第8話 死体

美咲


 10分程経過する。


 無機質なトンネルがひたすら続く。


「あの二人組の人たちはなんなんですか?もう本当に最悪。そのせいで私たち逃げ遅れてるし、もしかして電車に戻れなかったのもあの人たちのせいでしょ」


 無言で歩いていたが堪えきれなくなった様子で女性が話し出した。


「あいつら頭おかしいのかもな。絶対に出られたら警察に通報して、ネット上でも拡散したい」


 男性も憤りを語った。

 車掌は何も言わなかった。たぶん怒ってる。


 しばらく無言で歩き続けた。

「まるでポセイドンアドベンチャーみたいデスネ」


 歩きながら美咲の隣の外国人男性が突然呟いた。


 美咲はわからなくて男性を見る。


「なんですかそれ?」


 美咲ともう一人の女性が訪ねた。


「映画だよ。豪華客船が転覆して真っ逆さまになる。船の底部が上になった乗船客が底部からの脱出を目指す話」


 初老の男性が答えた。


「ソウデス。あの映画みたいにシンスイしている所を潜る事になるかも知れませんネ」


「それは笑えませんね」


「エエ。ツマにもよくオコラレれます」


 美咲は苦笑した。


 何度目かのカーブを曲がり、遠くに何かがあるのに全員が気づく。


 進んで行くと人が倒れているのに気づいた。


 徐々に近づいていくと状況がわかった。


 倒れている人は血だらけだった。


 異様な光景が広がる。


 倒れている人の前までたどり着いた。


 すでに死んでいた。体の数カ所に穴が空き、顔は潰されていた。遺体には粘液が大量に付着していた。


 異常な死に方であの怪物の仕業と考えるのが自然な流れだった。


 しかし遺体は不自然な不審な点があったダイバースーツを着ていた。黒い服を着ていた事は遠くからでもわかっていたが、近くに来て確認出来た。


 全員、言葉を失う。


 動揺したが、様々な不審な点に違和感を感じた。


 美咲は数時間前にこの事態に直面して面を食らっているがまるで準備してたみたいにプロ仕様のダイバースーツとダイバータンクを所持している。


 その他にも壊れた精密機器と壊れた無線を所持していた。


 トンネルの先を見るとさらに50m程先に美咲たちがさっき通ってきたような立坑が再び見えた。立坑の先にはまたトンネルがあった。先のトンネルは照明がついておらず真っ暗闇となっていた。


 どうすることも出来ないため遺体はこのまま置いて行くしかなかった。


 ここで犠牲になった人間がいるという事はあの怪物が近くにいると言うことを示していた。


 慎重な対応が求められる。


 移動する事を提案したのは美咲だった。


 責任を取ろうとした。


「私が立坑まで様子を見てくるので、ここで待ってて下さい」


 他の4人は困惑した様子だった。


 美咲一人で進んで行く。


 慎重に壁伝いにゆっくり進んだ。美咲は壁伝いに進む。


 車掌が後からついて来た。反対の左側の壁沿いを進み美咲を追う。


 トンネルは広く直線なので見通しは良い。


 でも、もし怪物が姿を現した場合、逃げ切れるかわからなかった。


 立坑まで特に何事もなく無事にたどり着く。


 来たトンネルからさらに先に地下共同溝トンネルは続いていた。


 立坑内を見て回る。


 暗闇のトンネルの先に怪物がいるかもしれない。

 

 それが恐怖だった。


 立坑内は先ほど通った立坑と同じ構造になっていた。


 トンネル途中に残った3人に合図を送る。


 3人は立坑へと来た。


 5人で立坑内を捜索する。


 階段への扉は、閉ざされて、エレベーターも電力がなく、上に行ったままであった。先程の立坑同様、立坑から地上への脱出は出来なかった。


 上の階のキャットウォーク途中にある鉄製の扉は唯一先に進める扉だった。


 扉を開けるとしばらく全面コンクリートの通路が続いていた。


 美咲は先を進む。


 他の4人は美咲の後をついて行く。


 通路を進むと先に水密扉へとたどり着く。


 船の船内で使用されるようなタイプの水密扉だった。


 通路の壁面には配線や配管が通る。


 通路を進んで行くとドブ臭い香りが漂う。


 水密扉のハンドルを回し、水密扉を開けた。


 扉を開けた先に暗闇が広がる。


 水が流れ、川が流れるような音が聞こえていた。


 初老の男性がライトで照らすと人二人分が通れる程の通路の先に同じような水密扉が先に見えた。


 通路には手すりが点いていて、通路の横を見ると円形の管の中にいることがわかった。 

 

 通路の下には緑色の川が流れる。左右に暗闇が続く。


「ここは汚水管の中か」


「通りで」


 5人とも様子を見た。


 直径6mの汚水幹線の中にいる。地下鉄のトンネル、地下共同溝と同じレベルの大きさの汚水管だった。


 通路は扉から扉まで幹線を横を切るための橋で空中を跨ぐ連絡通路になっていた。


 管の半分の高さの位置にあった。


 梯子が下に伸びており、点検用通路に降りられる。

 

下には汚水が流れていた。


 空間内部に轟音が鳴り響いていて、換気のなされていない公衆トイレのような臭いだった。


 通路を通り、水密扉を開け次の部屋の通路へと進んだ。


 横にはメーターや計器が並ぶ横を通り過ぎる。


 また通路をしばらく進む。


 通路はしばらく続いた。


 階段を登り、上階へと進んだ。


 多くの巨大な機器が並ぶ、工場のような広い空間の場所へと出た。

 

 窓があり、薄暗い外の空が見えた。


 全員無言で施設内を進んで行く。


 階段を上り、学校の体育館を思わせる2階のキャットウォークを通る。


 見た目は普通の扉だが重い密閉性の高い扉を開け、次の通路へと移動した。


 ガラス張りで通ってきた広い空間が全部見える場所へとたどり着く。


 壁に、ポンプ施設、沈砂池の大きい文字での表示があり、施設の機能や説明が図解で説明されていた。


 ポンプ施設は、汚水管から汚水を汲み取るための施設。沈砂池は汚水の中の土や砂を底に沈ませ、取り除くための施設であると説明が書いてあった。


 汚水処理に関する説明だ。下水処理場、水再生センターにたどり着いた事を意味していた。

 

 また機密性の高い重い扉を開け、屋外へと出た。


 地上に出ることが出来たという実感を感じた。


 ほのかにドブの臭ささがするが、まるで数年ぶりに外の空気を吸ったような感覚だった。


 ドブの香りがちょっと入ってても空気が美味しく感じる。


 美咲たちがいる場所は、水再生センターの敷地の管理塔にあたる建物の2階に当たる部分だった。



 そのまま屋外階段で上の階へと登る。


 建物の扉は閉ざされており、建物内に入ることは出来なかった。


 3階の通路から敷地の半分が見えた。


 東京湾に面していて、処理施設、公園、建物を確認出来た。


 敷地の外、街ではそこら中で黒煙が上がっていて、パトカー、救急車、消防車のサイレンが鳴り響き、騒然とした様子が窺えた。


 スマホの画面を見ると電波が回復していた。



 美咲のスマホの電池は19%残っていた。

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