第14話 遺物

 旧日本軍の地下施設からシールドマシーンを登った先は閉鎖され店舗の入っていない地下街だった。

 

 通路の幅は6m、天井までの高さは3m。

 

 壁面はタイル張りでレトロな昭和の雰囲気を残す内装の地下街だった。


「高度経済成長期の遺物だ」

 

 英原はそう言うとタブレットを見ながら進んで行く。石通は英原から離れないように後をついていく。


 暗闇の中、地下街を進むと遠くから水気を含んだ何かが這いずってくる音が聞こえた。何かがこちらに近づいてくる。

 

 英原と石通は立ち止まった。

 

 徐々に近づいてくるので通路を離れ、店舗が入るはずのスペース、空き店舗に身を隠した。進行方向から見えないよう死角になる場所へと隠れる。

 

 体長4mのクリプトビアビナントが地下街通路を横切った。

 

 通路の途中でクリプトビアビナントは立ち止まる。通路でしばらく止まったままになった。

 

 しばらくして石通と英原に気付くことなく通路のほとんどを覆うほどの体で通路を八本の足で進んで行った。


 石通と英原は、クリプトビアビナントの気配が遠ざかるのを確認すると音をたてないように通路に戻り再び前進した。


 英原は、別れ道があってもタブレットを見ながら迷わず進んで行く。

 

 壁に大きな空いている場所に辿り着いた。

 

 不自然に空いた穴。奥に土があり、水で土が流れ出ていた。

 

 老朽化や地震でケアされていない壁を巨大クマムシ、クリプトビアビナントが破壊した穴だと思われる。

 

 英原と石通は穴の中を進んで行く。

 

 コンクリートの外壁が終わると土の洞窟になる。いつ崩れてもおかくない。

 

 洞窟のトンネルの先にはまた地下構造物がある。外壁は破壊され、中に空間があった。

 

 英原は迷わず中に入った。

 

 クリプトビアビナントが開けた穴なので遭遇する確率は高い。石通は戸惑ったが後に続く。

 

 空いた穴から空間内の地面には高低差があった。空間の天井から空間内に入る形となった。

 

 まず、英原が飛び降りた。水面の上に着地し、水の上に飛び込む形となった。石通も空間内へと入った。

 

 英原がライトを照らすとトンネルの中だった。足のすねまで水に浸かった。

 

 水の流れるトンネルの中を進んだ。


「後もう一息だ」

 

 英原はタブレットを見ながら言った。

 

 先に進むと光が見えてきた。

 

 水も光へと向かい流れ落ちている。

 

 出口だった。

 



 英原と石通はトンネルから地上、屋外へと出た。夕日に照らされる。

 

 今まで通ってきたのは下水道の雨水菅で、川への排水口から外へ出た形となった。

 

 目黒川のどこかだった。

 

 川の水位は足の脛が浸かる程度だった。

 

 水で体を洗う。


 多くの人々が行きかい川沿いの道路は車が渋滞し、クラクションを鳴らしている。

 

 梯子を登り川沿いの歩道へと上がる。

 

 英原は、歩道の地面に座り込んだ。


「お互いひどい姿だな」

 

 英原は微笑みながら石通を見て言った。

 

 道路には車と人々が行き交う。


「これから迎えがくる。君に手伝ってもらいたい事がある」

 

 石通は急いで逃げようと立ち去った。


「待ってくれ!!」


「これで」

 

 川沿いの道を歩いて行った。


「待て」


 無視して帰る。


「時間は限られてるものの、人手が足りなくて困ってる。他の人員を手配してる時間がない。君の協力が必要だ」

 

 振り返らず進んだ。


「奴らを倒すための対抗策として試作兵器を用意してる。私は詐欺師ではないので言うが危険な場所に行くことになる。しかし、迅速に今回の事態を解決できれば被害を減らせて多くの人の役に立つだろう」


「すみません。なおさら勘弁してほしいです」

 

 歩きながら応答する。


「おい!待て!私に会わなければ君死んでたよ」

 

 恩を着せるという最終手段に出たが、義憤を込めた気持ちもあった。


「感謝はしてますがそれとこれとは別の問題です。あとその辺にいる人間に頼むことじゃないと言う事はわかりきってるでしょう」


「奇跡的に旧日本軍地下壕内で偶然会ったのは意味のある事だと思ってる」

 

 石通は歩き続けた。

 

 英原は何も言わなくなり、歩きながら追いかけるのを辞めた。

 

 このまま帰宅して何になるのか。

 

 現実逃避をしたくて夜な夜な歩くのを習慣にしていたからこんな事になってしまった。 自宅に帰宅して何になるのか?

