第9話 暗闇

石通

 

 怪物を車内に一か八かで引き入れた。

 

 怪物と人に危害を加える危険な男が車内を追ってくる。

 追ってきた男に追い付かれそうになった所でドアを閉め、男と対峙する。

 

 茎家と駅員に先に行くよう促した。

 

 一瞬迷ったが茎家は悔し気に前を向きやむおえずに先に進む。

 

 自己犠牲的行動をするつもりはなかったが咄嗟の判断でその形になってしまう。連結部の狭い空間で赤い服の男は連結部貫通扉のガラスをガンガン叩いたり、引き戸を引こうとした。


「お前、只じゃ済まさないからな、バラバラにしてあいつらの餌にしてやるからな」


 赤い服の男は脅迫を行ったが石通は必死で連結部貫通扉を優先席に足をかけてつっかえながら押さえつけた。 


 八方塞がりの状況となる。咄嗟に体が動いて行動に至った。最適な判断ではないかもしれないが茎家達が逃げる時間を稼げる。刃物を持った相手に対して二人がかりでも無事では済まないだろう。


「すいません、すいません」


 反射で謝罪しながら、押さえ続けた。


「開けろ雑魚!!」


 扉を引っ張られ連結部扉は何回も開きそうになる。扉を突破されるのは時間の問題だった。この男に殺される。


 突然、連結部内の天井の幌が裂けた。

 

 赤い服の男の頭上に先程の小型の怪物が大量に降り注いできた。小型生物は連結部の幌を引っ掻きながら穴を開け中へと入ってきた。


 小型生物は、連結部の中で赤い服の男の体中にへばりつく。


 お願い。ここに立ち止まらないで下さい。

と書かれた注意書きに大量の血液が飛び散った。


 ガラスに血液が飛び散り続けながら連結部の狭い空間で赤い服の男が叫びながら前後の扉にぶつかり続けた。


 その間も石通は、目を瞑りしばらく押さえ続けた。

 

 連結部の中で男は完全に倒れ込み動かなくなった。

 

 ガラスに大量の血液が飛び散り付着し、真っ赤に染まる。

 

 見ると赤い服の男の男は膝を折り、扉のガラスに向けて倒れこんでいた。事切れた赤い服の男の体にまとわりつきながた周りを無数の小型怪物が蠢いていた。

 

 裂けた幌から定期的に数匹ずつ落ち続けやまなかった。


 小型の怪物は口からでかい針のような物を出し、赤い服の男の体を突き続け、事切れた後も赤い服の男の血はガラスに飛び散り続けた。扉の強化ガラスが血で真っ赤に染まっていった。




 石通は、貫通扉を離れ、茎家を追い最後尾車両へと向かう。

 

 この数時間で地下鉄の車両内の端から端まで移動するのは2回目となる。

 

  

 連結部を何回も越え、最後尾車両、4両目へとたどり着くが駅員と茎家の姿はなかった。

 

 乗務員室へ近づくと貫通扉は開けられ、トンネルが見える。



 浸水状態のトンネルを進んでいる茎家と駅員の姿が見えた。全体的にトンネル内部のひび割れが先程よりも進行していた。


 駅へと避難しようとした時にトンネル内にいた怪物の姿はなかった。場所を変えたのかもしれなかった。


 石通は茎家たちの後を追い、乗務員室を通り、貫通扉の梯子でトンネルへと出る。


 浸水した水へと浸かる。


 水位は上昇していなかった。先頭車両で浸かった時と同じくらいだった。水中にあの小型の怪物もいるかもしれないが強行して脱出を急ぐしかない。


 浸水したトンネルを急いで進み、駅を目指した。このまま家に帰れる。


 先にいった茎家たちは緩やかなカーブに差し掛かろうとしていた。

 

 突如としてトンネル内全体が地震のような強い揺れに見舞われた。天井が崩落しはじめ、天井が崩れ落ちる。


 石通は完全に面を食らいパニックになる。


 崩れた天井から白い巨体の巨大な生物が姿を現した。トンネルいっぱいの大きさの巨体だった。


 トンネル一杯の体の巨大生物は八本の足で丸まった状態で浸水した線路の上に降りったった。行く先に立ち塞がる。白い体の巨大生物に目はなく、口がついていた事が確認出来た。


 地下鉄トンネル内の地面が揺れ、地面が崩れ落ち、崩落する。


 轟音と共に水が激流になり流れていき、石通は水の流れに逆らえずに地下鉄側に流されていった。

 

