第10話 2人の警察官
面倒なことになった。
どこから連絡を受けたかのかは知らないが、警察がやってきてさっきの戦闘の跡を調べている。
遠くからサイレンが聞こえたため、なんとか公衆トイレの裏に身を隠すことができたがここからどうしたものか。
悩んでいると一緒に隠れている由衣が小声で話しかけてくる。
「ねぇ!何で隠れなきゃならないの!?私達悪いことしてないでしょ!?」
「悪いことはしてない。だけど、そこが問題じゃないんだ。俺達は社会に混乱を招いてもおかしくない力を持ってる。だから適当な理由で捕まえられてもおかしくないんだよ。」
「なにそれ!?」
協会直属の組織であればこういうときは特権とかコネとかでなんとかなるんだろうが、残念ながらそんなものはない。どうなるかわからない以上、できるならこの場では関わりたくない。
しかし、ここからバレないように抜け出せたとしても帰る手段がない。向こうは車だ。歩いて帰ってたら途中で追いつかれる可能性がある。八方塞がりだ。どうしたものか。
その時、いい考えが浮かぶ。それに、ここにいてもいずれ見つかるだけだ。なら一か八かやるしかない。
俺は横でオロオロしている由衣に作戦を伝える。
「由衣、この状況をなんとかする方法を思いついた。ついでに帰る手段もな。」
「本当に!?どうするの!?」
「あれだよ。」
俺はパトカー達を指差す。すると彼女は恐る恐る口を開く。
「まさか…盗むの?それは流石に私…嫌だよ?」
「何でそうなる。しないわそんなこと。乗せてもらうんだよ。」
「え…でもどうやって?」
「取引するんだよ。」
「お巡りさん相手に?本気?」
「本気だ。」
本気でやるつもりだが、ぶっちゃけやりたくないし少し怖い。でもやるしかない。俺は覚悟を決めて公衆トイレの裏から出る。
「ちょっとまー君!?」
「ついてこい。あ、あとお前。教えたことに関しては話すなよ。ややこしくなると困るから。」
由衣は拗ねてる半分、怖がり半分といった雰囲気で俺の後ろをついてくる。
すると、俺達に気づいた警察官の1人が話しかけてくる。
「君たち、こんな所で何してるんだい?」
「実は…帰れなくなってしまって…。」
俺達に話しかけてきた警察官は不思議そうな顔をしている。すると、いかにも1番偉そうな警察官がやってきた。
「星雲警察署の丸岡だ。坊主…少し話を聞かせてもらってもいいか?」
「話って怪物の件、ですか?」
その瞬間、場の空気が凍る。しかし、丸岡と名乗る警察官は気にもせず話を続ける。
「わかってるなら話が早いな。坊主、怪物と戦っているな?」
「えぇ、そうです。ただこのことを話す代わりに2つ、お願いがあります。」
「なんだ、言ってみろ。」
「1つ目は、星雲市市街地まで乗せていって欲しいんです。俺達ここから帰る手段をないんです。そして2つ目、その際に「適当な理由つけて警察署に連れて行って逮捕」というのはなしでお願いします。」
「お前、警察相手に取引するつもりか。」
「末松、やめろ。」
丸岡と名乗る警察官は考え込んでいる。頼む。いい方向に行ってくれ。
途中から別の警察官が会話に参加してきて、今も俺の方をずっと見てるが気にしない。
しばらくしてから彼が口を開いた。
「わかった、乗っていけ。末松!お前も来い。」
そう言い残して、彼は車に向かう。
とりあえず帰れそうで何よりだ。一安心した俺は由衣と共に車へと向かった。
☆☆☆
車は2人の警察官と2人の高校生を乗せて、山道を下ってる。日は完全に落ちたが街の灯りはだいぶ見えてきた。
現段階で判明していて話しても大丈夫そうなことはだいたいの事は話した。星座騎士、澱み、墜ち星。そして、警察の装備では澱みや墜ち星に対抗できないこと。
すると丸岡刑事が口を開く。
「しかし坊主、それは本当にお前達が戦わないといけないことか?」
「どういう意味ですか。」
「お前達はまだ学生だ。そういう世界を守るとかは大人がするべきことだ。」
「そうだ!学生はお勉強をしろ!」
「末松。」
「すみません。」
「確かに、そうかもしれません。でも、墜ち星は星座騎士しか太刀打ちできません。それに先程もお話した通り、警察の装備では澱みすら倒せません。」
