第5話 強すぎた魔法


 俺はずっと魔力の殻排出トレーニングを続けて、五歳になっていた。


 ところで今更過ぎるのだがこのトレーニングって、なんか生命に喧嘩売ってる気がするな。本来なら子が生まれる時の殻を無理やり生み出してるし。まあもう遅すぎるけど。


 身体もすくすくと成長して、平均的な五歳児くらいの身長はあるはずだ。


 さらにオーガ神父様もずっと村に残ってくださって、日々俺に色々なことを教えてくださっている。もう足向けて寝られないレベルでお世話になってるなあ。


 というかこんな子供だけのために、村に残ってくださってるのありがたすぎる。彼は他にもやることがあると言ってるが、おそらく俺のためだけにいてると思う。


 ……いくらなんでもいい人、いやいい鬼すぎないか? と思うこともあるけど。


 そして俺は毎日ずっと魔力操作をし続けた結果、間違いなく大量の魔力を有した人間になっている。


 では実際のところ、どれくらいの魔力があるのか。それを見るために俺とオーガ神父様は、村近くの平野へとやってきていた。


 ちなみに今日のオーガ神父様は、先端に飾りのついた杖を持っている。ただ神父様は巨漢なのに杖は人間サイズのため、少し長い指揮棒みたいに見えるが。


「ジーク君。では五歳になったので魔法を使ってみましょう」

「はいっ!」


 俺は五歳になるまで魔法を使うことを禁じられていた。


 オーガ神父様曰く「身体が出来てない時に魔法を使うのは危ないのです。そもそも使えそうなのが異常なんですけどね」だそうだ。


 ちなみにこの世界の魔法だが多種多様だ。炎や水を出すのはもちろんのこと、相手を呪って力を発揮できなくしたり、癒したり、身体を強化したりとかなり種類が多い。


 ゲームで例えるなら攻撃、強化バフ、弱体化デバフ、治癒などだ。ただこの世界の治癒魔法は即効性はないらしく、本来なら一月で治る怪我が一週間でとかレベルらしいが。


「どの魔法を使ってみましょうか。色々と教わりましたが」

「確かに迷いますね。人間は大抵の魔法が扱えますし。これがオーガ族なら身体強化一択なのですが」


 オーガ神父は腕を組んで悩み始める。


 この世界にはオーガやハーピーなど様々な人種がいるが、やはり魔法への適性はかなり違うらしい。


 例えばオーガはそもそも魔法が不得手で、基本的に強化魔法しか扱えない。ハーピーなら風を操ったりは出来るが、癒しの魔法はてんでダメだと。


 人の場合は不得手な魔法がないので、魔法使いとしての適性が高い種族だ。


「ふむ。では呪いの魔法はいかがでしょうか? かけた相手がまともに力を発揮できなくなる魔法です。本官の得意魔法なので教えやすいですし」

「神父様が使っていい魔法なんですかね?」

「鬼神様の教えでは問題ありませんので」


 ちなみにオーガ神父様は精神に働きかける魔法もお得意だ。やはり神父とは思えない魔法が得意なお鬼様。


 この神父様は本人は大したことないと謙遜しているが、間違いなく相当な実力者だ。鬼の腕力で魔法得意とか弱いわけがない。


「ふむ……ではここは一番弱い炎魔法を使って頂きましょうか。やはり魔法の上限値を図るには、こういった魔法の方がいいでしょう」

「わかりました。ではさっそく」


 俺は山の方向に手を向けると、


「少しお待ちなさい」


 オーガ神父様は俺の手を向けた方角に移動して、少し距離を取って杖を構えた。


「えっと。神父様? 今からその方向に魔法を撃ちだすのですが」

「わかっていますよ。火の玉が変な方向に飛んで行って、木に引火でもしたら問題ですからね。本官が軽く止めましょうぞ」

「あ、そういうことですか。ありがとうございます」


 確かに火の玉がもし森に飛んで行ったら不審火になってしまうし、そこから山火事なんて可能性もゼロじゃない。タバコのポイ捨てダメ絶対。


 どうやら魔法を使えることに浮かれて、他のことを考えられなくなっていたようだ。こういう迂闊な行動をしてたら、周囲に迷惑かけるから気を付けないと。


「では神父様。魔法を撃たせて頂いてよろしいでしょうか?」

「もちろんですとも。ああ、ただひとつだけ約束してください。魔法は今の全力で撃って下され。下手に力を抜こうとすると、逆に魔力が暴発して危険なのです」

「わかりました」


 俺は体内での魔力制御には自信があるが、実際に魔法を使うのは初めてだ。魔力の殻を作り出すのも、あれは魔法ではないらしいからな。


 なので加減するなんて芸当が出来るとも思えないし、ただなにも考えずに撃つのみだ。


「ふー……」


 軽く息を吐いた。自分でも少し緊張しているのが分かる。


 なにせ五年間もずっと魔力を操る訓練をしてきて、その結果が今日ここで証明されるのだから。


 もしここで大したことのない魔法しか撃てなかったら辛い。五年間の頑張りはなんだったのかと泣きたくなる。いや努力が報われるとは限らないけどさ、でも報われて欲しいじゃん。