 

 地面が割れ、水と一緒に地割れした。どこにもつかまることが出来ず、激流に押され、地面に吸い込まれていった。




男 5分前



「開けろよ!!」

 

 赤い服の男の声が響く。扉を蹴ったり、叩いたりしていた。

 

 乗務員室で、扉の鍵を閉め様子を伺っていた。

 

 諦めて赤い服の男が逃げた後、もう一人の男の断末魔が響き渡った。


 若い男性は苦しみの叫びを上げた。


 乗務員室からトンネルを見た。


 地下鉄トンネルが亀裂やひび割れなどが起き何らかの劣化が生じているのが確認出来る。先程いた、大型の怪物の姿はなかった。


 他の乗客を入れないように閉め出したときに、壁に退避出来ていた乗客たちを見た。壁に退避できる場所がある可能性があった。


 この情報は先程、車内にいた他の人間に教えずに持っていた。


 乗務員室前では男性に小型の怪物が群がる。


 乗務員室の前で襲われている男性の叫び声、断末魔が響き渡る。


 少しでも小型の怪物の数が減っている事を祈った。


 貫通扉の扉を開け、急いで浸水状態のトンネルを進んだ。


 浸水状態のトンネル進みながら、足に無数の生き物の感触を感じるが踏んでも無視しながら進んだ。


 トンネルの途中に、亀裂から生じた穴を発見した。すぐに体をねじ込んで、中へと入った。



 地下共同溝にたどり着く。

 

 多くの配管が通る通路を進んで行く。

 

 地震の震動で揺れと遠くで轟音が鳴り響いた。

 

 通路に流れる水が流れていく方向を進んだ。

  


 立坑へとたどり着く。キャットウォークから底部の巨大なトンネルが見えた。

 

 体長5m程の怪物が徘徊しているのが見えた。怪物は気づいていない。

 

 


 トンネルを通り立坑を通り過ぎてしばらく待って怪物の行った先と反対方向の6mの巨大トンネルを進んだ。

 

 

 地下共同溝トンネルを通り、立坑に再びたどり着く。上部にあるキャットウォークの途中の扉へと入った。


 通路を通り、水密扉を開け、汚水幹線へとたどり着いた。

 

 汚水幹線を横切る点検通路用の橋を通る。

 

 天井に小型の怪物が張り付いていた。黒い服の男に飛びつき首元にしがみついた。


 八本足で張り付きながら口針を伸ばして顔に刺そうとした。

 

 方向感覚を失いながらふりほどこうとして、橋の梯子降り口からから汚水管の底へとダイブした。


 3メートル程下のトイレの水などの生活排水の水へと浸かる。

 

 轟音の中から化け物のうめき声が汚水幹線の中で響き渡った。


 直径、6m汚水管線いっぱいの大きさのサイズの怪物が汚水菅の中を八本足で這いながら男に近づいてきた。


 男は汚水の中で汚水のヌメリで足を滑らせる。

 

 体を伸縮させ橋をかわす。

 

 汚水の色と同化した怪物はスピードをあげ、男に追いつきのしかかる。

 

 体重をかけたまま口で頭から男を汚水菅の中で丸呑みにした。

 

 男の体が怪物の粘膜の中に入っていた。

 

 怪物は、男を取り込んだまま汚水菅の中を移動した。水が流れるように傾斜がかかっているが傾斜を登った。


 男は、怪物の体内でもがくがその間、トイレなどの生活排水が怪物の体内の中に流し込まれ、男は汚水に漬けこまれる。

 

 怪物は汚水菅の接続室へとたどり着いた。

 

 3つに伸びる管の一つに体を入れた。今まで通ってきた汚水幹線よりも、狭い4m程の菅だった。

 

 怪物の体が伸縮し、怪物の体内にいる男の体が圧迫される。男の体の骨が数カ所か骨折する。消化液が少しずつしみ出てきて体を火傷し、怪物の体内へと大量の汚水が流れ、再び男の体は汚水につけられる。

 

 しばらくすると接続室へとたどり着き。怪物の体から汚水がひいていく。

 

 接続室からまた他の菅へと移動した。男の体は骨折し、汚水を流し込まれ続けた。怪物の汚水幹線内の移動は続くのだった。


 男の断末魔が誰かに届く事はなかった。

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