第3話  それでも

 私は今、眼の前の状況が理解できない。凄く混乱している。答えは単純なはずなのに。

 ようやく再開できた幼馴染の陰星 真聡ことまー君は、昨日私達を襲ってきた泥人形をやっつけてくれた鎧人間の正体だった。

 うん。本当に単純。だけど私の頭は「わからない。」と言っている。

 私が混乱してなんて話しかけたらいいのか困っていると、先に彼が話しかけてきた。


 「なんでお前がここにいる。」


 さっきの言い争いのときよりも明らかに怒っている。

 私はその圧に少し押されながらも言葉を返す。


 「い、いや…別にまー君をずっとつけてたとかじゃないの!ただ、また泥人形達を見かけてどうしても気になっちゃって…」


 私が考えが纏まらないまま言い訳をしていると、ひーちゃんが追いついて来た。


 「な、なんで真聡がここにいるの。」

 「また日和も一緒かよ。」

 

 彼はため息をついた後、黙ってしまった。

 私達2人も言葉が出ない。状況がまだ理解しきれてない。なんて言葉をかければいいかわからない。

 だけど1つだけ、言うべきことがあった。


 「え、えっと…昨日は…その…助けてくれてありがとう。」

 「別にお前達だから助けたわけじゃない。」


 冷たい。私が覚えている彼なら「当たり前だよ。」とか「礼を言われることじゃない。」って言ってくれる人だったはず。それも、きっと笑顔で。ひーちゃんの言う通り、もうあの頃のまー君じゃないのかもしれない。

 考え込んでいる私の横で、ひーちゃんが彼の態度や言動に怒って言い合いになってる。

 でも、そんなことしている場合じゃない。私はただ、昔みたいに仲良くしたいだけなのに。言い合いなんてしていたらどんどん遠ざかっていく。

 私は彼の本心を知りたい。拒絶されててもいい。でも今、私の中の疑問を彼にぶつけないと、もう2度と彼と話せない気がした。

 私は「ねぇ!」と大きな声を出し、2人の言い合いを止める。2人が私を見る。私は言葉を続ける。


 「まー君が私達を拒絶するのってさ、さっきのことが関係あるの?あの泥人形はなんなの?それにあの鎧の姿も!」

 「お前達は知らなくていい。」

 「そう言うってことは私達を遠ざけることと関係あるってことだよね!」

 「お前達には関係ないって言ってるだろ!」


 彼のその叫びには悲痛さを感じた。

 私は「鈍感」とか「マイペース」ってよく言われる。でも、今のは彼が触れて欲しくない傷に私達が触ろうとしている。それを拒否する叫びだと私でも思った。

 私はまた言葉に困る。人には触れて欲しくないことがある。それに触ってはいけないことはわかる。でも、目の前で辛そうに見える友達をほっておいていいのかな。

 私が悩んでいると彼が口を開いた。


 「お前達は、普通の世界で生きてればいいんだよ。」


 絞り出すようにそう言った後、彼は走り去ってしまった。

 私は結局、なんと声をかければいいかがわからなかった。


☆☆☆


 空の色がどんどん暗くなっていく中、私達は家への道を歩いてる。私の足取りは重かった。その理由はショックからなのか、まだ頭が混乱しているからなのか、それとも なのか。

 そんな私に合わせて、ひーちゃんもゆっくり歩いてくれていた。

 私はまたポツリと本音が漏れる。


 「なんて言ったら良かったのかな…。」


 少しだけ前を歩いていたひーちゃんが振り返って、私を見る。


 「由衣、まだそんなこと…。」

 「でもさ、まー君はあの何かと戦ってるんだよ?それをほっといていいのかな…。」

 「…でも、私達には何もできないよ。あいつの関わるなって言葉も間違いじゃない。」


 確かにそう。私達は何も知らないし、あの泥人形と戦う手段もない。きっと足手まといにしかならない。彼の言う通りこのまま関わらない方が正しいのかもしれない。

 だけど、このまま彼をほっとくことが正しいとは私には思えない。


 「…それでも、私達にできることがあるかもしれないじゃん。」

 「人を襲う何もわからないやつら相手に私達が何ができるの。下手したら死ぬかもしれないことに首を突っ込むの?」

 「それでも、私は彼をほってはおけない。せっかく再会できたのに、このままだなんて私は嫌だ。それに、戦えなくても助けれることがあるかもしれないじゃん!」


 ひーちゃんと目が合う。お互い言葉を発さず、目もそらさない。

 時間だけが流れる。

 先に口を開いたのはひーちゃんだった。


 「わかったよ。でも危ないことはしないでね。」

 「えっと…なんか…ごめんね?」

 「別に。私だってあいつに文句言ってやりたいし。」


 私はその言葉にくすっと笑ってしまった。するとひーちゃんも笑ってた。

 少し笑って、スッキリした私達はまた家への道を歩き出す。


 「あ、でも私部活に入るつもりだから、たぶん毎回は付き合えないから。」

 「うん。流石に毎回付き合ってもらうのは私も申し訳ないから…大丈夫!」

 「そう。でも私が居なくて大丈夫?ちょっと心配。」

 「ねぇそれどういう意味〜!?」


 私はひーちゃんを後ろから軽く押す。

 そして私達はまた笑い出す。

 もう私達の足取りは重くなかった。


☆☆☆


 あれから数日。

 ああは言ったけど結局私になにができるかのか。そもそも、なんて話しかければいいかわからず、彼とは話せずにいた。

 というか、休み時間とか放課後とかに話しかけようかなと思って見るたびにまー君は見当たらない。

 今日も今日とて見つからないから、私は諦めてクラスの子達と部活見学をしている。


 「だいたいは見て回ったけどさぁ〜。結局、みんな何部に入る?」

 「私ダンス部に入ろっかなぁ〜。」

 「私は軽音部にしよっかなぁ〜。」

 「由衣ちゃんはどうする?」

 「あ、え、えーっとぉ…まだちょっと決めきれないかなぁ…?」


 実は部活見学の間も色々考えてしまって、あんまり話を聞いていなかった。部活に入りたくないってわけじゃないんだけど、やっぱりまー君のことが気になる。

 一緒にいる子達はこの後どうするかを話している。私はこの後どうしよう。もう1回部活を見て回るか。それとも今日はもう帰ろうかな。

 そのとき、校内で悲鳴が聞こえる。私達は何が起きたかわからず、少し固まる。数秒の後、とりあえず私は窓の外を見てみる。

 すると、今回は虫人間が誰かを襲っている。でも今の私には何もできない。彼にこの状況を知らせることすらも。でも、ここで待っていたら彼がまた戻ってくるかもしれない。だとしても、彼になんて声をかけよう?

 そう考えていると、一緒にいるの子達が私に声を掛ける。


 「何してるの!?というかあれ何!?」

 「わからない…けどみんなは帰った方がいいと思う。」

 「由衣ちゃんは帰らないの!?」

 「私は…そう!用事思い出したの!ごめんねみんな!また明日!」


 そう言い残して私は走り出す。

 考えていても仕方ない。行動しないと何も始まらない。私に何ができるかわからないけど、彼に会わないと何もわからない。だって、まだ何も教えてもらってない。だからもう一度彼と話したい。それが今の私が辿り着いた答え。

 今いる階は2階。ここだと戦いの影響とかで危ないかもしれない。

 とりあえず私は校舎の上の階に行くことにした。

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