きで再起不能にしてやる。間男死すべし慈悲はない」

「その時は私も協力しますね。報復もまだ出来ていませんし」

「だな。こうなったらかつて暴行を受けたかしわも巻き込むか」

「え? 受けていたんです?」

「いやぁ。瑠璃るりは交際して初めてを捧げたからどうだろう?」

「あらら。それはなんていうか」


 これは同情なのか呆れなのか。


「頭は良くても色々と残念な人だったんですね。かしわさん」

あおいちゃんって結構毒舌キャラだったんだね」

「キレるとかしわと同類になる人かもな、きっと」

「ああ。怒らせたらダメな部類かぁ。なら、あまり感じる云々で」

「揶揄うのは止めた方がいいな。少し距離を置く方がいいか?」

「そうだね。触れてビクンビクンさせるのも悪いし」

「そう言いつつネタにするの止めてくれません?」

「「すみませんでした!」」

「あと距離は置かなくていいですから。折角の役員なのに」


 これは私に対しての一言だよね。

 あき君は男性だから仕方ないとしても。


(しかしまぁ私に対する執着が小四のパンツとは)


 揶揄ってきた事も執着を維持するためだとしたら本気でキモいね。

 あおいちゃんじゃないけど、死ねばいいのにって思うよ。

 するとあおいちゃんが財布を取り出して、


「そうでした。立て替えてもらっていた制服代。支払いますね」


 あき君に数札の紙幣を返していた。

 そういえばボロボロにされて下着諸共捨てたんだよね。

 着替えが一着しかないのは不都合が生じるので、資金が潤沢なあき君が立て替えて、購買にて制服一式を発注していたのだ。発注自体は私も一緒に行って、あおいちゃんと一緒に受け取ったけどね。

