第3話 異世界って不思議だなぁ


 俺はベッドに寝たまま、オーガ神父様と引き続き脳内会話を行っていた。


 マリーとダデーは用事があるらしく、外出しているので二人きりだ。


 なお彼には俺が異世界人であることはもう伝えた。神父様はそれを【さもありなん】の一言で済ませたけど。


【じゃあこの世界は、人間以外の人が多くいるってことですか】

【そうなりますな。例えば本官はオーガ族です。他にもトカゲ人のリザード族や鳥人ハーピー族、牛人のタウロス族などなど】

【牛人と牛の違いってなんですか? あとは魔物もいると聞きましたが、牛の魔物と牛人の違いも】

【それは簡単です。会話出来れば人、出来ないなら獣か魔物です】

【大雑把ですねぇ】

救世通訳石トーカーストーンというのがありましてな。その石によって知性あるものの意思が声に乗って、誰とでも会話できるのですよ。なので多種多様な人が、同じ街で暮らしているのです】


 なるほどなぁ。俺のような普通の人間だけじゃなくて、亜人的な者たちが共生しているのか。


 オーガ神父様が赤子と会話できてもそこまで驚かないわけだ。こんな世界ならいろんなことがありそうだし。


【では次は本官からお聞きしたい。貴殿はなぜ異世界で赤子の姿に? なにかの魔法でもあるのですかな?】

【俺が聞きたいですよ。この世界に魂を呼び出す魔法とかありませんか?】

【聞いたことがありませんなぁ。ふむ、理由は分かりませんがそういうこともあるのでしょう。これも鬼神様の思し召しと】


 オーガ神父様は豪快に笑い始める。


 流石は神父様、理屈が通らない話も神様パワーでまとめてしまう。


【しかし私からすれば、赤ちゃんが魔力の殻に覆われて生まれてくるのがビックリですよ。私の世界ではなかったものですから】

【本官からすれば魔力の殻がないほうが不思議ですな。赤子は魔力の殻によって安全に生まれて、また殻の魔力が周囲に溶けることで守りになり、生後三週間ほどを安全に生きられる。殻がなければ多く死にそうなものですが】

【もしかしてこの世界の赤子って、ほぼ死ぬことがないのですか?】

【無論ですとも。割合としては一万人に一人も死なないかと】


 ……この世界の文明レベルは、周囲を見たり神父様の話を聞く限り中世レベルだ。


 現代日本のように医療が整ってないことを考えれば、一万人に一人も死なないのは凄まじい生存率だと思う。


【ちなみにその一万人に一人の死因が魔殻爆死。ようは先ほどの貴殿のように、体内に殻を取り込んでしまってというわけです。そんな赤子には我ら神官が教育魔法で、殻を排出するやり方を叩きこむわけです】

【叩きこむ】

【知性のない者には意思疎通できませんからなぁ。魔法で知識を植え付けるしかないのですよ】


 なんかちょっと怖いなそれ。いや睡眠学習と考えればマシか?


 しかし俺、一万人に一人の大外れを引いていたみたいだ。


 ま、まあ魔力殻を体内に循環できたので、結果的に大当たりに変えられたのだが。


【あれ? でもそれだと、私は周囲の守りがないのでは? 殻を体内に取り込んでしまってるわけで……】

【魔力を体内に張り巡らせていれば、身体が丈夫になるのでそこは大丈夫です】


 そう告げてくるオーガ神父様。


 しかし魔力の殻か。まさか人間が疑似的な卵で生まれてくるとは、この世界はなんかすごいなあ。


【ふむ。本官としても異世界の人の考え方は興味深い。貴殿が今までで一番驚いたのはやはり魔力の殻ですかな?】

【ははは。ソウカモデスネー】


 実際は神官服を着た鬼がいきなり現れて、顔を潰されると思ったことです。流石に言えないけど。


 だって仕方ないだろう。いきなり緑の鬼が神官服だぞ。驚かないわけないだろ怖かったぞ。


【しかし見事に魔力が安定していますな。魔力の殻は、多くの魔力を内包しております。それを体内に循環させるのは、一人前の魔法使いでも難しいというのに】

【そうですか? 体内の血管や臓器に行きわたらせるイメージで、結構簡単にできたのですが】


 イメージは小学校の理科室の、肌が剥げた人体模型だ。あれも怖かったなあ……。


 そういえば動脈と静脈ってなにが違うんだっけ。もう覚えてない。


 血が流れて動くのが動脈で、静かで流れてないのが静脈だっけ……いや違う気がするな。そんな音的なノリではなかったはずだ。


【体内の血管に行きわたらせる……ええと。血管? とやらがよくわかりませんが】

【ええと、人の身体には血が川のように流れてるんですよ。その川の形を血管というか】


 だいぶ雑な例えだが許して欲しい。俺は医療知識どころか、理科の成績すら悪かったんだ。


 XYZ染色体とか本当にわけが分からなかった。


【ほほう。体内に流れる血に川のような流れが。面白い考え方ですなあ。本官の身体もそうなっていると】

【……どうでしょうか。私の世界にオーガ族はいなかったですし、私と身体の作りが同じとは思えません】

【確かに。ですが血管の考えは面白い。いずれ他の神官にも話してみましょうかね】


 さらに俺はオーガ神父様と話し続けて、この世界の常識などを知ることができた。


 またオーガ神父様も地球に興味津々のようで、色々と聞かれた。


【魔法がない上に人は人間しかいない。しかも同じ人間同士でも言語が違って言葉が通じない……信じられない世界ですなあ】

【私からすれば魔法があって、多種多様な人間がいて、かつ知性がある相手なら誰でも言葉が通じるのが信じがたいですよ】

【互いに信じられない。それほど理が違うからこそ、地続きではない異世界なのかもですなあ】


 オーガ神父様はうんうんと頷くと、ニッコリと微笑んだ。なお鬼の面だから笑っても怖い。


【ひとまず貴殿は体内に魔力を循環し続けなさい。ただ常に身体を動かすようなもので大変でしょうし、もし辛くなったら本官の方で外に排出させましょう】

【ありがとうございます】


 まあ外に出す気はないのだが。俺は強くなりたいからな。


 あの理不尽なゴミ野郎に殺されたのは、何度思い出しても腹が立つ。それに死を目の当たりにして怖かったのだ。


 もう二度とあんな経験はしたくない。そのためには力だ、力こそが全てを解決するんだ。


【本官が保証しましょうぞ。もし魔力の殻を完全に取り込めれば、おそらく相当な力を得ることになるでしょう。ただ懸念もあり……】

【懸念?】

【……いえ不確かなことは言わないでおきましょう】

【すごく気になるのですが】

【申し訳ない。本官としても予想でしかなく、神に仕える者として不確かなことは言いたくないのです。聞かなかったことにして頂きたい】


 すっごく気になる……でもオーガ神父様は教えてくれなかった。

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