第26話 第二次ざまぁ計画が発動か。

 生徒会室で起きた事案。

 後始末を済ませた俺はテーブル上に存在するスマホに気づいた。

 明滅しているから何らかの通知が入ったんだな。


「ん? これは奴のスマホか?」

「彼ってば生徒会室に忘れていったのね。不用心な」


 俺はゴム手袋を着けたままだが、鍵のかけられていない本当に不用心なスマホを手に取った。


「普通なら鍵をかけるものだが」

「使い方が分かっていないだけじゃない?」

「そういうもんかね?」


 中身を見るとホーム画面に裏サイトのリンクやら画像が散りばめられていた。


「リンクは分かるが、書類とか画像がホームにあるってどうなんだ?」

「自分以外は使わないって認識なんじゃない?」

「流石に不用心が過ぎてて不安になるぞ。俺ならホームに置かないが」

あき君はそうでも奴は違うと思うよ」

「そんなもんかね。不用心が過ぎるが・・・あ」

「どうかした?」

「誤って画像を開いてしまったわ」

「あらら」


 ポチッと触れた瞬間に驚く画像が目に飛び込んだ。


「マジか」

「どうかしたの?」


 画像には大変見覚えのある色違いのパンツが映っていた。

 それもぷりんとしたさきの尻肉も写っていた。


「猫柄パンツ」

「はい?」

さきのお気に入りパンツが画面に」

「はぁ!? ちょっと見せて!」


 俺は汚物でもあるので画面だけをさきに見せた。


「お気に入りが写ってるぅ! それも先日穿いてたやつ!」

「これを見るに奴は盗撮の常習犯だな。他にもピンクとか黒いパンツが」

「なんですって!」

「ちょっと見せて!」


 盗撮の常習犯と発した途端、副会長と生徒会長も反応した。

 さきの時と同じように画面だけ見せておいた。

 一枚見たら連続で見られるようになっていたからな。


「私の下着だわ・・・なんて事なの」

「そんな。解れたレースが写ってる」

小鳥遊たかなしはいい加減下着を買ったら?」

「次回の給金で買うつもりでした。今日の下着ですね、これ」


 画像にはゴミ袋に収められている水色パンツもあった。

 その持ち主も俺の背後でぴょんぴょんと跳びはねて覗き込もうとしていた。


「私のパンツまで映ってる。身体だけでは飽き足らず・・・酷い」


 こうなってくるとこれも証拠品になってしまうよな。

 本来、他人のスマホを覗き込む行為は非常識だが、当人が施錠せずに放置していたらどうしようもない。

 それにこうやって悪意ある盗撮を残していれば調べない訳にはいかないだろう。

 一先ずの俺はゴム手袋をさきに貸して中身の画像を検めてもらった。

 俺は被害者名を生徒会室の黒板に記していった。

 持ち主に関しては二人の記憶に頼っているが、


「これはD組のクラス委員長ですね」

「次は、えっと・・・美紀みきかな?」


 分かる範囲の人数は奴が本日絡んだ女子だけだ。

 画像の学年は全学年にまで及んでいて人数は不明だ。

 学年の判断材料はスカートの裏地にあるらしい。


「現物を見たら分かるけど」

「私のスカートの裏ですね」

「なるほど。部分的に色分けがあると」

「更衣室は全学年併用だからね」

「なら男子のズボンと同じ扱いか」

「そうなの?」

「ポケットの裏地が色分けされているな」


 この点は体操服やらネクタイと同じか。

 ブレザーもよく見ると裏地に違いが出ているしな。


「というか会長は長いからどうやって写したのかな?」

「そういえば棚から物を取るときに脚立を支えていませんでした?」

「あの時か! これはやられてしまったね」

「副会長はガードが堅そうですが?」

「いや、壁に当たったような変形がスカートに見えるから」

「これは窓下のクラスメイトに声をかけた時だと思います」

「なら、その時に背後から撮影したのだろうね。度し難い」


 全員が全員やりきれない表情に変化した。

 すると奴のスマホに新たな通知が届いた。


「これはメールか。件名を見るに・・・書き込まれる度に通知が届くと」


 それは裏サイトから送られてくる何らかのメールだった。

 メールは流石に開けないので受信時刻と同じ時間の投稿を裏サイトで確認するしか出来なかった。


「またさきの話かよ。俺と一緒に職員室に入った事が書かれている」

「わ、私の?」

「どうもさきに関連する話題が出ると受信するようになっているみたいだ」

「ひぃ!?」

「こうやって見ると只のストーカーでしかないな」

「つ、通報しよ! す、直ぐにでも!」

「通報してもいいが、証拠を消すのはちょっとな・・・」

「「「「証拠?」」」」


 全員がきょとんとしているが、


「悪事の証拠だな。どうせなら開示請求を出したあとの方が望ましい」

「それって顧問弁護士経由で」

「クラウドサービスに凸ると」

「そうだ。開発者に通報すると根底から削除されるからな」


 奴はそういうプログラムと知って、利用した可能性もある。

 消える時は一瞬だからな。もしかすると、その前提で動いているのだろう。

 今回も復旧させていたしな。


「今は泳がせておくに限る。ただま、書き込まれる内容によっては新たな傷が出来てしまうが、俺が我慢すればいいだけの話だしな」

「そんな!?」


 さきには悪いが奴の中でそういう構図が出来上がっている以上はどうすることも出来ない。


「現状だとどういった事が書かれると予測しているの?」

「連れて行かれる時に睨んでいたので、市河いちかわさんの被害を俺の所為にすると思います。現状も一緒に居る訳ですし」

「そ、そんな・・・私はそんなこと望んでいませんよ!」

「望んでいようがいまいが、奴にとっての悪事は俺が全て拭うって構図が出来ているんだよ。度し難いがな」


 本当に度し難いがこればかりはどうしようもない。


「仮にこちらから露見させたとしても俺に矛先が向くよう消したり書き換えたりするだろうし」


 それこそ炎上しない限りは・・・ん? 炎上?