 

 頭のおかしい二人組にトンネルへと閉め出された人たちはどうなったのか。向かいの座席に座っていた石通と同年代ぐらいのあの女性はどうなったのか。駅員と茎家は無事に駅までたどり着けたのか。

 


 沈みかける夕日に照らされる川を見た。

 


「ええ。自分も一緒に行きます」


「本当に感謝する。この件に関する礼は必ずする」


「情報を知った口封じに殺されたりとかしないですよね」

 

  間をおいて英原は言った。


「約束する。我々はそういった団体ではない」

 



 夕日が沈み、暗闇に包まれた。

 

 石通と英原は川沿いのビルもしくはマンションの空地に佇んでいた。

 

 夜空を飛ぶ一機のヘリコプターが近づいてくる。

 河原周辺がライトで照らされ、周辺一帯が騒音と光に包まれる。

 

 ヘリの下部には水面を走行できる水上バイクが吊るされていた。空地へと到着し、慎重に水上バイクとヘリをスペースのある空地へと着陸させた。充分に着陸できるスペースがあった。

 

 石通と英原は、ヘリの機体に近づいていく。側面ドアを開き、後部席にいる男性が姿を現した。

 

 ヘリの起動音でその他の全ての音はかき消される。

 

 英原が手を上げると男性はヘリに乗り込むような合図で手招きした。

 

 ヘリに乗り込んだ。

 

 後部席へと座る。

 

 ヘリに乗っていた男性が英原と石通にヘッドセットを手渡した。

 

 ヘッドセットを装着した。

 

 ヘリは離陸する。

 



 東京の街の上空を飛ぶヘリの中、石通は窓から外を見る。深夜徘徊してる時は街は光輝く光の街だっが見る影もなく暗闇と黒煙に溢れ、そこら中に爆発や火の手が上がっていた。

 

 石通が乗るヘリ以外にも多数の民間機、無人機、UHー2やCH47Jなどの自衛隊機のヘリが飛び交っていた。

 

地上では自衛隊車両のライトが確認でき、道をたくさんの人々が逃げ惑う。

 都民の避難誘導を行いながら陸上自衛隊とクマムシが各所で戦闘を行っていた。

 

 23区台東区を通る昭和通り。8車線道路。車両は路肩に寄せられているものもあれば真ん中で乗り捨てられているもの、炎上して大破してる車両もあった。

 

 通りには、投入された普通科連隊の陸上自衛隊隊員が多くいて対応にあたる。混乱状態でバラバラになり分断されていた。


 通りを埋めつくす無数のクリプトビアビナントの大群が北上しながら進んでいた。5m以上の大きさのものが多くいた。

 

 様々な種類の個体が入り乱れていた。オニクマムシ型が一番多くいて、ヨコヅナクマムシ型、ヨロイトゲクマムシ型も確認出来た。

 

 自衛隊隊員が自動小銃の20式小銃、89式小銃、機関銃MINIMIを発砲しながら応戦する。

 

 携帯型対戦車砲84mm無反動砲を装備している隊員も群れに向かって発砲している

 

 怒号が飛び交い、自衛隊車両のLAVやトラックが街中を行き交った。

 

 都民の避難を援護しながらのため攻撃体制が整っていない状況で未知の敵に対して押され気味になっていた。

 

 離れた交差点からMBT10式戦車、MMPM(中距離多目的誘導弾)搭載車両が投入される。


 MMPM車両は誘導弾を発射し、MBT10式戦車は44口径120mm滑腔砲を砲撃する。


 進行中の大群へと着弾する。

 

 爆発した。


 爆発の爆風と煙の中で大群がモゾモゾ動いていた。

 

 数体は、白い炎をあげて撃破された。クリプトビオシスで防御しながら進行する。

 

 特に重装甲のヨロイトゲクマムシ型の個体はもろともせず効果はなかった

  

 大半はクリプトビオシスで防御されてしまう。吹き飛ばされた後も生き延びていた。

 

 市街地を進行している個体の大群の群れに体長15mのカザリヅメクマムシ型の個体も合流した。

 

 クリプトビアビナントの大群は道路を進み続けた。

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