第28話 急速に拡大した交友関係か。
今日ほど上流階級の人々の付き合いと考え方が違うと思った事はないな。
「広ーい!」
「わ、わた、わた、私は奥でいいです!」
「仮に窓際に寄ったとしても落ちないわよ」
「間取りはウチと逆かぁ」
「何故こんな事に?」
唐突に
「で、話を戻すけど」
生徒会長はリビングのソファに座って語りだす。
「
「え? ウチってそんなに大きいので?」
「
「あ、ああ。それで?」
制服姿のままなのは真面目な話をするためだとか。
着替えてきた
雰囲気的に知的と称しても不思議ではないしな。
「
「えーっ!? そ、そうだったんですか!?」
「声が大きいよ」
「すみません」
これを聞かされたら
俺も驚いたし、
家の事情なんて聞いて良いのかって感じだろうな。
一方、副会長は顔面蒼白でガクガク震えているが。
「とはいえ
「無縁ですか?」
「ええ、無縁なのよ。父君が末弟である事が要因よ。長兄や次兄、その他諸々が間にあって末の末だから。一番可愛がられて甘やかされる立場でもあるの。それもあって
「無縁であると?」
生徒会長は
口の中が乾いたのかコーヒーで潤したのち再度、語り始めた。
「それと
「・・・」
「世継ぎとは無縁だけど家中では実力主義的な考え方もあるの。碌に経営が出来ない子息に任せるほど甘い家ではないの。その中で生きてきたから、母体から切られる事を予測して動いていても不思議ではないわ」
生徒会長は真面目な表情のまま会話を区切る。
「それもあって貴女には自由奔放な生き方を教え込んでいると思うの。何も知らないまま社会に放り出されるのは恐怖でしかないからね。だからこそ、令嬢教育は必要最低限に留め、社会経験を先に積ませている。お金も浪費しない生活を心がけるよう自活を勧めているでしょ」
「そうですね。家賃以外は自分で稼げと言われていますし」
俺の家がしがないサラリーマン家庭だから教育は不要だしな。
必要最低限のテーブルマナーを覚えておけばいいし。
「その点で言えば私の嫁ぎ先は同系統だからね。令嬢教育で厳しく躾けられたわ」
「あ、だから?」
「本物とか偽物とか勘違いしたのだと思う。雰囲気の問題もあるでしょうね」
雰囲気か。確かにそれはあるな。勘違いしたのもそれが原因だし。
公立に通う理由も関係者に問われる事を回避するための手段だったしな。
上流階級は上流階級で大変なんだな。庶民で良かったって思うぞ。
「それであっても令嬢であるのは変わらないから、安心して住まわせる事の出来る場所を用意したのだと思う。家賃不要としているのも学生の身で支払える額ではないからね。ここ」
「そうですね。それには感謝してもしきれませんが」
「あとは早い段階で婚約者をあてがったのも守るためでしょうね」
「「え?」」
守るため? あ、そうか!
立場上、起きうるもんな。
「
「末弟の末娘。甘やかしていた祖父母が黙って見ているはずはないと?」
「そういうことね。父君の気持ちは何処の馬の骨とも知れない相手より、親友の息子の方が安心と思ったのでしょうね。
「俺の努力の末に身に付いた事と思っていましたが、裏にそんな思惑があろうとは」
「努力も大切な事よ。結果が結びついているから、今があるのだし」
「そうですね。その点で言えば逃げなくて正解でした。愛する
「ふふっ。愛されているわね?」
「はい! 私も愛しています!」
世継ぎ問題が裏に潜んでいるとなると、奴がやらかした冤罪は早々に解決しないと不味いな。
この一件で放置出来ないと改めて認識した俺であった。
「でもね、
「「はい?」」
今、なんて言ったんだ? 仲が良かったって?
「う、うちの父の両親が何故?」
「茶飲み友達。御近所との話よ」
「「そんなオチ!?」」
茶飲み友達の流れで決まるって一体なんなのだろう?
