第13話 執着

 石通は目を覚ました。

 

 光があたりを照らしていた。


「起きたか」

 

 石通は起き上がりあたりを見回した。

 

 携帯型の小型ランタンの光の向こうに初老の男性がいるのがわかった。男性は変わった姿をしていた。プロ仕様スキューバ用のダイバースーツを着用していた。横にタンクと機材を置いていた。


「崩落や浸水の危険があるからここに長居は出来ない」

 

 石通は言葉が出なかった。


「どうやってここへ来た?」

 

石通は初老の男性の問いかけに本能が反射的に反応するように詰まりながら答えた。



「信じられない話かもしれませんが・・・地下鉄トンネルが崩落し、地割れした地面から水に流されてここへたどり着きました・・・」


「奇跡だな。地下鉄トンネル崩落に関しては把握してる。奴らの活発的な活動でそこら中で地盤沈下が起きてる」


 機材とボンベを背負って立ち上がった。

「すまんが長居はできない、ついてきなさい」


 石通は怪しい初老の男の後をついていく。スマホもなくなり、彼の明かりについていくしかない。暗い謎の地下トンネル内で勿論朽ち果てるのは望ましくない。


 頭痛と体に軽い痛みがあった。ヨタヨタと立ち上がり初老の男の後を追った。

 しばらく、無言で地下道らしき場所を二人で歩いていった。


 まるで洞窟のようで結露や地下水の浸食らしき水が雨のように常に降っている。床は浸水していなかった。


 地下鉄の終電後、起きた出来事の全てが理解出来ない事ばかりで現実感が沸かなかった。だが目の前にある疑問は認識できた。


投げやりになっている精神状態も後押しし、見ず知らずの初老の男性に疑問を投げかけた。


「ここはどこで、何をしてたんですか」

 

 初老の男性は、歩きながら一瞬振り返った。

 

 少しの間の後、口を開いた。


「ここは防衛省の公表していない旧日本軍の地下軍事施設だよ」

 

 怪しい初老の男だったが石通は内容よりも素直に返答した事に驚いた。

 

 嘘を言っていたとしても不思議ではないが嘘をつく必要性がない。若しくは頭がおかしいのかもしれない。


 初老の男は話しを続けた。


「今起きている事態の解決のための調査を行っていた。我々はあの怪物を以前から関知していた」

 

 2004年。スマトラ沖地震。地震後、インドでの地質調査であの生物の化石が発見された。そして我々の団体が介入して調査を続けていた。

 

 そして2011年東日本大震災。その後、東北地方である物が発見された。あの生物の死体だった。あの生物たちはすでに地上へと進出し始めている事を関知した。

 

 生物の活動を活性化させたのは地震で、地震が多発しやすい地域から発生しているというのが有力な仮説だった。インドネシア、ネパール、中国でもあの生物の化石、死体が確認されている。

 

 古代から存在するあの生物を眠りから目覚めさせたのは地震だった。

 

 生物の解剖、解析から様々な収穫を得ることとなった。

 

 古代カンブリア紀から存在するあの生物は、DNA解析から微生物のクマムシと同じ遺伝子情報を持つ生物だという事。

 

 絶滅の危機を回避し地下生物圏に潜る事で回避していた。

 

 クマムシが分類される緩歩動物とは異なる。

 

 俊敏に動く事が可能で攻撃性と凶暴性を持ちながら水陸問わず活動でき、クマムシと同様の乾燥状態でのクリプトビオシス能力を有している。


 極限環境適応地底生物、通称クリプトビアビナント。

 


 クリプトビアビナントはクリプトビオシスの能力により、微生物のクマムシ同様あらゆる環境に適応する。深海、宇宙空間、百熱、絶対零度、放射能。

 

 クマムシのクリプトビオシスは、自分の体を乾燥状態で硬化させ、仮死状態を起こし、水分に触れる事で仮死状態から復活を行う。


 クリプトビアビナントはいかなる状況下でも、体内に保有した水分と水場に近づく事で無敵状態のクリプトビオシスを自在に操れる。

 

 我々のグループは海外拠点と資本を置いた背景を持っている。国内、世界からも物好きで有能な人材を引き抜いてチームを作った。秘密裏に行動し、調査を続けてきた。


 今回も国土交通省と防衛省の管轄施設に非公式に侵入する必要があった。

 

 20年かけてクリプトビアビナントを追ってきた。

 

 そのリスクに見合う解決策を持ってる。 

 



「まるで陰謀論ですね」

 

 歩きながら話を聞いていた石通が言った。


「残念ながらこれは現実だよ」


「ゴジラvsデストロイヤーのような状況ですけど、解決策なんてあるんですか?」

 

 石通は疑問を投げかけた。


「地上に出たら話す」

 

 真意はわからなかった。


「私の名前は英原。君は」


「石通と言います」

 

 英原はうなずいた。

 

 旧日本軍の地下壕内部を進む。相変わらず殺風景に代わり映えのしない景色だった。歩きながら画面に見取り図らしき図が写っているタブレット端末を見ながら進む。

 

 あたりをライトで照らした。

 

 壁に埋め込まれた鉄製の梯子を見つける。梯子の先は天井で何もない。

 

 ライトで天井を照らす。天井からは水が染み出していた。


「竪穴通気口だ。脱出路でもあった」

 

 先に進んで行くと通路が破壊され、異様な光景が広がる。

 

 目の前に立ちふさがるのは模様の付いた鉄の壁だった。


「シールドマシーンだ」

 

 トンネルの掘削に使う地中用の重機。

 

 ライトを照らし近づくと破壊された通路からさらに上にも空間があった。

 

 地下壕の通路は幅1m、高さ2m程だった。シールドマシーンの刃が付いた先端部分は円形で14m。


「地上に脱出しなければならない」

 

 英原はシールドマシーンを登り始めた。破壊された地下壕の通路とシールドマシーンの間には人一人が入れる隙間があった。

 

 シールドマシーンの刃をボルダリングのように登った。

 

 シールドマシーンの刃は強度を重視する性質上、鋭利ではない。先端が回転し遠心力により掘削を行う。

 

 ボルダリングの突起物のように手足をかけ、石通も登る。英原の後を追った。

 

 英原が登ると金属がぶつかり合う音がした。

 

 さらに上の地下空間へと進んだ。

 

 地下壕の天井、さらにコンクリートを経て空間へと辿り着く。

 

 部屋の中に出る。

 

 シールドマシーンは部屋の床下から突き出した状態だった。

 

 シールドマシーンは工事完了後、地下に遺棄されたままになる。東京都内の数百のシールドマシーンが眠ったままである。

 

 しかし、これは特殊な事例だろう。工事に手違いかもしれない。

 

 部屋から出ると仕切りのある広い部屋の中に出て、先に通路が見えた。正面にも仕切りのある部屋があった。

 

 英原は先へ進む。石通も後を追う。

 

 通路へと出る。

 

 広い通路に仕切りのある空の部屋が無数にあった。

 

 

 閉鎖された地下街だった。

 

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