第2話 だからなんだよ
私は明日の学校の準備をして、ベッドに横になる。明日も学校だから夜ふかしはできない。
でも、眠れない。羊を数えても眠れない。
頭の中を今日の2つの出来事が頭の中で交代で出てくる。
1つは幼馴染のまー君。「中学校も同じだよね!」と話していた彼は、なぜ居なくなってしまったのか。そして、高校生になった今、突然同じクラスになったのか。それに3年ぶりの彼は雰囲気が全然違った。彼にこの3年間で何があったのか。凄く気になる。というか心配。
そして2つ目は夕方の泥人形と鎧人間。私はこの街で生まれて、育ってきたけど両方とも見たことも、話すら聞いたことすらない。こっちも気になる。
眠れないので寝ることは諦めた。このままじゃ朝まで眠れないコースになりそうな気がした。
私はとりあえず、泥人形と鎧人間についてをスマホで調べてみることにした。もしかしたら、私が知らないだけで既に有名かもしれない。
結果、ぜんぜん出ない。
なんで出ないのだろう。最初に思いついたのが、私達が始めて目撃者だったかもしれないってこと。もしそうなら…写真とか撮っといたほうが良かった…?
それとも…夢とか幻…?でもかなり現実ぽかったんだけど…。
と少し後悔したり色々考えるうちに気がつくと…私は寝ていた。
☆☆☆
翌日、放課後。
「由衣ちゃんも遊びに行かない?」というクラスの子からの誘いを「大事な用があるの!」と断って、私は急いで彼を探す。
本当はクラスの子と遊びに行きたかったけど、やっぱり彼を探すのを優先した。なぜか私は早く話した方がいい気がして仕方なかった。
学校内では見つからず、学校を出てすぐのところでようやく彼を発見した。私はひーちゃんにメッセージを入れて彼を引き止める。
「ねえ!まー君…だよね?私のこと…覚えてる?」
「誰だ。」
「白上 由衣。ほら、小学校まで一緒だった…」
彼が私の方を見る。目つきが怖い。私は言葉を失い、会話が止まる。「やっぱり話しかけないほうが良かったのかな…。」と少し後悔する。でも連絡が取れなかった友達に再会できたら話ぐらいしたいのは間違いじゃないよね…?
と考えていると、彼は小さなため息をついた後ようやく口を開いた。
「何か用か?」
「思い出してくれた…?」
「思い出した。で、何か用か?」
「いや、用はないけど…。ほら、まー君中学校入るときに居なくなっちゃってそれ以来だから色々話したいなぁ〜って…」
「そんな必要はない。」
私はその言葉にまた返す言葉を失った。
彼はそんな私を置いて、立ち去ろうとする。
そこにひーちゃんが息を切らしながら、合流してきた。
「ちょっと。どこ行くのよ。」
「何だよ。日和まで一緒の学校かよ。」
「そう、一緒。で、真聡はこんな由衣を置いていくようなやつではなかったでしょ。この3年で何があったの。」
「何だよ揃いも揃って。」
やっぱり目つきが怖い。というかこれ怒ってるよね。
でも、私はそれに負けずに言葉を絞り出す。
「ねぇ。何があったか私達にはわからないけどさ、せっかくまた会えたんだし仲良くしようよ!」
「そんな必要はない。」
「…なんでそんなに拒絶するの?…もしかして何が悩みがあるの?何でも聞くよ?」
「うるさいな。言わなきゃわからないのか?関わるなって言ってるんだよ。」
「ちょっと。」
「何でそんなこと言うの!?私達友達でしょ!?友達の心配しちゃいけないの!?」
気がつくと私の頬には涙が伝っていた。それに気づいたひーちゃんが私を心配してくれている。まー君は私達ではなく、どこか違うところを見ている。そんな彼の手は強く握られ、震えていた。
「友達だからなんだよ。俺にはそんなもの必要ない。」
そう言い残すと、彼は立ち去ってしまった。
もう会えないと思っていた彼に、奇跡的な再開ができたのに拒絶されたことが悲しくて、悔しかった。
私の目からは大粒の涙が流れていた。
☆☆☆
「いやぁ…お恥ずかしいところ…お見せしました…」
「気にしなくていいよ。昔からの仲だし。」
「それも…そうだね…。」
「それより、私の分は自分で出すけど。」
「いいの!これは付き合わせたお詫びだから…。」
私達は有名コーヒーチェーン店でお茶会をしている。私が「付き合わせたお詫びに寄っていこ!」とひーちゃんを引き止めた。
でも実際は彼に酷く拒絶されたことがかなりショックで、彼女とまだ一緒にいたかった。
「…でもやっぱり、せっかく再会できたんだからまー君もいたら良かったのに。」
落ち着いて一息ついたからか、思わず本音が口から漏れてしまった。