 私の場合は胸囲が合わなくなったから買い換えただけだけど。


「そんな、急がなくてもよかったのに」

「いえ。こういう貸し借りは早めが良いので」

「そうか。それなら受け取っておくわ」

あき君? 私も支払おうか?」

さきは良いよ。食費を貰ってるし」

「そう? 分かった」


 そういえば食費を支払っていたね。だから不要と。


「そもそもの話、共有財産だし」

「それもあったね。忘れてたよ」

「共有財産?」

「俺達の関係を思い出せば分かるよ」

「ああ! それでですか。なるほど」


 更に付け加えるとあき君の成人を機に私達は婚姻する。

 あとは婚約の件を自己判断で公開して良いことにもなった。

 そうすれば人目を憚ることなく、イチャつけるので待ち遠しい私だった。

 但し、公開までの道のりは険しいけどね。


「おい、あれ?」

「なんで抱き寄せてるんだよ」

「羨ましい。付き合っていないのに」

「ケッ。彼氏じゃないのに、彼氏面かよ?」

「つか、両手に花とか羨ましい!」

「どっちが本命なんだ? 巨乳か美乳か?」

「これは一度、伸すか?」

「おう。これは伸さねば」


 自己判断で公開して良いことになっていても、道のりは大変険しいものになるね。


「本命はさきに決まってるだろ、ボケ」

「私は当面、に触れられたくないですよ」

「女子の都合などお構いなしだから嫌われるのにね」

「胸への視線に気づけないと思ったら大間違いです」

「ところで市河いちかわさん、飯は?」

「そうでした。忘れていました。買ってきます」


 あおいちゃんはあき君から問われて大急ぎで食券を買いに向かった。


「時間はまだあるかな?」

「ギリギリな気もするが」

あおいちゃんって結構、大食だからなぁ」

「小柄なのに何処に入って何処に付いているのやら」

「そこは普通におっぱいじゃない?」

「やはりそこか」


 あの一件から仲良くなったあおいちゃん。

 男性に対して忌避感を持っているからか、特定の男子以外とは関わっていないらしい。

 その特定の男子とはあき君とE組に居る幼馴染の男子だけだ。


「あれを育てたのはやはり?」

「E組の尼河にかわ君だよね」

「だよな。幼馴染と言いつつ実際は交際中と」

「純潔と言いつつ本当は開通済みで妹にも明かしていないと」

「立場上、関係を明かすと様々なリスクもあるからな」

「だよね。そうじゃないとあそこまで胸は育たないし」


 あおいちゃんと交際中の男子、尼河にかわあかり君。

 名前から女の子かなと思ったらガチムチの男子だった。

 所属はバスケ部。あき君とはイベントで知り合った仲だという。

 噂は最初から信じていなかったが空気を読んで関係を隠していたらしい。

 彼も私と似たり寄ったりな付き合い方をしていたようだ。


「横恋慕で開発されたのは可哀想だよね。どちらにとっても」

「そういや先日あかりに教えたら『殺す』って言っていたな」

「あらら。教えたんだ」

「俺が生徒会入りしたからな。練習くらいしか付き合えないって言った時に思い出して教えたんだ。彼氏である以上は知っておく必要があるだろ?」

「そうだったんだ。あおいちゃん的にはどうなんだろう?」

「意外と犯人の名は伏せて話していそうな気もする」

「どうだろう? 話すかな?」

「いや、あかりの『殺す』に完全な殺意が芽生えていたからな」

「そ、それって?」

「犯人が誰か分かったからだろ。元々苛立ちとかはあったみたいだ。守ってやりたいけど部活があるだろ?」

「なるほど。バスケ部と生徒会。ある意味で相容れない関係だもんね」

「時に敵対するしな。生徒会室に行って何か用かと問われる事と市河いちかわさんが更に酷い目に遭ったら困るから我慢していたみたいだな」

「それを聞くと交際関係もバレていそうな気がするね」

「いや、バレていたかもしれないな」


 あき君も彼と私に配慮して女子と思わずあおいちゃんと接している。

 極力女子と思わずが正しいかな。配慮するときは配慮するし。

 それがどういう訳かあおいちゃんの好感度を引き上げているらしい。

 この好感度は異性的な意味ではなく同年代の友達としての意味である。

 そうでなければ敏感な話題で軽く注意するだけなんて有り得ないよね。

 ある意味、私とセットで見ている感もあるけれど。


「それであかり君は?」

「いつも通り昼練だろ。第二体育館で」

「大変だね。部活動に入っている人は」

「昨年度まで助っ人だったさきが言うと違和感があるが」

「そう? 今年度から助っ人に入っていないよ?」

「そういえばそうだな。やはり俺との時間を大切にしたいから?」

「もちろん!」


 昨年度はストレス解消の意味合いで参戦していただけだ。

 今年度はあき君との距離を縮める事に尽力したいもの。

 それに今月からは生徒会活動もあるしお願いは全て断っている。

 単に生徒会入りしたら中立であらねばならないので関われないだけね。

 あおいちゃん曰く『部費の融通をお願いされる』場合もあるらしい。

 それが先に話したリスクの一つでもあるのだ。


「俺達の場合はどうだろうな」

「同じ生徒会役員でもあるからね」

「そうなると、あの件が片付くまでか?」

「それとも・・・」


 そう、遠い目をしつつ語っていると、


「少しいいか?」


 私達の背後にて多くの男子が血走った目であき君を睨んでいた。


「何か用か?」

「いつまで白木しらきさんを抱き寄せている? お前は彼氏じゃないだろ!」

「そうだそうだ!」

「離してやれよ! 可哀想だろ!」

「可哀想だろ!」


 えっと? 何様かな? この人達。

 よく見れば先輩も居て有り得ない言葉を発した。


「本当の彼氏は裏サイトの管理人だと聞いたんだが?」

「はぁ?」


 これはどういうことかな?

 私はあまりの一言に低い声が出ていた自分に驚いた。


「地雷を自ら踏み抜く先輩乙」

「地雷?」


 それと同時にキレたよね。


「何を言ったのか分からなかったのだけど。猿人語で語るならあの世で好きなだけ語ってくれば。ほら、そこの屋上から飛び降りてアイキャンフライしてきたら? というか目障りだから直ぐに死んできて」

さきの殺意が過去最高か」

「最高にもなるって。管理人って捕まった婦女暴行犯地雷よ? バカじゃないの。この猿人」

婦女暴行犯地雷が彼氏って有り得ないよな」

「いや、そう書かれていただけで」

「じゃあ、書かれていた事を思考停止で鵜呑みしたのかよ?」

「うっ」

「この際だからハッキリ言うけど女心の代弁者みたいな真似はしないでね。見ていてキモいから。私は私の事を本気で心配してくれる婚約者以外と付き合う気なんて更々ないから。大体、アンタ達の行動そのものが女子の好感度を下げているって事に気づけないの?」

「し、しかし、婚約者以外の男が」

「それが? 彼が私の婚約者ですが、何か?」

「え?」


 そんなきょとんとしなくても。



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