「ジーク君、邪念が生まれていますよ。魔法に無心で集中しなさい」

「すみません」


 怒られてしまった。よし集中しよう、頼むから俺が魔法の天才であってくれよ!


 そして理不尽を吹き飛ばして、今度こそ幸せな人生を……!


「邪念を消してくださいと言っていますが」

「本当にすみません……」

「まったく。いいですか? 鬼神様はいつも我々を見守ってくれてます。ですから私たちはそれに恥じぬように……」


 オーガ神父様のありがたい説法が五分ほど続く。最初だけ聞くといい話のように思えるのだが、


「つまり鬼神様はこう仰りたいのです。力こそ、正義であるべきと」


 鬼神様の教えだけあってやはり力なのであった。


「はい! わかりました!」

「よろしい。では続きを行いましょう」


 そうして再び魔法の初体験を再開することになった。


 今まで体内で循環させていた魔力を、手の先へと集めるイメージを浮かべる。すると手先に魔力で作られた手のひらサイズの渦が出現した。


 よし、魔力の殻を作り出すのに近い要領でいけそうだ。後はこの魔力の渦を、魔法へと変換するだけだ。


 神父様に教えてもらった、握りこぶし程度の火の玉を作り出す魔法を唱えよう。


「火よ、我が呼び声に応えよ。火打ブレイム!」


 そう告げた瞬間だった。手先に集めていた魔力の渦が、信じられないほど巨大化した。手のひらサイズだったのが、俺の身長を遥かに超えていく。


 アッと言う間に家ほどの大きさになってしまい、しかも渦に火がついて球の形へと変貌していく。


「えっ!? ちょっ!?」


 火の玉は出た、確かに出た。だが……いくらなんでも大きすぎるだろ!? うわ火の玉からの熱気が熱い!?


「……嫌な予感はしていたがここまでとは! ジーク君! 本官へ撃ちなさい!」


 オーガ神父様は杖を構えて俺を見据えてくる!?


「で、でもこれは流石に危ないのでは!?」

「安心めされよ! というよりもその球を下手に撃てば、大惨事になりかねませんぞ! 本官を信じて!」

「は、はいっ!」


 俺はオーガ神父様に向けて炎の球を打ち出した。


 するとオーガ神父様は地面に杖をつき、詠唱を始める。


「我らが偉大なる鬼神様よ! 矮小なる者にそのお力の一端を貸したまえ……鬼神顕現ディバインオーガ!」


 オーガ神父様の前に光で構成された、火の玉にも劣らぬ巨大な鬼が現れた。両手に大剣を持つその姿は、まさに鬼神と呼ぶに相応しい圧に塗れている。


鬼神一閃オーガスラッシュ!」


 オーガ神父様が杖を振りぬくと、鬼神もまた同じ動きで大剣を振るった。


 鬼神の大剣と俺の火の玉がぶつかり合った。力が拮抗しているのか、大剣と火の玉は互いに譲らず微動だにしない。


「おおおおおおお! 偉大なる鬼神よ!! 更なるお力をここに!!!」


 オーガ神父様が吠えるとさらに鬼神が巨大になり、とうとう俺の火の玉を切り裂いてしまわれた。


 火の玉はカタチを保てずに霧散していき、同じように鬼神もまた溶けるように消えていった。そしてオーガ神父様が俺の方へ走ってくる。


「ジーク君!」

「神父様! すみません! 大丈夫でしょうか!? お怪我は……」

「大丈夫じゃないのは君の方です! 手を見なさい!」


 オーガ神父様がすごい剣幕で叫んできて、自分の右手を確認するとへにゃっと垂れている。


「あ、あれ? えっと……」


 思わず動かそうとするとズキリと痛みが走った。あれ、なにこれ……。


「動かしてはいけません! その右手は折れています! 先ほど放った魔法の反動です!」

 


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骨が折れてるって自分では気づきづらいのですよね。



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