「お前!さっきから聞いてればちょっと特別な力があるからって調子に乗ってるんじゃないのか!?」
「松!!」
「…すいません。」
「まぁ実際、拳銃が効かなかったからなぁ。坊主の言ってることは正しいんだろう。しかしなぁ。」
それ以降、2人の警察官は何も話さなかった。
静かになった車内とは対象的に車は騒がしい市街地を走っていた。
☆☆☆
市街地までと言ったが、結局由衣の家の近くのコンビニまで乗せてもらってしまった。
丸岡刑事は家の前で送ると言ったが、由衣が嫌そうな顔をしていたので断った。
あと「何かあれば連絡しろ。」と言われ電話番号を教えてもらった。使うことはないと思うが、断るわけにもいかないので一応教えてもらった。
俺達は車を降り、由衣の家に向けて歩き出す。すると、ようやく由衣がいつもの調子で話し始めた。
「怖かったけど…いい人達だったね!」
いい人と表現していいのか?俺は少し反応に困る。
しかし、こちらの要求したことはしっかりと聞いてくれたのに加え、由衣家の近くまで乗せてくれた。
「約束以上のことをしてくれた。」という点で言えばいい人と表現していいのかもしれない。そう思い俺は「…そうだな。」と返事をする。由衣は言葉を続ける。
「私達…戦っちゃ駄目なのかな?」
「気にしなくていい。さっきも言ったが、墜ち星と戦えるのは俺だけだ。俺が戦わないと誰が戦うって話だ。」
「そう…だよね。…でももうまー君1人じゃないよ。私だって選ばれたんだから。私も一緒に、戦うから。」
「…お前にはちゃんと戦えるようになってもらわないと困る。だからこれから特訓をつけるからな。」
「うん。…あれ?そういや私達…連絡先交換してないよね?しておかないとこれから不便じゃない?」
そう言われればしてなかったな。遠足で同じ班にはなったが、その時も連絡先は交換するどころか由衣のことを避けていた。
しかし、もう変な意地を張る必要もない。そう思い俺はスマホを取り出し、自分のSNSアカウントのQRコードを出す。
「申請っと!ありがとね!」
「ん。」
由衣の家が見えてきた。昔はよく通った。それに俺の昔の家もこの近くだった。懐かしい場所だ。まぁ数週間ほど前に近くで澱みと戦ったがな。
「俺はここでまでにして帰る。」と言おうとしたが、そよりも先に由衣がこちらを向き口を開いた。
「ねぇ、ひーちゃんとの3人のメッセージグループさ。作ってもいい?」
俺は一瞬ためらう。由衣は星座に選ばれたが、日和は普通の高校生のままだ。あいつを巻き込むのは危険だろう。だが「由衣は選ばれたから口を利くが、日和は選ばれてないから避け続ける。」というのは不平等だろう。それに、もしそうしたら文句を言われそうだ。
俺は「好きにしてくれ」と返す。すると彼女はさらに言葉を続ける。
「今日の班のグループは…?」
別にそっちは入る必要はないと思う。どうせ今回限りのメンバーだ。終わったグループに入る必要はないだろう。俺は断ろうとする。しかし、昼間の長沢の誘いを思い出した。…こっちは由衣が2人いるようなものだったな。それにあの2人が手を組んで勝手にグループに入れられるより、自分からいいと言ったほうがまだいい。まぁ、今後使うかはわからないが。
「勝手にしろ。」
「りょーかい!」
彼女はクスクスと笑い出す。なんて笑ってんだ、こいつ。まぁ、理解できないのは今更なことだ。
「じゃあな。俺も帰る。これからのことはまた連絡する。」
「うん!ありがとね!」
そう言って彼女は家に向かって歩き出す。
長い1日だった。色々な意味で。
しかし、こうして由衣を家まで送りようやく安心できた気がする。
俺も疲れたしさっさと帰るか。星力も使いすぎたので今日は早く休みたい。
彼女が家の門を開け敷地に入る。俺も安心して、自分の家に向けて歩き出そうとする。
そのとき、彼女の家の扉が彼女が開けるよりも先に勢いよく開いた。
俺はそのとき帰って休むのはまだ無理なことを悟った。
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