第二章・状況変われど振り回される。

第31話 新たに動き始める空気感か。

さきさんや。言い逃れはあるかな?」

「言い逃れって何の事かな? あき君」

「体育の授業で要らん情報を与えただろ?」

「そういえば、そんな事もあったねぇ」


 体育の授業の後、私とあき君は生徒会室に赴いていた。

 それは数日前から役員入りが決まっていて本日より本格的な仕事が始まるからだ。

 私の場合は委員長と併用になるので委員会に出た際には、どちらの立場でも対応しないといけないが。

 本当は委員長を交代しようと思ったけど、代わりになってくれる友達が居なかった。

 私ってば思ったよりも友達が少ないので、これは致し方ないと思うしかなかったね。

 上っ面の友達なら沢山居るが、委員長に選ばれる経緯も勝手に決まったイメージに依るものが大きい。

 なにより面倒は私に押し付ければ良いと、クラスメイトの誰もが思っているから始末が悪い。

 但し、話し合いにあき君は除く。


「そうじゃねーよ。全く。あれから勧誘の嵐がどれだけあったと思っているんだよ」

「それでも結局は断ったんでしょ?」

「断るに決まっているじゃないか。さきとの大事な時間を部活動なんかに取られてたまるか」

「ふふっ。それを聞けて私は嬉しいよ」


 お陰でバイトは辞めざるを得なくなり、代わりで提案されたあき君の仕事を手伝いつつ生活費を稼ぐ事になった。管理人の仕事は結構ハードだけどやりがいはあったね。

 お局様対応だけは冗談抜きで最悪だったのでバイト先の店長に告げ口しておいた。

 勤務時間外のパートさんが非常識な行いをしているので窓際業務に回して下さいと。

 それらの結果は瑠璃るりを通して実行済みと判明した。

 正社員に嫌われているパートなので積もりに積もった要望に上乗せされただけなんだけどね。

 それはともかく!


「俺は怒っているんだけどな?」

「怒っているあき君も格好いいね」

「怒る気が失せたんだがどうしたらいい?」

「それなら私のおっぱい揉んで落ち着く?」

「・・・」


 いや、もうね。格好いいの。怒っているあき君を見るのは。

 あき君は沈黙したけど、これは私の率直な気持ちである。

 そんな中、先に自席へと座っていた会長が咳払いした。


「イチャつくのは結構だけど、少しは空気を読みなさい」

「「・・・」」


 いえ、会長達の視線が痛いだけです。油断したって感じでね。


「黙ったわね。さて、あおいちゃん。胸を差し出して」

「な、なんでですか!?」

「彼が揉むなら私も揉んでおこうかなと。あおいちゃんなら反応が直ぐ出るし」

「直ぐって!? だとしても、私が胸を差し出す必要はないのでは? 副会長も居ますし」

小鳥遊たかなしは不感症だから、触れたとしても無反応なのよ。残念だけど」

「会長! それは語弊があります! 感じてはいますが、耐えているだけです!」


 叱りつけたと思ったら女子だけの空間かと思うほどの反応が返ってきたし。

 一応、あき君は男の子なんだけど、この空気はどうなんだろう?


「冗談はここまでにして」

「「「冗談!」」」

「だと、思った」


 ホント、意外と愉快な生徒会長だよね。

 普段の凜々しい姿から、かけ離れている気がするよ。


「試験期間を終えて体育祭の準備もあと少しで終える。だが、私達は次に行われるイベントの準備もしなければならない。体育祭は例年通りで良いが・・・文化祭だけは毎年変えるという恒例が存在している。よって」


 会長は言い切ったのち私達へと視線を向けてきた。


「今年の文化祭要項は新入りの二人に決めてもらう事にした」

「「は?」」

「お金の流れやらは凪倉なくら君の得意分野だろうし」

「そ、それはそうですけど」

「面白い行事を考えるのはさきさんの得意分野よね」

「得意と言われると微妙に違う気がするのですが」


 単に楽しい空気に引き寄せられる性格だからね、私。


「だが、そんな二人が組んで、本気で何かを成した時、どんな結果を導き出すか興味が湧かないかい? 副会長」

「そうですね。傍目にはイチャつくカップルにしか見えませんが・・・潜在能力はあるでしょうね」

「だろう? あおいちゃんもどう思う?」

「私としては厳しいと思えますが、来期の事を考えると、経験して貰っておく方が助かりますね」

「そういう見方にもなるか。なるほど」


 いや、なるほどって。確かに来期で副会長になってくれとあおいちゃんから懇願されているけど。


「どうかな? 請け負ってくれないだろうか?」

「どうするよ?」

「どうしようか」


 この空気。断るって選択肢は無さそうだよね。

 三対二。多数決でも決定されたようなものだ。

 するとあき君が右手をあげて質問した。


「それは要項だけでいいんですよね? 細々とした進行を同時に考えるのは難しいですよ?」

「そうだね。要項だけでいいよ。どのみち添削とか反発も考慮しないといけないし。たちまちは思った通りに書き出してくれると助かるかな。それと要項と難しく言っているが、何をやりたいか書き出すだけでもいい」

