第4話② 見初め


 イーラお嬢様たちにバレないように、僕はまず四つんばいの姿勢を辞めて床に這(は)いつくばった。この方が音も気配も消せると思ったからだ。

 

 でもすぐにその考えが間違っていたことに気がついた。カーペットと服がこすれて、さっきよりも音が出ている。


 出口に近づくにつれ、心臓がはち切れそうな程の緊張感が僕の全身で増していく。

 

 勝手に持ち出そうとしていたことが知れたら、向こう一週間はミザリーさんに会えなくなる。それを思うと紫のドレスを握っている右手が痛い。こんなにも、絹のかたまりが重く感じるなんて!


 どうか気づかないでくれ、そんな願いを繰り返しながらゆっくりと這い続けていると、ついに僕の視界が出口の扉を捉えた。


 ここで慌てちゃだめだ。まずは周りを確認しないと。見るとイーラお嬢様たちは、もう部屋の奥まで移動しているようだった。


 今だ! 一瞬そう感じるや否や、僕はクラウチングスタートをかけるように出口を飛び出していた。


 よし、無事に脱出成功......!


 なんて、再三になるけれど現実はそう上手くいくはずもなく、僕は部屋の前に待機していたボディーガード役の召使に腕をひっつかまれたのだった。


 そりゃ、万が一のことがないようにこんなに召使を引き連れているんだから、こうなるか。 


 きちんと忍び込む前に計画を練っておけば良かった。今回ばかりは僕のミスだ。


「お前、どこへ行く。まだお嬢様は服を選んでいらっしゃるところだぞ」


 僕の腕をがっちりと掴んでいる大柄の召使は、目元を尖らせて凄むように言った。


 でも、節穴らしい。この男は僕をお色直しのお付きだと勘違いしている。


「ちょっとそこまで、お花を摘みに......」


 ということはまだ切り抜けられる可能性がある。僕はすぐに笑顔を作って返した。


「ふん、男がそんななよなよとした言葉遣いをするな。早く行ってこい」


「はいっ。それじゃあ......」


「ちょっと待て、お前その手に持っているものはなんだ? まさかお嬢様のドレスを男の便所に持っていくつもりじゃないだろうな?」


「......あはは。そんな、まさか......」


 男に背を向けながら僕は大きく息を吐いた。回れ頭。生まれろ機転。なにか、切り抜けるための言い訳を考えつけ!

 


 






 

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不死身の悪役令嬢は愛に飢えている 翔鷹 @kakukakukunn

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