第29話 悪名を返上させたくなった。

「は、初めまして!」

「「え、ええ。初めまして」」

「会長、綺麗・・・白木しらき先輩も」


 私達の提案で夕食に招かれた市河いちかわ姉妹。

 妹のなごみちゃんは姉とは正反対の性格だった。

 格好はギャルっぽい派手な服装で茶髪。左サイドテールが揺れていた。

 顔立ちはあおいちゃんに似ていて童顔の美少女だ。

 化粧が厚くて童顔を隠しているようにも見えるけど。

 ただまぁ、胸部装甲だけは姉妹なのに似ていないよね。

 なんていうかストーンの言葉が似合う平面族だったから。

 するとなごみちゃんがあき君に気づく。


「と、ところで奥にいらっしゃる方は?」


 真剣に料理を作っているからか、顔を見ただけで憧れのような雰囲気を発していた。


(これは惚れちゃった? 惚れちゃったよね? 格好いいもんね?)


 そうなると牽制しておくほうがいいよね。

 私は会長が応じる前に教える事にした。


「彼は私の婚約者で凪倉なくらあき君」

「え? こ、婚約者?」

「そうそう」

「お、お付き合いされていると」

「そうなるね」


 それだけでショックを受けたのか元気が無くなった。


「この子は惚れっぽいから。すみません。さきさん」

「いいよ。気にしてないし」


 というのは嘘になるが、下手に敵を作りたくないだけね。


「あの先輩がいいなって思ったら変態だったし。今度は売約済みだし」

「あの変態に関わったら私みたいになるから止めてね」

「姉さんが開発された事だけは良くやったと思うけど」

「なんで!?」

「男っ気がなくて色気の無かった姉さんに色気が追加されたから」

「色気って」


 あー、そういう見方もあるか。


「一人エッチすら経験が無さそうだもんね。あおいちゃん」

「そうね。そういう意味では功績があるわね。やり方だけは褒められないけど」

「お二人まで!?」


 私達がそんな生々しい会話をしていると、


「俺、一応男なんだけど?」


 キッチンから居たたまれない表情でこちらを見るあき君から苦言を呈された。女子だけの空間だと下ネタは当たり前にあるもんね。男子達は気にせず何処でも下ネタを振るけど。


「ま、聞き流してくれることを望むよ。これは誤射と同じレベルの話だしね」

「そ、そうですね。聞き流します」


 だが、会長の願いであき君も受け流す事を選択した。


「誤射ってなんですか?」

あおいちゃんは分かると思う。制服への不時着ね」

「あ、あー。私のパンツを見た途端に始めたアレですか」

「そんな事までやっていたのね。あの会計」


 私はそれが何なのか分からなかったので、席を立ってあき君の元に聞きに向かった。そして隣に立って耳元で囁いてみた。


「アレってどういう意味?」

「さ、さきの発した一人エッチだよ。女子だけでなく男もやるからな」

「あ、あー。そういう?」

「おい、何処を見てる?」

「なるほど、ね」


 つまりあき君も人並みに男の子と。何をするか知らないけど私と似たり寄ったりかもね、きっと。


さきさん? なるほどって」

「妄想のお相手は私だけにしてよね?」

「当たり前だろ。妄想で他人なんか使えるかよ」

「それは良かった。私もあき君だけだし」

「そ、そうか」


 満足した私はリビングに戻る。

 そこでは別の意味であおいちゃんが揶揄われていた。


「じゃ、じゃあ。姉さんって?」

「良く耐えられたわね? それなんて変態的な行為じゃない」

「で、電車やバスで痴漢に遭った時と同じです」

「私は痴漢に遭った事がないよ?」

「私も無いわね。やはり大人しいから?」

「かもしれませんね。姉さんって内気だから」

「うっ。そ、それもあって誰も居ない教室で二人きり。大きな声を出そうにも吹部の演奏がある時ばかり狙われていましたね。演奏を止めてって何度思ったか」


 揶揄われていたとかではなくこの一年間に何があったか問われていたのね。


「何があったので?」

「ああ、内容的に何度も説明する訳にはいかない話ね」

「姉さんが開発された経緯を聞いたんですよ」

「経緯? それって敏感になるに至った?」

「「ええ」」


 流石にそれは聞くに聞けないね。思い出させるのはちょっと悪い気もするし。

 会長はともかく、なごみちゃんは興味本位で聞いたっぽいけども。

 すると会長があおいちゃんに目配せし、


「簡潔に纏めると最初は頭だけを撫でただけね。次いで数日おきに背中、胸、お腹と触れていって」


 あおいちゃんの頷き後に説明してくれた。


「本命の前にお尻、本命は直で触れられる前に反発したそうだけど」


 反発後は胸とお尻のみを攻めていたらしい。

 それを聞いた瞬間、怖気がしたよね。


「なんていうか・・・ホモの巣窟に落としたくなる事案だね」

「私もそれを思ったよ。我が校にはそんな人物が居ないから困りものだけど」


 すると手が空いたあき君が苦々しい表情で割って入ってきた。


「なんて話をしてるんだよ」

「なんて話って言われても?」

「それ相応の報いが必要だと思うのわよ?」

「姉さんが酷い目に遭いましたし。経緯を聞くと喜べないですもん」

「いや、俺が言ってるのは市河いちかわさんの事だよ」

「「「え?」」」

「ああ。姉の方な」

「あ、私は名字でも大丈夫です」

「安易に名前呼びが出来ないからごめんな。恐いから」


 恐いって私の事!? ま、まぁ、うん。

 女子は名字で呼んでってお願いしたしね。


「既に嫁の尻に敷かれているね?」

さきの尻なら本望ですよ」

「それは素直に喜んでいいのか分からない」


 それはともかく!