やはり上流階級の考え方はさっぱりだ。
そうして一通りの暴露話に付き合ったあとは、
「さて、時間も時間だし」
「俺達はお暇しますね?」
「私も夕食にしないとだ。妹が待っているし」
「わ、私はお先に失礼します!」
三々五々、帰宅の準備を始めたのだった。
「私も夕食にしないとね」
すると生徒会長が何を思ったのか棚の中からカップラーメンを取り出していた。
それは盛り盛りと書かれた豚骨ラーメンだった。
「「え?」」
副会長はさっさと帰ったのでこの状況は見ていない。
中腰の俺は頬を引き攣らせながら問いかけた。
「か、会長? それは?」
「ん? 夕食だけど」
「ゆ、夕食って・・・自炊は?」
「これが自炊だけど?」
「えっと・・・花嫁修業は?」
「茶や華ならやっているね。家事全般は家政婦が居るから」
「「あー」」
料理は危ないからやらせてもらっていないのか?
そうなると、
「家庭科実習はどうなったので?」
気になったのはこれくらいだろう。
成績優秀者だから出来ないはずはないが。
「卵焼きくらいは焼けるよ? 私を何だと思って」
「落ち着いて下さい。それで、ご飯は?」
「洗剤で洗うような真似はしない!」
「味噌汁は」
「突沸に気をつけている」
「裁縫は?」
「ぞうきんを縫うくらいなら朝飯前だが?」
「副会長の趣味的な物を作るのは?」
「それは無理だね」
そうだろうな。あれは写真を見た限りだが本業の域に達しているし。
俺は
「これは少々残念過ぎるんだが?」
「私も思った。イメージ崩壊だよ」
「どうする? 呼ぶか?」
「ご飯に? ん〜。一緒の時間が無くなるしなぁ」
「でも、家には飲兵衛も居るぞ?」
「あ、存在すら忘れていたよ!」
「飲兵衛乙」
こそこそと話し合った結果、カップラーメンの湯を沸かし始めた生徒会長に提案する事にした。
「食費を頂く前提になりますが、ウチで食べますか?」
「は? た、食べるって何を?」
「「夕食。可能なら朝食も」」
「「は?」」
きょとんが二人。
§
一先ず、生徒会長こと
「フルネーム初めて知ったかも」
「普通に会長とか生徒会長とか呼ぶもんな」
「畏れ多いですよね。存在感が神々しくて」
「私は至って普通の女子高生なんだけど!?」
「至って普通は
「うっ」
エレベーター内でのやりとりは少々騒がしいが、俺と一人を除いて私服姿なのは不思議な感じがする。
先輩はガーリーな割にシックにも見える黒のワンピース姿であった。
自由奔放を地でいく
すると
「
一人だけ除け者になりそうな
「私ですか? 伺っても宜しいので?」
視線が俺に向いたので視線を合わせず答えた。
「一人増えようが二人増えようが影響はないぞ? 家主も構わないって言ってるし」
「そ、そうですね。着替えてから伺います」
「そうだよね。下は何も着けていないしね」
「それこそ擦れて感じてそうね。大丈夫?」
「ノーコメントです」
これは感じていると見て間違いないな。顔が赤いし呼吸も荒い。
気丈に振る舞っているが身体の反応は歴然だよな。
(これが奴の手で一年以上も開発された結果か)
俺は視線を合わせず
一応、家に入る鍵はどの部屋も同じだが、要望があれば通常鍵も使えるのだ。
家に戻った俺は自室に入る。
『久しぶりに入ったけど雰囲気が変わった?』
『雰囲気ですか?』
『汚部屋だったのに全体的に綺麗になっているから』
『お、汚部屋って』
微かに聞こえた会話から察するに、それは俺が住まう前の話だろう。
あの飲兵衛は自室だけは綺麗にするが自室以外は掃除しないズボラなのだ。
客の出入りがあるところだけ綺麗にしても意味ないのにな。
同居開始日に玄関から異臭が漂ってきた時は愕然としたし。
制服から部屋着に着替えた俺はキッチンに移動してエプロンを身に着ける。
「今日の献立はシチューでいいか。ご飯は炊いていないからパンで代用と」
帰宅が遅かったので出来る事は限られる。
それでもキッチリ作らないと飲兵衛が暴れるので作るしかないのだ。
暴れるっていうか外食に出てしまうからな。
「なんか手慣れているわね」
「管理人さんの料理番ですよ」
「ああ、家政婦代わりと」
「洗濯以外は
「なるほど。三十路前といえど女性だったね」
それも既婚でバツ一のな。再婚する気はあるみたいだが、お眼鏡に叶う男性に出会えないのだという。再婚したら俺は家から出て行くしかなく・・・最悪は
しばらくすると騒がしい声が玄関先から響いてきた。
『内気な姉さんにこんな知り合いが居たなんて!?』
『ちょ! 声が大きい』
なんだ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。