それを聞いた彼女はため息を付きながら言葉を返す。
「それは諦めたほうがいいよ。あいつはもう、昔のあいつじゃない。」
「そうかもしれないけど…。」
わかってはいる。
わかってはいるんだけど、私の中には諦められない気持ちがあった。
「でもさ、まー君。なんて言ったらいいかわからないけど…辛そうじゃなかった?」
「いや、あれは怒ってるだけじゃない?理由はわからないけど。」
「そう言われると…そうなのかな…。」
わからない。彼はなぜ、私達を拒絶するのか。なぜあそこまで怒っているように感じるのか。なぜ私はそんな彼を見て「辛そう」と思ったのか。
「ま、どうしても諦められないなら少し日を開けてからにしたら?そしたら、なにかわかるかもしれないし。」
「…そうだね。きっと明日また行っても、また言い合いになるだけだよね。」
「きっとね。はい、この話題はおしまい。で、由衣は他にクラスで友達できそう?」
「できるよ〜!それを言うなら私はひーちゃんの方が心配なんですけど〜!」
そこからはクラスはどうとか、部活はどうするなどの普通の話題を話した。
☆☆☆
夕日が綺麗な時間になってきたので、「そろそろ帰ろっか。」とお店を後にする。「時間が合うときにまた来ようよ!」なんて話をしながら、私達は家の方向へと歩き出す。
そのとき、駅前に響く悲鳴。あたりを見回すと、昨日と同じ泥人形が人を襲っているのが目に入る。
泥人形、鎧人間。
昨日のことは夢でも幻でもなんでもなかった。
やっぱり現実だった。
じゃあ、あれは一体なんなのか。
そう考えていると、ひーちゃんが私の手を強く引っ張る。
「何してるの!逃げるよ!」
私はその一言で我に返る。
そうだ、逃げなきゃ。
私達は走って少しだけ離れた建物の陰に隠れる。
そこで一休みして、走って上がった息を整える。
私は昨日から考えてたことをひーちゃんに聞いてみる。
「あれってさ。何なんだろうね。」
「わからない。でも、関わらない方が良いことは間違いないでしょ。」
彼女が言ってることは正しい。
人を襲うようなものに関わるのは間違ってる。それくらいわかってる。
でも私は、どうしても気になってしまう。
泥人形が何なのか。
鎧人間が何なのか。
「ここはバレてないみたいだから帰るよ。」
ひーちゃんが泥人形がいる方向と反対側に歩き出す。
「私は…帰らない。」
「何言ってるの。」
「だって気になるんだもん!スマホで調べても出てこないし!」
「…はぁ。わかった。でも本当に危なくなったら、引きずってでも帰るからね。」
「えっ…。ひーちゃんは帰っても…いいよ?」
「由衣を危ないところに置いて帰れないよ。」
「えっと…ごめんね?」
「いいよ。いつものことだし。」
私は苦笑いをする。
そして2人で建物の陰から顔だけを出して様子を窺う。
すると昨日の鎧人間が既にいて、泥人形達と戦っている。今日の鎧人間は右手に杖のようなものを持っている。昨日は持ってなかったよね。
他にも昨日との違いはあって、戦いの中には虫が人の形になったようなものもいる。どうやら鎧人間は泥人形と虫人間の両方と戦っているみたい。
虫人間の動きは素早く、鎧人間は少し押されている。
しかし、鎧人間も負けていない。地面や壁から植物を生やして虫人間を捕まえようとしたり、向かってくる虫人間を地面から壁を作って防いだり、杖の先から火を出したりして反撃している。泥人形は鎧人間の虫人間への攻撃のついでのように消滅させられていった。
そんな状況がしばらく続いた後、虫人間はどこかに行ってしまった。その頃になると泥人形はもう増える様子もなかった。戦いがあった場所には鎧人間だけが残った。
「終わった…のかな?」
「終わったんじゃない?」
鎧人間はあたりを見回したあと、どこかへ歩き出す。
それを見た私は気がつくと建物の陰から飛び出して、鎧人間を追いかけていた。ひーちゃんが後ろから引き留めようとなにか叫んでるけど、私は振り返らなかった。
鎧人間は建物の間に消えていく。私はその路地を目指して走る。ここで追いつかないと、鎧人間のことや泥人形、虫人間について何もわからない。私はそんな気がした。
私も鎧人間が消えた建物の間に辿り着く。
鎧人間はまだそこにいた。
私は話しかけようとした瞬間、鎧人間の鎧が光になって散っていく。
鎧人間が人の姿に戻る。
私は鎧人間の正体を目にする。
その正体とは、数時間前に私達を拒絶した幼馴染の陰星 真聡だった。
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