第25話 事後処理が悩みの種になる。

 生徒会室で問題行動を起こした陽希ようき君。

 私達が呼び出した生徒指導の先生に連れられていった。


「なんか睨まれたんだけど? あき君だけが」

「なんで俺がって感じかもな。さきに対しては下品な視線が向かっていたが」

「ああ、気色悪い視線が胸にきていたね」

「女子が視線に敏感なの知らないのかね」

「知らないんじゃない」


 それもパンツ一枚の変態的な格好のままね。

 生徒会室に入ると異臭が立ちこめていて、生徒会長達が窓を開け放っていた。


「妙に匂った事のある臭いなんだけど・・・」

「栗拾いに行った時の臭いだろ。それ」

「ああ、そういう・・・何で知ってるの?」

「見知った臭いだからとしか言えない」

「そうなんだ」


 あき君は生徒指導の先生を呼びに行ったついでにトイレからゴム手袋を拝借してきていた。ゴム手袋を両手に着け、妙に手慣れた様子で異臭を発する汚物を濡れぞうきんで拭っていた。一人で外に出て洗って拭っての繰り返しだ。


「本当はモップが良かったけどな。飛び散っているから引き延ばすのも悪いし」

「すまないね。この手の代物は私達だと扱いに困るから」

「構いませんよ。俺も誤射するとこうなりますんで」


 言っている意味は分からないけど、慣れているなら任せるに限るね。

 一方の市河いちかわさんは保健室から借りてきたバスタオルで全身を包み、部室棟のシャワー室へと連れて行かれた。連れて行ったのは副会長。

 自分もついでに浴びてくると言っていた。


(何気に潔癖っぽいもんね。副会長って)


 生徒会長は見慣れているのか困ると言いつつ生徒会室に残った。


「俺もこの掃除は慣れていますから」

「私の彼も同じ事を言っていたわね」

「誤射仲間になりそうですね。失礼」

「いいわよ。気にしてないし」


 この感じ・・・生徒会長は彼氏としっぽりして居そう。ん?


「って、彼氏が居たの!?」

「急に驚いてどうしたのよ」

「か、彼氏って居たんですか!?」

「あ、ああ。会長には婚約者が居るぞ」

「そ、そうだったのぉ!?」


 これは知らなかったよ。

 ま、そうだよね。令嬢なんだし。


「それで驚いたのね。大っぴらにはしていないけど、居るのは確かよ」

「それって家の都合で隠す的な?」

「そうよ。これが私立だと顔見知りが多いからとやかく問われてくるけど」

「もしかして、公立に通っているのは?」

さきさんの考えている通りね」


 ああ、私立特有のアレかぁ。

 私も中学時分によく問われていたっけ。

 結構、顔見知りが居たもんね。

 令嬢の繋がりは無駄に広いから。


「その顔。さきさんも覚えがありそうね」

「あ、あはははは。ありますね」

「家族が会社経営していると、どうしてもその手の話が出てくるものね」

「あわよくば自分の子息と、或いは兄か弟と結ばせようとか」

「それもパーティーの度にね。学校でもそれがあったら疲れるわよ」

「だから公立なんですね。知らない者が多いから」

さきさんという例外は除くけど」

「すみません」


 私が謝った事で、この話はここで打ち切りとなった。

 私達の事も問われるかと思ったけど聞かれる事はなかったね。

 問われる者の気持ちを知っているからだろう。

 その会話の間にあき君の掃除は終わっていた。


「しばらくは臭いが残りますから消臭剤を買っておく事をお勧めします」

「そうね。あとで買ってこようかしら?」

「コンビニに行けば売っていそうですが」


 床は妙にテカっていてスリッパで歩きたくない心境になってしまったが。


「これも乾けば問題ないぞ」

「そうなんだ。ところで、ブレザーに付いたこれって何なの?」


 私はそう言いつつビニール袋に収まった市河いちかわさんのブレザーを指さした。中身の生徒手帳とハンカチ。ペンなどは抜いているが見ているだけで気持ち悪くなった。問われたあき君はそっぽを向いて呟いた。