「俺からすれば奴がどうなろうが知った事ではない。思い出すことがキツくないかって話だよ」

「「「あっ」」」

「正直、キツいです。でも、一人で抱え込む事も辛いので聞いて貰って少し楽になりました」

「ああ。覚悟の上か」

「そうですね。思い出す度に感じてしまいますが、致し方ないので」

「そ、そうか」


 これは反応に困るよね。

 ただま、それだけの事をやらかしたクズが相手だ。

 それこそ第三次ざまぁ計画が必要かと思えたよ。

 第一次は裏サイトの削除。第二次は盗撮の噂だ。

 奴が気づいて今更火消しに回っても意味がないってね。

 女子の口コミネットワークは裏サイト以外にもあるから。

 するとあき君はスマホを取り出して、


「心当たりならある。動くかどうかは不明だがな」


 意味深な言葉を吐いて何処かしらにメッセージを飛ばした。


「心当たり?」

「男のケツを狙うホモだ」

「「「「!!?」」」」


 なんでそんな人物を知っているのだろうか?

 もしかして、あき君も狙われたの?


「今年入学してきているし、動けば追いかけ回すだろう」

「にゅ、入学? そ、それって」

「私のクラスメイトかもしれないと?」

「そうよね。一年生ならそうかも」


 あき君の後輩にそんな人物が居たなんて。


「といっても中学の後輩ではないぞ?」

「どういう繋がりなの?」

「経緯を語ると長くなるから置いておくが」


 なんでも相手はバスケのイベントで知り合った一つ下の男子。

 練習中に視線がお尻に向いていたため問い質すとホモだった事が判明したらしい。ホモを除くと腕利きの選手だそうで休日は一緒に練習していたそうだ。

 彼は私立の男子校出身。特待生で入学してきたのだとか。


「男子校で無双して男を求めて共学へ?」

「バスケ部の特待生・・・彼かぁ。また失恋した」

「恋多き乙女だね。なごみちゃんは」 

「ウチのクラスの女日照り共ならどうにかなるだろ」

「そうだね。顔と性格はいいしね」

「基本はバカだけど」

「脳筋ともいうよね」


 脳筋が理系クラスに居る事自体が不自然だけど。あれも私を追ってきた男子だから仕方ないよね。私が急遽、文系から理系に切り替えた途端、慌てて移ってきた陽キャだけど頭の緩い男子達だ。


「合コンは無理だけど紹介することは出来るよ?」

「ホントですか!? 紹介して下さい! 先輩!」

「りょ。後日、教室に来てくれたら紹介するよ」

「ありがとうございます!」


 私達だとそれくらいしか出来ないしね。

 文系クラスの面々には良い印象を持っていないし。

 但し、あおいちゃんは除く。

 それからしばらくして夕食が完成した。


「美味しい!」

さきさんは良い相手に巡り会えたね」

「本当にそう思いますよ。頬が落ちそうですし」

「じっくり煮込まれた肉がとろとろですぅ」

「今回は圧力鍋で煮たからな」

「だからキッチンから離れていたんだね」

「圧力を抜く必要があるからな」


 今日の夕食も美味だよ。こんなに美味しいのに管理人さんは部屋から出てこないけど。私達が訪れた時にチラッと顔を見せただけで部屋に戻ったしね。


「ところで管理人さんは?」

「書類作りに邁進中だな。残しておけば勝手に食うだろ」

「その書類作りって?」

「訴訟だな。例の件とか諸々の」

「例の件って?」


 そういえば会長は知らなかったね。


「会長も当事者だからいいか」

「そうだね。当事者かつ責任者だし」

「それを聞くと不穏なんだが?」


 あき君は事のあらましを伝えていく。無関係ななごみちゃんも居るけど仕方ないよね。


「利用規約を無視した行いか・・・」

「それを復旧してでも続けましたしね」

「相手方はなんて?」

「相応の被害に遭ったから何がなんでもって感じですね」

「相応の被害?」

「規約無視の利用が多発したんだ。お陰で公開中止にした。利益よりも赤字の方が酷くなったって」

「それはなんというか。酷な話だね」

「対策を練っていても穴を突く奴は居ると」

「私は突かれましたけど? 本命以外で」

「そこで自虐しなくても?」


 いや、本当。あき君も反応に困ってるし。


「あとはビデオレターの件も判明したからな」

「え? あれも判明したの!?」

「ああ。とんでもな事案があったわ」


 何があったか聞けば怒りしか湧いてこないよね。

 なんでも父親が局員で我が儘を言って封筒を持ち帰って貰っていたらしい。

 流石にそれを連発する訳にもいかないから何回かは開封して中身だけ取っていたそうだ。人様の封筒を何だと思っているのか? 親が親なら子も子だよね!?


「アイツ!?」

「当人は知らぬ存ぜぬで逃げるだろうがな」

「身内ですら蜥蜴の尻尾切りか。やりきれないね」

「とんでもな先輩だったんですね?」

「鬼畜と思っていたけど相当だったと」


 それらは家宅捜索したら出てきそうだけど。

 父親が変態だとか言って逃げそうだけどね。


(だから私に対して執拗に絡んでくるのか)



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