第7話 自分を呪わば穴はひとつですむ


「神父様! どうか、どうか俺を……呪ってください!!!!」


 俺はオーガ神父様に叫んでいた。


 我ながら完璧な解決策を思いついたものだ。ついドヤ顔してしまいそうになる。


 呪い。それはゲームで言うなら弱体化デバフ、ようは敵を弱くするための魔法だ。


 だがここで発想を逆転させるのだ。自分に呪いをかければどうなる? 当然ながら弱体化するはずだ。


 それはつまり全力が出せなくなるということで、ようは呪いをリミッター代わりに出来るのではないか!


 もちろん呪いで全てが解決するわけではない。結局全力が出せないことに変わりはないのだが、怪我を防げるようになるというだけでも大きな進歩だ。


「う、ううむ……まさか呪いの魔法を自らの力を抑えるのに使うと?」

「はい! できますよね?」

「ううむ。確かに可能そうではありますが……相手を弱くするための魔法なんですけどね」


 オーガ神父様は腕を組みながら唸っている。


 呪いとは本来、他人相手に使う魔法だ。それを自分自身にかけるのは前例がないのだろう、そもそも意味がないだろうし。


「ですが自分の身体を常に呪いで弱体化させれば、無理できなくなるのでアリかと。それと可能であれば自分で使えるようになりたいですね。ほら自分で包帯を巻けないと不便でしょう?」


 それこそ呪いの強度を自在にできれば、厄介な敵には力を少し開放するとかできそうだし。


「……呪いを包帯に例えられるのは君だけでしょうね。いいでしょう、お教えします」

「ありがとうございます!」


 そうして俺はオーガ神父様から、呪術を教わることになった。


 しかし神父様から呪術というのはおかしいが、鬼なら呪いの類は使いそうなのでプラマイオーケーといったところだろうか。

 

「いいですか。呪い魔法の基本は、かける対象を強く憎むことです。我が魔法にて苦しめ、生きづらくなれと文字通り呪うのです」

「自分に呪いをかける場合はどうすればいいんでしょうか」

「……自分を呪って、生きづらくなれと祈るしかないかと」

「なかなか難しいですねそれ。なんかこう、呪いをかけた後のことを考えないというか」

「仕方ありません。呪い魔法を発動する時に、かけられた側の都合など考えないでしょう? あとは野となれ山となれと言いますか」

「酷い」

「呪いですから」


 こうして俺は自らを呪い始めた。


 なんで魔力を頑張って鍛え続けたのに、その代償で身体が脆くなってしまったんだ。おのれぇ……! 


 せっかく無敵の天才になれると思ったのに! おのれ、おのれ、おのれぇえええ!!


 すると俺の両手になにかの紋章が出現した。なんか黒くて少し気味の悪い、呪われた品物とかに書かれてそうな。


「おお! なんと一発で成功させるとは! ジーク君には人を呪う才能がありますな!」

「すみません褒めてます?」

「もちろんですとも!」

「ありがとうございます」


 そうして呪い魔法の説明を聞き続ける。


「呪いというものは基本的に、強いものほど魔力が必要になります。例えば相手の力を一割落とす程度なら100の魔力で可能ですが、二割落とすとなると500が必要です」

「かなり変わるんですね」

「はい。そうでなければこの世界の最強魔法は呪いでしょうね。魔法使いは呪いの掛け合いの戦いとなり、最強の魔法使いは最も人を呪う才能に長けた者に」

「それは嫌ですね……」


 魔法使いのメイン魔法が呪いは嫌だなぁ、もう少し煌びやかに戦って欲しい。


 そうして俺は日々、自分を呪う練習をし始めた。するとみるみる内に呪い魔法が得意になって、かなり細かい制御もできるようになった。


 具体的には自分の力を1%単位で制御できるようになった。例えば99%封印で、自分の力を常に1%だけ発揮するとか。


 「よし! これからは呪いの修行をします! そうすれば全力が出せなくなって、思いっきり修行もできるはずです!」

「その意気やよしです! 本官も色々と教えましょうぞ!」


 そうして俺は家に帰って、夜になってベッドに入った。




^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^



 俺は先日と同じように、真っ白な空間にいた。


 そしてまた俺の目の前には、


「ヒャッハー! 今度こそ逃がさねぇぜ! 必殺の二本流だぁ!!」


 【不条理】と【理不尽】と書いてある二つの旗を背中につけた、地球で俺を殺した男がいた。


 今度は金属バットを片手に一本ずつ持っていて、さらに攻撃力を増していた。


 だが今の俺には、目の前のこいつがまったく怖くない。


「待ってたぞ。また出てくると思ってたよ」

「あん? わざわざ手を砕かれるのを待ってたってか! それはいい心がけだなぁ死ねぇ!」


 不条理野郎は俺に襲い掛かって来る。だが今の俺は万全だった、布で吊っていない右手を奴に向けると。


「燃え尽きろゴミ野郎! 喰らえ、火打ブレイム!」


 超巨大な火の玉が出現して、不条理野郎を飲み込んだ!


「ぐ、ぐえええええええぇぇぇぇぇ!? て、てめぇ!」


 炎に包まれて悲鳴をあげるゴミ野郎は、目を見開いて俺を睨みつけてくる。


 だがもう怖くない。今の俺には魔法があり、そしてどうやって成長していくかの未来も見えている。


 ゴミ野郎はそんな俺を見てわずかに笑った後。


「お、俺を倒そうと第二、第三の不条理がお前を……!」

「黙れさっさと消えろ! 火打! さらに火打! トドメに火打!」

「ぎ、ぎやあああああああああああ!?」


 理不尽と不条理の権化(たぶん)は燃え尽きていく。


 ……たぶん俺は知らず知らずの間に、このゴミ野郎がトラウマになっていたのだろう。いや今もまだ理不尽に殺されたのが心に刻まれている。


「あぢいいいいぃぃぃぃぃ!?!?!?」


 第二、第三の不条理はともかくとして、心のどこかで安心しきれないところはある。また地球のようなことが起きないかと。


「死ぬぅぅぅぅぅぅぅ!?!?!?」


 だから俺は、世界で一番強くなりたい。そうすれば理不尽も不条理も、目の前のように粉砕できるから。


「ぎえええええええ!?」

「……というかお前まだ燃え尽きないの!? もうそろそろ消えていいんじゃないか!?」

「う、うるせぇ!? そう簡単に死んでたまるかよぉ!?」


 この後、何度も火打を打ちまくってようやく消え去った……いや不条理や理不尽ヤバイなうん。ちゃんと鍛えよう……。

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