「子種」

「は?」

「子種」

「えっと・・・マジ?」

「マジ」


 スカートと下着類も同じく汚れていてビニール袋に収まっている。

 これらは後ほどクリーニング行きになるか処分対象となりそうだ。


「性交をしていたから普通に子種だと思うけど?」

「し、知りませんでした。こういう代物なんですね」

「なるほど。さきさんはまだ未経験なのね」

「え、ええ。まぁ・・・会長は経験が?」

「ノーコメント」

「そうですよね。すみませんでした」


 その一言と態度で経験有りだと判明したけどね。

 頬を少し赤くしてスカート越しに股に触れたから。

 いずれ婚姻する婚約者が居て見慣れていると。

 忌避感があるのは婚約者以外の汚物だからか。

 私もあき君以外だと触れたくないね。

 するとあき君がゴミ箱を漁って呟いた。


「ゴミ箱に使用済みが見当たらないから、生でやったか?」

「それはなんというか。最悪を想定しないとダメかもしれないわね」

「時期的に安全ならいいですけど」

「どうだったかしら?」


 生っていうと・・・生だよね。避妊具不使用ってやつ。

 二人の会話から察するに妊娠させてしまった的な話だろうか。

 そんな生徒会長とあき君の会話の最中、


「それなら大丈夫です。先週に終わっていたそうですから」

「・・・」


 副会長が会話に割って入ってきた。

 隣には赤い顔をした市河いちかわさんも居た。


「先週ね。それなら首の皮一枚で繋がったか」

「校内での行為で妊娠ともなれば大事ですし」

「それで交際はあったの?」

「いえ。一方的に触れてきたそうですよ。昨年から段階的に身体に触れてきていたそうで」

「じゃあ、実行は?」

「今回が初ですね」

「・・・」


 市河いちかわさんはプルプルと今にも泣きそうな表情だ。

 格好はジャージを着ているが素肌に直なのか辛そうだった。

 この反応の理由は男子が一人だけこの場に居るからだろうね。

 自分の恥部を聞かれたくない的な。


「それを聞くと、一年以上の接触で開発されてしまったのか」

「言い方はアレだけど、そうなるわね。酷な話だけど」

「あんなのを紹介した私の落ち度ですね」

「また言ってる。仕方ないわよ。貴女だって」

「そうですけど。でも」

「先輩方。この問題が大きくなる前に見つかって良かったともとれますが? 俺の過去のように取り返しがつかない状態になっていたら、目も当てられませんよ?」

「「それもそうね」」

「・・・」


 一方の私は市河いちかわさんが可哀想なので隣に立って安心させる一言を告げた。


「安心して。彼は私の婚約者だから」

「ふぇ?」

「貴女の事を悪く言う人ではないよ」

「そ、そうなの?」

「むしろ解決に尽力してくれるよ。奴の被害者だしね。立場は違うけど理解してくれると思う」

「被害者」


 立場は擦り付けられた側だ。彼女のように襲われた訳ではない。

 だが、同性として許せる行いではないのは確かだった。


「次期生徒会長を傷付けたのだもの。相応の報いを与えると思うよ」


 現生徒会長と副会長は次の生徒総会で退任するしね。

 二人は三年生だから大学受験の準備もあるだろうし。


「わ、私はそんな立場じゃ。私よりも白木しらきさんの方が」

「私は生徒会入りするつもりはないからね。良く知っている人がやる方がいいの」

「な、なら、副会長に任命してもいいですか?」

「話、聞いてた?」

「私はクラス委員長で統率力のある白木しらきさんに隣に居て欲しいです」

「私を任命すると、もれなく彼も付いてくるけど?」


 あき君と離れ離れは嫌だしね。

 十年も遠恋したからね。あとの三年はある意味で後悔しかないし。

 この一年で距離を縮めようと思っているのに、今更離れるなんて真似は出来ないよ。


「それでもいいです」

「ま、まぁ。今直ぐには返事は出来ないよ」

「構いません!」

「意外と押しが強いのね。大人しい子かと思った」

「私、人見知りなだけなんですが?」

「素になるとはっちゃける的な」

「はっちゃける的な」

「カラオケでも?」

「カラオケでも」


 結構、明るい子なのかもしれない。これを知ると第一印象は役に立たないね。

 もしかすると生徒会長はこの子の性格を見抜いて引き込んだのかもしれない。

 あのバカは副会長の紹介だからと受け流していたようだけど。


「そんな性格なら、なんで股間蹴りしないかなぁ」

「仕方ないですよ。一年以上も触れられてきて身体が勝手に反応してしまったので」

「ああ、心と身体は別ってやつかぁ」

「それですね。悲しい事ですが」


 この子も良い出会いがあれば違った認識が持てると思う。

 ただね、性被害者でもあるから直ぐに直ぐは無理だろうな。


「たちまち、会計不在のまま対応するしかないですね」

「そうね。一緒の空間に居させるとあおいちゃんが怯えてしまうし」

「俺も男なんで近づけないですしね」

「それを言うとクラスの男子もダメになるんじゃ?」

「D組だと奴も居ますね。B組の異動って可能なんですか?」

「特例として出来そうな気もするが」

「これは少々困った事になりそうね」


 あき君も空気を読んでか市河いちかわさんから距離を置いている。

 それも生徒会長の巨乳の陰に隠れるように立っているもんね。

 身長的にあき君の方が高いけど。おそらく小柄な市河いちかわさんの視線を加味してその位置に居るのだろう。市河いちかわさんも声はするが姿が見えないって感じでキョロキョロしているし。


「今の生徒会って文系のみなんだね」

「そうですね。お二人が入れば理系も」

「そこは追々って事で」


 ちなみに、私とあき君はA組に所属している。A組とC組、E組とG組が理系だからだ。B組とD組、F組とH組が文系で市河いちかわさんと奴は文系の生徒として所属しているのだ。

 生徒会長と副会長も文系でそれぞれの教室はB組とD組である。

 私は重苦しい空気の中、何かしらの話題を振ってみる。


「ふと思ったんだけど、市河いちかわさんってさ」

「なんですか?」

「可愛らしい名前、してるよね?」

「え? ああ、その事でしたか」

「私もあおいちゃんって呼んでいい?」

「か、構いませんが?」

「良かった。私の事もさきって呼んでいいから」

「よろしいので?」

「クラスは違えど知り合った訳だしね?」

「じゃ、じゃあ。さきさんって呼びますね」


 きっかけはともかく歩み寄りが必要と思ったからね。

 彼女の味方が同世代の中にも居た方がいいから。


(今日の事、奴の手によって書かれるだろうし)


 学校裏サイトという悪意ある噂の発生源に。



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