「炎上か、その手があったか。しかし」

「「「「炎上?」」」」

「女子からの総スカンだ。男子が書き込んだところで同類と見做されるが市河いちかわさんなり、さきなりが被害者に噂として教えれば何らかの動きがありそうな気がする。あくまで気がするだけだが」

「あっ! そうか。それをすれば書き込むよね。裏サイトは一種の吐き出し場だから」

「被害に遭った人は嫌悪感から書き込みますね。裏サイトの運営という点も追加すれば」


 裏サイトの管理人が極悪人であると示す事にもなるか。それらが上手く嚙み合えば、だが。


「で、でも、仮にそれをしたとして勝算はあるの?」

小鳥遊たかなしの言い分は最もだが我々も被害者だ。何より運営費は何処から出ていると思っている」

「あ、生徒会費ですね」

「盗撮だけでなく金も搾取されているんだ。勝算を意識して手をこまねいている間に更なる被害が拡がるだろう。彼だけでなく被害者でもあるあおいちゃんにも有ること無いこと聞く生徒が現れる」


 そういえばそれもあったな。俺だけかと思ったが彼女も居たわ。

 実名で記される以上は俺も彼女も被害が甚大になる。

 性被害だから特に手に負えない事案になってしまう。


「あやうく加害者になりかけたわ。ごめんな、市河いちかわさん」

「い、いえ。大丈夫です」

「でも・・・あき君の言う加害者ってどういう事?」

「最初は俺だけが我慢すればいいと思ったんだが肉体的な被害にあった市河いちかわさんに精神的な被害を与えかねなかったんだ。泳がせるって事は会長の言った通り、二次被害が当たり前に起きてしまうから」

「ああ、そうか。それはやったらダメだね」

「やはり通報前の高負荷をかけるしか手がないか」


 ただ、そうなった時に請求額がうなぎ登りになるので、


「請求は領収書を見る限り奴のデビットカードが用いられているので・・・会長?」

「ああ。会計帳簿は私が預かろう。事務局にも連絡を入れておけば手渡す事も振り込みもないだろう」

「それがいいですね。私にしでかした事への報いは必要ですし」

「その時期がようやくきたって事だね。あき君の気苦労も落ち着くかな?」

「さぁてね。それは今後の動き次第だな」

「下着を盗撮した罪は万死に値します!」

「「「副会長が言うと死人が出そう」」」

「私、そんなに物騒じゃないからね!」


 こればかりはイメージの問題だと思う。

 そうして各自のメッセージ経由で被害に遭ったであろう女子達へと盗撮の噂が拡がっていった。

 今回に限ってだが、生徒会長と副会長も奴が近づいていたであろう三年女子にも教えていた。

 流石に一年女子は難しいと思ったのだが、


「妹が居るので送っておきました」

「私も妹が入学していたからね」


 市河いちかわさんと副会長の妹経由で伝わったらしい。

 顔が良い二年の陽希ようきはじめ。裏の顔はド変態だと姉から聞かされた妹の気持ちは分からないが、陽希ようきが格好いいと言っていた後輩達の印象が完全に崩壊したのは確かだった。


「結構な書き込みが入っているな」

「どれどれ? ああ、送って数分で数千件も?」

「女子の怒りのコメントが大多数を占めてますね」


 女子の口コミネットワーク恐るべし。裏サイトはそういった口コミネットワークを悪用した結果だろう。

 それが今では裏サイトを滅ぼそうとしている、とんでもない矛になってしまっている。

 女子達の怒りのコメントの裏では、心ない男子のコメントもあった。

 それくらいで怒るな的な。だが、集中砲火を喰らって名指しで総スカンなので登校拒否かもな。


「なんか、裏サイトに書かれていた内容を元に脅していた事も書かれてるね」


 それなんて脅しに耐えかねた者の発言だろうな。それが誰なのか不明だが。


「副会長の件もここで知ったんだろうな」

「え? 誰にも言った覚えが無いのに?」

「副会長のファンクラブじゃないですか」

「私にそんなの団体が存在していたの?」

「副会長って顔だけはいいですから。胸はともかく!」

「ロリ巨乳のあおいちゃんに言われたぁ!?」

「童顔をロリって言わないで下さいよぉ!」


 一周回って面白い子ではあるな、この子。

 チラッと人見知りと聞いたが信を置くと本性を晒す的な。


(こんな反応なら奴の事は信用していなかったのかもな)


 身体に触れてくるド変態としか思っていなかったのだろう。

 だが、身体は正直で心に反して、反応してしまったと。

 それを同意と捉えて襲ったなら女心の分からない下半身クズだな。



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