かわった男

いつも通りの朝、涙はスーツに着替え、笑輝からプレゼントされたスニーカーを履き出勤をした。

朝のミーティングで来月、近くの県で行われるイベントに、LacocoとKiritoも参加する事になり、涙が出席する事になった。


「いいなぁ涙さん。このイベントすごい大きいイベントで、美容業界だけじゃなくて、有名アーティストとかも来てライブやったり、夜は海岸で花火大会もあるんですよね。」


未有が案内を見ながら、羨ましそうに言う。


「このイベントは今回だけじゃなくて、3年に一度くらいのペースで開催されてるから、未有ちゃんにもチャンスはあるから、次回参加できるように、技術を磨いておきなさい。」


オーナーの浅野が激を飛ばした。


――Kiritoも参加かぁ。


涙は笑輝も参加するのか期待した。


「ちなみに、Kiritoからは店長の長谷川君と、今井君が参加するから、涙ちゃんは、あまり関わりが無いから不安かもしれないけど、気のいい子達だから安心して。」

「え?あ、はい・・・」


――なんだ。笑輝は行かないのか。


涙はつまらなかった。


「さあ、今日も笑顔でお客様を迎えましょう!」

「はい!」


◇◇◇◇◇◇


「笑輝・・・ちょっといいか。」


先輩の今井が、笑輝に声をかける。


「なんですか?」


今井は笑輝をロッカー室に連れていく。


「じつはさ、今度のイベントの日、推しのファンミと重なっちゃって、俺、どうしてもそっちに行きたいんだよ。」

「はい?」


笑輝は目を見開く。


「だから、ごめん!当日、体調不良でドタキャンするから、変わりに行ってくれないか!」

「えぇ・・・そんな事あるんすか・・・」

「頼む!」


笑輝は少し考える。


「俺は別にいいですけど・・・」

「ほんとかっ!?」


――こんなイベントに参加できるなんて、俺にとってはラッキーだけど、でも俺につとまるのかなぁ。


喜ぶ今井をよそに、笑輝は不安だった。


昼休憩になり、笑輝は、コンビニに行く為、店を出た。

待ち構えていたように、涙も後を追った。


「あ、涙、おつかれ。」

「お疲れ様。」


笑輝はスタスタ歩く。

涙は必死に追いつく。


「涙。今日は弁当じゃないの?」

「うん。たまにはコンビニもいいかなって。」


笑輝はパンを選ぶ。

涙もパンを選ぶ。


「あ、そうだ!笑輝のぶんのお弁当も作ってあげようか。1人分て以外に作りにくいから、ついでに。」

「いらない。」

「え?」


笑輝はお金を払う。

涙もお金を払う。


笑輝はコンビニを出る。

涙も後を追う。


「どうして?あたしが作ってあげるって言ってるのよ。嬉しくないの?」


笑輝は足を止める。

そして、クルッと振り返り、涙の顔を覗き込む。


――な。なによ。かっこよすぎるじゃない。


「気持ちは嬉しいけど、俺、付き合ってもいない子にそういう事、頼まないから。」


――え?


「つ、付き合うって、じゃあ、別に、付き合ってあげてもいいわよ。

そしたら、作ってあげるから。」


涙は少し不貞腐れたように言った。

笑輝は少し困った顔をする。


「涙・・・俺ら、そういう関係じゃないでしょ。確かに涙は、可愛くて綺麗だよ。だけど、付き合うとは、なんか違う。」


笑輝は、人差し指で涙の唇をそっと押し当てる。


「だから、今のは聞かなかった事にする。」


笑輝はニコっと笑う。


――え、うそ。

あたし・・・ふられた・・・?


イベント出発当日、新幹線の駅に涙、長谷川、今は集合して一緒に行く事になった。

涙は集合場所に向かう。


「あ、及川さん。」


涙に気付いた長谷川が手を振る。

涙がスーツケースを引きながら駆け寄ると、隣には笑輝が。


――え?どうして?


「あ、今井が急な体調不良で来れなくなって、急遽、春川に来てもらう事になりました。まだ新人ですが、きちんと僕が見ますんで、よろしくお願いします。」

「よろしくお願いします。」


長谷川が説明すると、笑輝は頭を下げた。


「こちらこそ、よろしくお願いします。」


涙は嬉しさで顔がニヤけるのを隠して挨拶した。


イベント会場に到着すると、早速、長谷川、笑輝は自分達のブースの準備に取り掛かった。

ここはイベントホールを貸し切って、チケット購入で、美容室、エステ、化粧品会社など、様々な美容関係を体験できるイベントだ。鍼灸院による「美容鍼」の体験もできる。

長谷川の指示に従い、テキパキと仕事をこなす笑輝に、涙は思わず見とれてしまう。


――いけない、あたしったら、早く準備しないと。ここは、あたししがいないんだから!

それに、アイツは、あたしを振ったのよ。ナマイキにも!

ん?ほんとに振られたの?あたし。そんな事ないでしょ。もしかして、じらしてるのかしら?


イベントが始まると、たたまちお客さんの長蛇の列ができた。

涙は、フェイスマッサージをレクチャーした。

女性のお客さんに、混ざって、男性のお客さんも結構な人数いる。

男性のお客さんにも丁寧に教える涙を見て、笑輝は少し面白くなかった。

笑輝の周りには、女性客が集まる。

優しく接客する笑輝の姿を横目で見て、涙もまた、面白くなかった。


交代で休憩する為にオーナーの浅野が駆けつけてくれた。

涙はイベントホールを出て、外の空気を吸いに行く。

外に出ると、涙は1人の女性とすれ違った。

涙は気にしていなかったが、その女性は、見覚えがあるかのように、涙を見ていた、













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