「それだけでいいなら利益回収も踏まえて思いつく限りのイベントを書けばいいね」

「そうだな。どうせなら部活動の連中が本気で関わりたくなる物とか用意したいな」

「それでもいいよ。では頼めるかな?」

「「分かりました。微力を尽くします」」


 それだけで良いならって軽い感じで、気軽に引き受けた。

 これが後に後悔する羽目になるとは想定していなかった私だった。



 §


 

 文化祭要項の件は一先ず後回しとし、体育祭の準備に追われた私達。

 各クラスから出場リストが回ってきて、それを元に競技の段取りを進めていく。


「総勢、一千ちょい。学生数で見るとそこそこ居るな。この高校」

「パッと見、そんなに居ないって思ったけどね。公立で進学校だからかな?」

「そうだろうな。教職員の数はそれ相応にあっても目が届かないのはそれが原因かね」

「二年だけ少ない理由は定員割れなんだろうけどね。二年だけは三百六十八人か」


 この日のために用意したノートパソコンを開いてカチャカチャと打ち込んでいく。

 あき君だけは何らかのプログラムを走らせて集計を終わらせているが、


「これを一人で決裁している会長が・・・とは思ったけど、あおいちゃんも相当だよね」


 私は印刷されたリストを元に名前と人数を記していく事で手一杯だった。

 印刷物ではなくデータとして欲しいよぉ。なんでここだけアナログなの?


「そうだな。流石は次期会長って事か。椅子に座るだけで震えるのは体質の所為かもしれないが」

「そこは仕方ないよ。一年もの間、開発された結果だし。元々の敏感肌が鋭敏になっているらしいし」

「ちょっと、聞こえてますよ!」


 おっと、本人の耳にも入ったね。私とあき君は沈黙しつつ作業に没頭する。


「入力終わったよ。確認して」

「おけ。誤字脱字は・・・ないな。集計、完了っと」

「集計だけなんでそんなに速いの?」

「マクロを組んだだけだよ。さきが一枚目を入力した後にな」

「その間に組めるって相当だよね」

「そうか? 会長でも出来そうだが」


 ああ、会長も頷いているね。もしかすると決裁が速い理由はそこにあるのかも。

 会長は頷きながらあき君に同意を示した理由を語り始めた。


「生徒会執行部は人海戦術が叶わないからね。自動化が出来る部分は自動化しているんだよ」


 普段の御嬢様言葉が消え去るくらいに意識がパソコン画面に向かっていると。


「そうそう。私の口調は地だから気にしないでくれ。私は兄達の中で育ってきたからね。どうしても男言葉に近くなるだけだ。妹も居ない末娘だから仕方ないけどね」


 違った。御嬢様言葉はそういう下地があるから厳しく躾けられた結果なんだね。


「実際、凪倉なくら君が入ってくれて助かっている部分もある。前のクズは頭脳こそ、そこそこだったが、プログラミングに関しては素人の域を出ていなかったからね。お陰で私にかかる労力が、なんでもない」

「会長が珍しく愚痴っていますね」

「まぁ奴の行動と不出来具合を考えれば仕方ないですよ。副会長」

「なんか、ごめん。あおいちゃんが一番の被害者なのに」

「副会長も脅されていたから仕方ないですって」

「そうなんだけどね」


 副会長がまたも闇堕ちしたし。奴の残した傷跡は相当なまでに深いようだ。

 そうなると、会長がやたらとあき君を欲した理由はそこにあると。


(人手が少ないから自動化が可能な部分は自動化する、か)


 そのためにプログラミング経験者を求めるのは自然な事だよね。

 各委員会でもそこそこ動いてはいるけど本気で取り組む生徒は少ない。


(ちょっと集計が出来たら遊びに行こうと駄弁っている子が多いもんね)


 そのしわ寄せが生徒会執行部に来るのだからストレス解消の趣味に走るのは仕方ないね。

 会長と副会長の気苦労を考えると。


「そうなるとあおいちゃんのストレス解消法は一人エ」

さきさん?」

「なんでもないです」


 するとあき君がノートパソコンを持って会長に話しかけた。


「会長。ここの時間なんですけど」

「どれどれ?」

「タイムテーブルに少し余力を保たせないと厳しくないですか?」

「なるほど。この人数が加わるからか。そうなると」

「こちらの競技の時間を少し削減するとか」

「そこは例年通りの方がいいのだけど」

「例年通りですか?」

「この競技はそれなりに時間がかかるからね」

「なるほど」


 それがどの競技かと思えば、借り物競走だった。

 探し出す時間があって削ると失格になるからか。

 なるほどと言いつつあき君は思案する。


「それなら、貸し出す品を用意したうえで選ばせては?」

「「「用意する?」」」

「封筒に書き出す物品を用意して委員会席の隣に配置するんです」


 この提案に会長達は目を丸くするも思案気になった。


「例年通り、なんでもかんでも記してしまうと最悪、後に続く競技にも影響が出てしまう。ゴム紐等の女子生徒が持っていそうな品は除外するとしても、大物などはこちらが用意した方が効率的ではないですか?」

「確かにそれは一理あるね」

「そうなると記される品物のリストを洗ってみましょうか?」

「それがいいかもね。人物となると本人の同意非同意もあるから今年から除外して」

「物品のみに絞りましょうか」


 あったね。昨年は私の元に男子達が集まったしね。




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